トイフェルに乗り込むまであと一週間となった時。
私は、ロドス奪還時にかなり重要な任務を背負っているある二人に、一人ずつカウンセリングという名の話をすることにした。
「マホガニー、よく来てくれたね」
そう、マホガニーである。
「なんか話すことあるって聞いたから来た。ツルギは通路で待ってる」
と言いながらマホガニーは私の向かいの席に座った。こうして見るとやはりマホガニーは六歳で、体が小さいんだなと改めて思い知る。
「うん、あとでツルギとも話をするんだ」私は頷いた。「最初はマホガニーと二人きりで話そう」
「ロドス奪還の話か? ぼくの武器、色々改造して筋弛緩剤が出る仕組みにした話、まだ怒ってる?」
「怒ってないよ」
マホガニーの武器は、すっかりソーンズのあの武器とほぼ同じ形となり、特殊な調合をした筋弛緩剤が常に補充されるものとなっていた。さすがに毒の調合までは分からなかったようだが、相手の動きを封じるには充分な威力を既に持っていた。
「ふぅん……」
髪の色や顔立ちはソーンズによく似ているマホガニーだが、耳や尻尾があるレッドの面影も残す彼は、いつの間にかループスのような目つきになっている気がした。テーブルに出したジュースを一口飲む。
「あと一週間、トイフェルに乗り込む任務でマホガニーは前線に出てもらうけど、緊張しているかい?」
ジュースを一口飲み終えた様子を見守り、私は思い切ってマホガニーにそう訊ねた。マホガニーの耳が一回だけ揺れた。
「うん、緊張してる」マホガニーは素直に答えた。「だけど、早くパパとママに会いたい」
「そっか」
ニッと笑うマホガニーに、私は安堵感を抱いた。マホガニーはずっと、両親に会うためだけにその武器を振り続けてきたといっても過言ではない。
「パパとママに会ったら、最初になんて言うんだい?」
最後に、私はマホガニーに対して気になっていた質問をした。マホガニーはきょとんとした顔になり天井を仰ぐ。それからうーんと唸って、マホガニーはこう答えた。
「初めまして、パパ、ママ……かな?」
「そうか」
私は泣きそうになるのをグッと堪えた。マホガニーはもう覚悟しているのだ。この小さな体で耐えようとしていることに、私が泣いてしまってどうする。私は俯きながら何度も頷いた。
「強くなったな、マホガニー」
私はなんとかそう言った。
次にツルギをカウンセリング室に呼ぶと、すれ違いざまに見たマホガニーの顔をちらりと見ながら少し警戒気味に私と向かい合う席に座った。
初めて彼女の顔を見た時、なんて綺麗な銀色の髪をしているのだろうと思ったものだった。まだ彼女は赤ん坊で髪も薄かったが、電気に照らされてわずかに光っているように見えたそれを見て、私は「ツルギ」と名付けたのを昨日のことかのように思い出せる。
「ドクター、あたしとお話するの?」
口を開けば、繊細そうな女の子の声がツルギから発せられた。まるで魚のヒレのように跳ねた髪がギラリと揺れながら光った。
「うん、そうだよ。マホガニーと同じような話」
といっても、通路で待機していたツルギは、私とマホガニーがどんな会話をしていたかもう聞こえていたかもしれない。私は早速、マホガニーに向けた言葉をツルギにも投げかけた。
「あと一週間も経てば、トイフェルに乗り込む作戦が始まる。ツルギは緊張してるかい?」
すると、ツルギは大きな目を瞬きさせて、じっとこちらを見つめた。それから一言。
「ドクターの方が緊張してる」
ああ、そうだった。ツルギは自分より、いつも誰かのことを気にかけてくれる優しい子だ。マホガニーも当然優しいが、それぞれ気遣う一面が違うのも個性なんだろうと思う。
「……そうだね」
本当は戦わせたくなかった。あの小さな診療所で細々と生活していても良かった、という思いは私の中には未だ潜んでいる。と同時に、ロドスに帰りたいというのも私の本当だった。カウンセリングをする度に私は思う。人と話をする時は、自分の気持ちに改めて気づく瞬間なのだと。私はそう考えている。
「パパとママに会ったら、最初になんて言うんだい?」
私は、マホガニーに質問した言葉をツルギにも訊いてみた。ツルギはしばらく考え込んだ。何度も瞬きをし、マホガニーと同じ瞳をしたオレンジがかった黄色が、私の目を真っ直ぐ見据えた。
「大丈夫? って聞いた方がいいかな、ドクター」
少し自信なさげにツルギはそう答えた。それは、ツルギらしい一言だった。私はそれで充分だと思った。
「うん、いいと思うよ」
私は、ツルギの頭をぽんぽんと撫でた。