双星方舟〜ラズハ・シップ〜   作:青瑠璃

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冷却保存室

 

「来たか」

 私たちが向かった先は、通路の行き止まりであった。

 私たちの姿を見るなりそう言ったケルシーは、やはりいつも通りであった。ケルシーの両隣にはレオンハルトとロゴスが並び、少し離れたところでマッドグリーンが待っていた。

「ここが……?」

 ここまで走ってきた私は肩で息をしながら訊ねた。主要オペレーターたちを冷却保存した部屋は一見行き止まりに見える通路の先にあるのだという。こうして見に来たのは初めてだったが、恐らくロゴスの呪術で何もないように見えるのだと思う。

「解呪するぞ」

 ロゴスが言い、行き止まりの壁にそっと手を当てた。するとそこからドアノブが現れ、みるみる内に扉へと形を変えたのだ。

 私は息を整えながらそれが扉に変化し終えるのを待った。私は一つの疑問が浮かんでいた。トイフェルには三柱のリーダーが存在する。それがカジンとアイディーだった。だがもう一人……パラレルに会っていない。

 まさか私たちがこの部屋を目指しているとは思っていないだろうが、だとしても外ではあんなに抵抗の意思を見せていたのに、トイフェルの最高権力ともいえるパラレルの姿がないのは不思議だった。

「開いたぞ」

 ロゴスの声でハッと顔を上げる。真っ先に動いたのはマホガニーとツルギだった。

「「パパ、ママ!」」

 イウニとセネトはついては行かず、部屋に駆け込んだ双子たちを見守った。恐らくここは安全な場所だろう。敵に見破られていなければ。

 仲間たちもゆっくりと中に入り、私もついて行った。ムースが後ろを警戒しながらついて来てくれている。

 部屋の中は、他と同じ素材で作った壁と床で出来ていて、天井から伸びるパイプが常に冷気を放ち続けてひんやりと冷えていた。そして、無限に広がっているかのような空間には真新しいような石造りで出来た箱がいくつも並んでいた。これが擬似石棺だ、と私は思った。

「ここだ」

 ケルシーは迷いなくある擬似石棺に近づいた。ケルシーの足元にはマホガニーとツルギ。もしかしてそこが……と私も近づくと、ケルシーが擬似石棺の蓋を開けた。

 擬似石棺には二人の男女が……ソーンズとレッドがまるで眠っているかのように中で横たわっていた。マホガニーとツルギが一斉になって声をあげた。

「「パパ、ママ!」」

 マホガニーとツルギがソーンズとレッドの肩に触れた。擬似石棺の中は思ったより温かく、私は彼らに触れることを一瞬躊躇ってしまった。

「早く起こせ」

 そこにケルシーの一喝が入り、私はまずソーンズの肩に触れた。ソーンズはレッドを抱くように眠っていた。私は口を開く。

「ソーンズ……ソーンズ!」次にはレッドの肩も軽く叩いた。「レッド、起きるんだ。レッド!」

「「パパ、ママ!!」」

 私の声に応じてマホガニーとツルギも二人に呼び掛けた。何度か呼び掛けている内に、ソーンズがわずかに動いた。

「ソーンズ……!」

 私は泣きそうになっていた。このまま眠らせたまま戦いなんて知らない方が幸せなのかもしれない。会いたかったのに起こさない方がいいのでは、と私の感情はぐちゃぐちゃだった。

「ここは……」

 ソーンズがとうとう話し出した。六年前と全く変わっていない声に、私は泣きたくなった。すると、ようやくレッドも動き出し、二人はゆっくりと体を起こした。

「「パパ! ママ!」」

 マホガニーとツルギがすぐに呼んだ。ソーンズがそのオレンジ色の目で双子たちを見やった。

「パパ……? 俺が……?」それからソーンズは、腕にいるレッドに気づいた。「この女は誰だ……」

 やはり、記憶障がいは残ってしまったらしい。私は落胆しかけるも、今は気持ちを引き締めなければならない。

「ソーンズ、私はドクターだ。そこにいる人は……」

「ソーンズ?」

 レッドがソーンズの名前を呼んだ。ドキリとした。二人は特別で、たまたまの偶然彼らはしっかりと記憶に残っているのではないか。そんな淡い希望をつい抱いてしまう。

「皆が目覚めた。急いで撤退するぞ」

 ケルシーの声で現実に引き戻される。ここで感動をしている余裕はなかった。私は立ち上がる。

 見ると周りにあった擬似石棺から、次々と人が起き上がっていた。私の声を周りにも聞こえるようにロゴスが何かしたのだろう。私の声で覚醒するように掛けられていた呪術が解呪されているのだ。

「パパ、行こう」

 マホガニーは最初に言おうとしていた言葉も忘れてソーンズの手を引いた。ソーンズは困惑している様子だったがゆっくりと擬似石棺から出てきた。

「うっ……」

 ソーンズに抱えられたまま動こうとしたレッドが足を石棺の縁にぶつけた。ソーンズはようやく、ここにレッドがいたのだと認識したが言葉が出てこない様子だった。

「大丈夫、ママ?」

 ツルギがレッドが出てきやすいように石棺をひっくり返した。中に詰められていたクッション材がボロボロと零れてきたが構いやしなかった。

「この子、レッドの子ども……?」

 レッドはそう言ってツルギを見下ろした。レッドの顔を見ていられなかった。私がレッドの肩に触れようとして、ソーンズが身を引いた。

「レッドに触るな」

 ソーンズの目つきが怖い。一緒の石棺に入っていたからか、どうやらレッドに執着心を抱いているように見えた。記憶があるのかどうかは置いといて。

「すまない、ソーンズ。だが、ここは敵の陣地内なんだ。早くここから出ないといけない」

 私は警戒しているソーンズに説明をした。レッドはその間もずっとソーンズにくっついて離れなかった。六年前はよく見た光景だった。六年前よりべったりくっついてはいるのだが。

「敵……」

 ソーンズは片手に持ったままの武器に視線を落とした。まだ頭の中が整理し切れていないのだろう。私もそうだった。

「レオンハルト、みんなを連れてラズハに戻って欲しい」私は振り向き、次の行動を指示する。「ムースはレオンハルトと同行してサンドレコナーと合流して欲しい。誘拐されたかもしれない医者がいるかもしれないから」

「オッケー!」

「分かりました!」

 レオンハルトとムースの返事を良しと見て頷く。レオンハルトは集団を束ねることにそこまで苦労しないはずだ。一気にこの人数を連れて行くのは大変だろうが……。

「おい、ここはどこだ! 俺に何するつもりだ!」

「私に触らないで下さいっ!」

 早速覚醒したどこかのオペレーターたちが暴れているようだが。

「外でクロージャが子艦で待機しているはずだ。まずはみんなをそこに連れて行って……」

 と私が言いかけた時だった。

 ガゴン! と部屋ごと大きく傾いた。

 何事か、と思っていると、突然私の通信機が音を立てて酷く驚いてしまった。私は慌てて通信機に応答する。

「もしもし、こちらブルーグラスだ」通信機の向こうでブルーグラスが話し始めた。「位置情報的にもう目的地には着いた頃だろう? 急いでそこから撤退した方がいい……」

 ブルーグラスが一旦言葉を切る。私は静かに次の言葉を待った。

「近くで天災が起きた。トイフェルの拠点はなぜか天災に向かっている……隕石の天災だ」

 ブルーグラスが放った言葉に、周りの空気は一瞬にして凍りついた。

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