そうして思い思いの日々を過ごしていたたった一ヶ月間、心配していたトイフェルからの奇襲などはなく、特段変わったことも起こらなかった。
聞くところによると、ゼロたちは自分たちの存在意義に疑問を持ち始め、トイフェルを一気に畳み掛けるつもりで同志を募りながら言うことをなんでも聞いているフリをしていたらしい。そしてその規模が大きくなったところでトイフェルを脱走。スパイとして潜り込んでいるゼロの軍隊の情報からだと、トイフェルは大半の戦力を失って大混乱なのだそうだ。
私たちラズハはというと、トイフェルに乗り込む三日前には内勤オペレーターたちも安全なところに避難してもらい、その翌日には極秘任務のためにロープとネイルが先にトイフェルへ忍び込んでいった。ゼロからの情報を元に、トイフェルのリーダー、パラレルが起こす「嵐のアーツ」のカラクリを崩す作戦に出たのである。
「大丈夫だって! ちょっと盗んでくるだけだから!」
「ロープのことはしっかり連れて帰るから大丈夫!」
ロープはケラリと笑って、ネイルは自分たちが母娘だと情報を漏らさないようにコードネームで呼ぶようになっていた。こうして見ると、ネイルも逞しくなったなぁと思う。
「頼む」
私がそう言うと、彼女たちは息ぴったりに頷いて、トイフェルの拠点へ向かった。
私たちは、トイフェルが全体に見渡せる森の真ん中に停留していた。クロージャの加工でラズハは迷彩柄となっていたが、それでもトイフェルからの攻撃範囲内に入る訳にもいかず、歩いて行くにはかなり遠い。
トイフェルはロドスだった時の艦の形をほとんど残していなかった。多角形に作り替えられた艦はまるで何かの顔のように見え……ああ、そうか。あれはブルー生命体たちの項に刻まれていたトイフェルのマークの形だったのだと私は気づいた。我々は悪魔の魂である。そう自らの力を誇示するかのような、そんな形をしていた。
それだけではなく、トイフェルの周りには二十四時間常に小艦が巡回していた。見る限り四つあり、ゼロやブルーグラスからの話を聞く限り、その子艦に大量生産した兵器と化したブルー生命体が駐屯しているのだという。
その子艦からは、定期的に何かが放出されていた。それが、パラレルが嵐の天災を意図的に引き起こしている「石」であった。
「この石は、全ての術攻撃を吸収するが、唯一放出するアーツがあると判明しましたよ」とラズハの研究室で引きこもっているブルーグラスが話し始める。「嵐のアーツ……つまり、パラレルのアーツは、吸収したアーツを放出するようデスネ。命からがらパラレルのサンプルを持ち出した甲斐がありましたよ」
つまりトイフェルは、あの時の洞窟で見た同じ石をばら撒き、邪魔なものが来るとそれを媒介にパラレルのアーツで嵐を大量に引き起こし、潜入や脱走を困難なものにしているらしかった。その為、ロープとネイルはその石を盗むという任務をやって貰っていた。
石そのものを盗むのではない。石を製造する元を盗むのだ。
ブルーグラスは天才研究者だ。それはトイフェルを抜け出したあとも彼の研究技術や知識は引き継がれてしまい、そのままブルー生命体の製造は続けられていた。かつて雨乞いの儀式として使われていた何気ない石を、ブルーグラスの技術でコピー生産して。
しかしブルーグラスのその技術には避けられない欠点があった。それが、元となっている本物の雨乞いの石がないとコピー生産が出来ないことだ。
ロープとネイルはそれぞれ分担し、時には合流しながらその元の石を盗み、外に放り投げる潜入作戦に参加していた。一つ盗まれただけでは気にかけなかっただろう。だがまた一つ、そのまた一つと元の石が消失し、トイフェルに混乱が生じたところでロープとネイルはトイフェルから離脱。そして、ゼロのスパイがトイフェルの周りを飛ぶ子艦に仕掛けていた爆弾を爆発させるのが、私たちが動き出す合図となった。
ドォーン……!!
爆発する時には、ラズハは既にトイフェルの目と鼻の先に待機していた。索敵機はロープとネイル、ゼロのスパイたちで破壊、または錯乱しているはずだ。あとはパラレルが嵐を起こそうとして起こらなくなった異変に気づき始める時に、ゼロの軍隊が空から攻撃を仕掛ける……。
「私たちはゼロ! 同胞たちを解放する為にここに反乱軍として攻撃する!」
ゼロの声が響いた。ゼロはブルー生命体の自由を、私たちはロドス奪還のために。
任務開始だ。