双星方舟〜ラズハ・シップ〜   作:青瑠璃

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統一性

 

「ドクター! 来たらダメだ!」

 マホガニーが、紫の枝状のアーツに捕らえられて天井に抑えつけられていた。マホガニーはすでに武器を床に落としている。そのそばではイウニとセネトが倒れていて背筋が凍った。

「イウニ、セネト……」

 私は声を絞った。情けないくらい震えた。腰が抜けて動けなかった。

 私は、壊された扉と壁の前で座り込んでいた。ここから中枢制御室の中がよく見える。無機質な部屋のど真ん中にはマホガニーを捕らえているアーツの主、紫髪のサルカズの女が立っていて、こちらに鋭く睨みつける。

「なんだ、お前は……」とサルカズの女が話し続ける。「見たところ、戦闘員ではないのう。ドクター……もしや誘拐した医者の一人だったか」

「やはり、医者を誘拐していたのはお前だったのか……!」

 私は気後れしまいと立ち上がり声を張り上げた。しかしサルカズの女は動揺するどころかマホガニーを捕らえているアーツの力を強めたのだ!

「うわっ……!」

 マホガニーの苦しそうな声に私はゾッとした。そうだ、助けなきゃ。私はマッドグリーンを見やり、ロゴスに指示を出そうとして銀色の何かが降ってきた。

「マホガニーを離して!」

 ツルギだった。

 ツルギの奇襲攻撃にサルカズの女は一瞬怯んだが、狙いは彼女への大打撃ではなかった。ツルギは床に落ちたままのマホガニーの武器を拾ったのだ。

「マホガニー!」

 ツルギは武器をマホガニーに放った。くるくると回りながら天井に向かう武器にサルカズの女が呆気に取られている内に、マホガニーは武器をキャッチした。

「お返ししてやる!」

 マホガニーの武器が紫のアーツを断ち切り、体勢を持ち直しながら私のところに戻ってきた。サルカズの女は、執拗に追撃したりはしなかった。

「ほう、少しはやるようだのう」とサルカズの女が言う。「だが、ワラワの目的には届かまい」

 その時、ブーブーと警告音が響いた。規則正しい機械音声がこだまする。

《警告、警告……天災が近づいています。各員避難をして下さい……繰り返します……》

 声に応じて中枢制御室にある大きなパネルが真っ赤に光り出した。見た目や形は変わってはいるが、ロドスの時にあったそれと同じようなものだった。パネルは現在地を示し、予想航行の先に天災のマークだろうバツ印が何度も点滅していた。

「このままでは天災にぶつかるぞ?」

 今まで黙っていたロゴスが女に問いかけた。だが女は、狂気じみた笑みを返すだけだった。

「誰もワラワを殺せないなら、天災に巻き込まれるとしよう。もう何もかもが嫌になったのでな」

 どういうことだ……?

 私が理解出来ずにいると、マホガニーが大声で言い返してきた。

「やめろ! ここにはぼくたちの仲間もいるんだぞ! それに……それにお姉さんたちの方の味方もいるんだろ! なんで天災に突っ込むんだよ!」

 マホガニーの、それでも敵にすらお姉さん呼びが抜けないのはこの状況でちょっと笑いそうにはなったが、それは私だけではなかったようでサルカズの女がわずかに動揺を見せた。

「ワラワをお姉さん呼びする子どもがおるとはな……お前の教養の良さが伺える」しかし次には影を落として、「だがお前に救えるものは何もない。今はアイディーもお前たちが止めているようだしな。ワラワはここで骨を埋めることにしたのだ」

 と女は言った。

 私はその女が言っていることが分からず、今までのことを整理しようと思った。確かに、ここに来るまでにおかしな点はいくつかあった。カジンの従えている部下たちは普通の兵士だったし、アイディーの従えている部下は皆ブルー生命体ではあったが……彼女の言ったことが本当なら、彼女自身の手でなぜか自分の拠点を真っ二つに切り落としている。私たちを止めるような動きはしているものの、どこか統一性がないのだ。なぜそんな集団が、トイフェルとして確立していたのだろうか?

