双星方舟〜ラズハ・シップ〜   作:青瑠璃

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先へ

 

「しまった……!」

 トターは目がいいが、近くのものはあまり見えていない。どうにかして間近に詰め寄ったカジンが、トターを後ろから羽交い締めにしたのだ。

「トター!」

「「トターお兄さん!」」

「「トターおじさん!」」

 私はつい飛び出しそうになったが、隣にいたロゴスに引き止められる。ここで私が敵にやられる訳にはいかないのだ。

「砲撃兵、コイツを狙え!」

 カジンが自分の部下にそう指示を出す。砲撃兵が砲弾を装填したのを私は視界の端で見た。止めなければ……私は今ここで動ける人は誰なのか、周りの仲間たちを見回した。

「スノーグラウス!」

「分かった」

 返事は短かった。

 スノーグラウスが座っているR-0c改は唐突に浮かび上がり、次の瞬間にはカジンの頬に突進したのだ!

「うっ……!」

 カジンが倒れるのを見るより早く、スノーグラウスは片腕を広げてトターに向かって伸ばした。

「トター、こっちに来い!」

「了解」

 スノーグラウスはトターを素早く掴んでR-0c改に乗ったまま空を飛び上がった。直後、砲弾が放たれて壁に穴が空いた。倒れたままのカジンがずるりと吸い込まれるように穴の縁にぶら下がった。

「カジンが……っ」

 私はつい敵にも情けを掛けてしまいそうになって口を噤む。カジンは、空いた穴から落ちてしまったのだろうか? ここは地上からかなり高さがある。どんなに鍛えた傭兵でもこの高さから落ちたらただでは済まないはず。だが、ステレス持ちの彼を目視するのが難しい。

「おい、カジン隊長が落ちたぞ!」

「早く助けに行くぞ!」

「カジン隊長がいねーと俺たちもコピー兵器にされちまうぞ!」

 カジンの部下も慌てふためき、どうしたらいいんだと戦いの手を止めた。今ならここを切り抜けられるだろう。だが、ここでカジンを見捨てる理由はあるだろうか?

「トター、カジンの鈴は狙えるか?!」

 私はスノーグラウスにしがみついたままR-0c改に乗っているトターに聞いてみた。トターの回答もシンプルだった。

「可能だ」

「撃って!」

 私はトターにそう指示を出す。カジンのステレスは、彼の角にある鈴がそうさせているのだとロゴスから聞いた。トライディシャンについて知らなかったら、そんな指示は出していなかった。

「了解」

 トターは、クロスボウを構えた。そして、放たれた矢は少しも狂いなくカジンの角についていた鈴を破壊した。

「カジン隊長!」

「今助けます!」

 風穴の縁で片手だけでぶら下がっていたカジンが顕になり、兵士たちが続々とそちらに駆け寄った。

「おい、俺のことより奴らを止めろ!」

 と喚くカジンの声は聞こえたが、私たちは取り合わずに次の進むべき方へ向かっていた。私はマホガニーとツルギたちを振り向く。

「マホガニー、ツルギ、行こう!」

 私が声を掛けると、まだ残党と戦っている子どもたちの姿が見えた。

「でも……」

「ドクターは先に行ってて!」

 マホガニーとツルギは引き下がらなかった。敵はまだ数がいる。だけど……私は割り切れずに立ち止まってしまった。

「ここは俺たちに任せろ」

 と言って出てきたのはスノーグラウスだ。トターを下ろし、マホガニーとツルギの代わりに敵を倒してくれている。

「俺はここに残ろう。ドクターは先に行ってくれ」

 とトターも言った。

「スノーグラウス、いいのかい?」

 私はスノーグラウスに訊いた。彼だって一刻も早く両親に会いたいはずだ。だが、スノーグラウスは優しく笑って。

「あとで会う。あんたらが無事に連れて帰ってくれるだろう?」

 ああ、ここでもスノーグラウスはイケメンだ。そして、スノーグラウスが私たちに多大な信頼を寄せてくれているということも。

「もちろん」

 私は頷き、足元に戻ってきたマホガニーとツルギたちを見下ろす。まだそこまで疲労しているようではないし、抱えられているイウニとセネトの体調も良さそうである。私は声を掛けた。

「行こう、マホガニー、ツルギ、イウニ、セネト」

「「うん!」」

 四人はこう見ると兄妹だった。彼らは私たちの切り札だ。共に行動することに意味がある。

「急げ、こっちだ」

 ケルシーの声が飛び込む。私たちはこれから非常階段を上がらなくてはいけないようだ。私はこの場をスノーグラウスとトターに任せ、先へ進んだ。

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