「帰って来たか」
第二ロドス艦になんとかロープの娘を連れ帰ると、お怒り状態のケルシーにネチネチと説教を受けることとなった。マホガニーとツルギが私を庇おうとしてくれたが、ケルシーの説教に巻き込む訳にはいかないと、二人を下がらせて自分だけ怒られることにした。
「それで、彼女は?」
そしてようやく、私が連れてきたロープの娘に話題は移り、ケルシーが問いただしてきた。私は、彼女が怪我をしているから手当てをしたいこと、もしかしたら彼女はロープの娘の可能性があるということだけは伝え、泥棒であることは話さなかった。
「ロープの娘……? 確かに面影はあるが……」
とケルシーに眼を飛ばされる彼女はさすがに焦っていた様子だが、なんとかこう言葉を返していた。
「私がそっちの知ってるロープの娘かどうか分かんないけど、何か写真とかないの?」
するとケルシーは顔を引っ込めて考え込んでいるみたいだったが、そこにクロージャが何かを持って割り込んできた。
「写真だけならあるよ! 他の情報はロゴスの呪術で封印されちゃっててさ〜、今は取り出せないんだけど……」
と言いながらクロージャが持って来たのは一枚の写真。データ情報はロゴスの呪術と絡んで上手く取り出せないらしいが、写真だけはクロージャが別枠で保管していたらしい。
その写真には紫髪をしたコータスの女性が映っていて、それを見るなり彼女の顔がパッと明るくなった。
「母さんだ……!」
彼女はやはり、ロープの娘なのだ。
「私、母さんがロドスのオペレーターだったなんて知らなかったよ。だってさ、母さんは一度も過去の話なんかしなかったんだよ? 話しても泥棒やってたことくらいしか」
と彼女は言った。ロープに娘がいたことも驚きだったが、ロープが娘に一度もロドスの話をしなかったことに、少し寂しさも感じていた。
ロープは、ロドスにいたことを嫌な思い出として封印していたのだろうか。
だがケルシーはそんな不安を少しも抱いてはおらず、彼女に更に質問を浴びせた。
「今ロープはどこに?」
ケルシーがそう聞くということは、ロープはロドスの土台で冷却保存していないということになる。それはケルシーが保存の必要なしと決断した者もいたのだろうが……。
「母さんはこの前、泥棒で捕まっちゃって監獄にいるよ」と彼女はスラスラと答えた。「時々面会に行ってるから確かな情報だよ? ま、私が面会するルートは正規なものじゃないけどね」
それからニヤリと笑う彼女は、やはりロープの顔によく似ていた。そして、ロープが今も生きているということに私は嬉しさを感じずにはいられなかった。
「良かった……ロープは生きているんだ……」
と私はここでようやく息を吐いたのだが。
「いやいやいや、あの監獄はむしろ死んだ方がマシって程最悪で」彼女は話し続ける。「毎日毎日、危ないところで鉱石掘らせててさ、食事は三日に一度だけ! 睡眠時間はたった三時間! ずーっと炭鉱やらされているし、泥棒やってた方が楽って感じだったよ」
私は彼女からケルシーへ目を向けた。この六年間、私は世間とは遠い辺境の地に居続けたせいで周りの情勢にすら気づけなかった。そんな監獄が実在していたというのか。
「……ヘルザルド炭鉱監獄だな。最近妙に大きくなった監獄だ」とケルシーは話し出す。「罪を犯した者はおおよそその監獄に送り込まれるが、実際は囚人たちを雑に扱って収益のほとんどを上の者たちの懐行きという話だ。囚人をどう扱おうが、罪を犯した者が悪いからと世間の目を欺いているのだ」
「そんな監獄があったなんて……」
私は呟いた。ロープは鉱石病に罹っている。そんな醜悪な環境下にいたら、ますます鉱石病が悪化してしまう恐れがあった。私は助けに行きたいと思ったが、足元にいる双子たちがまだ幼いのだと気づいて口を噤む。
「私たちは丁度、その監獄に向かうところだった」
「え」
私はケルシーをもう一度見やった。彼女は相変わらず、冷ややかな眼差しをしていた。
「レオンハルトは貴重な人材だ。あの敵襲のあと、敵の手を渡ってどこかへと生き延びているらしい」とケルシーは唐突にレオンハルトの話をし出す。「あの実力と饒舌さがあれば、奴は敵の手から逃れてどこかで逃げ切った可能性があると推測はしていた。そして今もどこかで活動しているとなると、どこかの鉱業会社だと踏んでいたが……」
「鉱業会社ならテラ中どこにでもあるからね〜」
とクロージャが口を挟んできてケルシーの睨みに一蹴された。ケルシーの話は途中で遮ると睨まれることが多いのだ。
私はケルシーが話を続けるのを待った。
「ロドス奪還のためには一人でも多くの戦闘員が必要だ。その一人としてレオンハルトを探していたのだが、無闇やたらに鉱業会社を襲うにはリスクがあったからな。ロープ救出作戦ついでに、レオンハルトを探す口実も出来たという訳だ」
そこでようやくケルシーが言葉を切った。私は口を開いた。
「つまり、私たちは今からヘルザルド炭鉱監獄を襲撃に行くというのか」
「そうだ」
私の問いに、ケルシーは迷いなく答えた。