外に出ると、ゼロが話していた通り、トイフェルは上と下で真っ二つになっていた。
私たちは真っ二つになった方の下にいて、トイフェルの拠点だったものが地面にぐしゃりと凹んだ缶のように墜落していた。
ケルシーから、皆が眠っている部屋の場所がどこにあるかは聞いている。あの上層側に行かなくてはいけないのだ。
しかし、トイフェルの上層部は浮上モードとなっていてかなり高いところにあった。登るための階段はない。
私はラズハの通信機を取り出した。もしものためにクロージャに頼んでいたあの作戦を始動する時かもしれない。だがそれは、通信機に電源を入れる前にすでに動いてくれていたのだ。
「ハロー、ドクター! 元気してる?」
クロージャの声が上から降りかかる。もしものために、クロージャには臨時用の子艦を用意してもらっていたのだ。もっとも、臨時用の子艦は私が何か言うより製作は始まっていたのだが。
「クロージャ! 私たちを上空に連れて行って欲しい!」
と私が言うと、臨時用の子艦は音を立てながらこちらに近づいてきた。
「オッケー! 今からそっちに着陸するよ!」
クロージャの返事が聞こえた。
子艦に乗り込むと、クロージャは慣れた手つきで艦を空へと上昇させる。
私はムースを振り向き、それからイネスへと目を向けた。ムースはソワソワしていたが、イネスはいつも通り落ち着いているから、さすがだなと思う。
「何よ」
イネスが私の視線に気づいて棘のある言葉を投げてきた。彼女の前では嘘や誤魔化しは無意味だ。私は思っていることを言葉にしようと思った。
「こうして君の目をよく見るのはそんなにないなって思って」
イネスは充分ラズハに貢献してくれていたが、ゆっくり話すタイミングはあまりなかった。話しても必要最低限だったし、カウンセリング申請も拒否されてしまった。だから私はつい、イネスと雑談をしたいと思ってしまうのだ。
「何もかも隠しているあなたがよく言うわ」
「それもそうだ」
イネスの言葉に私は軽く受け流すと、そんな回答なんてどうでも良かったかのように彼女は顔を逸らした。私は彼女の隣に並んでみた。イネスは、逃げる素振りはしなかった。
「ずっと、気になっていたんだ。君ともあろう人が、トイフェルの真相に気づけなかったことが」私は、ゆっくりと話し続けた。「それとも、本当はトイフェルが醜悪なことに気づいていてわざと雇われていた?」
私はイネスの顔を覗き込んだ。イネスは一瞬引きつった顔をしたが、すぐには取り繕って目を伏せた。
「それを答えたところで何になるのかしら」
実にイネスらしい回答だった。
私は顔を引っ込め、この子艦がいよいよトイフェルの上層部に近づき始めたことを示す画面へ視線を移した。あまりゆっくりお喋りをしている余裕はないようだ。
「いいや、何にもならないよ」私は答えた。「ケルシーからの情報だと、ヘドリーたちも冷却保存されているらしい」
みんな生きてる。それが私の何よりもの救いだった。きっとそれは、イネスも。
「どうしてヘドリーの話をするのよ」
「きっと気にしてると思ったからさ」
私はイネスの言葉に思わず笑みが零れそうになりながら抑えるように俯いたが、それはあまり意味を成さないように思えた。
「もう少しで着くよ! 出発の準備を!」
クロージャが声をあげた。私たちは出発の準備を始める。
イネスが、一瞬だけ私を振り向いた気もするが、それがどういう意味なのかまでは、真相は分からなかった。