「パラレル……さん……」

 そこに、よろよろと起き上がったセネトが声を出した。セネトはそのアーツのおかげで人の心に干渉することが出来た。紫髪のサルカズの女は、やはりパラレルのようである。

「つらいこと……沢山あったけど、自分で死のうとしないで……下さい……」セネトがパラレルに訴える。「セネトは、知りました。ラズハに来て……ドクターに会えて……マホガニーやツルギとも友達に……」

「うるさい!!」

 パラレルは声を荒らげ、枝状のアーツが彼女を中心に無数に伸びた。その一本がセネトを狙っていて……私が腕を伸ばすより先に、ある人物が飛び出した。

「くっ……!」

「マッドグリーン!!」

 それは、一瞬の出来事だった。

 パラレルが感情的に放ったアーツが、マッドグリーンの盾も装甲も貫いて背中まで突き出している。

 私の視界の横でひらりと羽衣が揺らめいた。ロゴスが空気中に何か呪文を描き、パラレルの隙を突いた瞬間にイウニとセネトを抱え上げたということだけが分かった。

「ドクター」

 ロゴスの声で私はなんとか我に返る。マホガニーとツルギを呼ばなくては。

「マホガニー、ツルギ!」

 私が叫ぶと、マホガニーとツルギが戻ってきてくれた。彼らがわざわざここに飛び込んだ心境を、私は否定したくはなかった。彼らは本気でロドスを取り戻そうとしてくれた。だが作戦には一つも「パラレルを倒す」任務はなかった。

 彼女を倒すことは到底不可能であることが分かっていたからだ。

「おい、敵に背中を向けるな! ワラワと戦え!」

 パラレルが喚いた。次には攻撃の構えが見えたが、その時、ロゴスに抱えられているイウニが何かを唱えた。

「”古代サルカズ語”」

 ここで初めて、イウニがマホガニーやツルギを伝導させずに放った術攻撃だった。

 紫光りする黒い鉱石のような形をした彼の術攻撃は、パラレルに向かって真っ直ぐに飛んだ。まさか、イウニはパラレルを殺すつもりでは……? 私はそれだけは辞めてくれと叫ぼうとして、代わりに声を上げた者がいた。

「ダメだよ、イウニ!」

 そう言いながらセネトと同じ術攻撃を放ったのはセネトだった。

 セネトも、マホガニーやツルギに伝導させずに術を放っていた。だがセネトのそれは攻撃ではなく、パラレルを守るドーム型の防御アーツだった。

「なんで止めるんだよ、セネト!」イウニは怒っていた。「アイツは……マッドグリーンを殺した! なのに、なのにどうして殺しちゃダメなんだよ!」

「セネト、よく分からない。でもドクターは、パラレルを殺してって言ってないもん!」

 セネトは悲鳴のような声でイウニに言い返した。私は掛ける言葉も失って、ただただパラレルの次の行動を見張っていた。

「なんだ、仲間割れか? あともう少しだったのにのう」パラレルは冷静そうだった。「ならばワラワの反撃としようか」

 そう言うなりまだ解かれていないセネトの防御術の裏からパラレルが飛び出してきた。私は慌てて後ずさるが、すかさずマホガニーが迎え撃つ。間髪入れずにツルギが追撃を試みるもパラレルに直撃することはなかった。

 私は、自分の力だけで術攻撃を放ったからか、ロゴスの腕の中で少し疲れた様子であるイウニとセネトへ目を向けた。倒れたままのマッドグリーンはこちらに応じる様子がない。彼を回収したい。だがそこに行くまでにはパラレルの足元まで近づかなくてはいけない……。

 そうこうしている内に、艦がグラグラと揺れ始めた。中枢制御室にあるパネルがけたましく警告音を響かせる。この艦は天災に近づこうとしているのだ。

「マホガニー、ツルギ!」私は一かバチか賭けに出ることとした。「この部屋を壊すんだ!」

 私の突拍子もない指示に、マホガニーとツルギは交戦しながら戸惑った様子があった。だが小さく頷いたのが見えたから、私は後ろのロゴスを振り向いた。

「我が隙を作ろう」

 とロゴスが空気中に描いた文字は、激しい攻撃を仕掛け続けているパラレルへと向かっていった。二人の子どもを抱えたままよく出来るものだと思ったが、そこはエリートオペレーターといったところか。パラレルはその呪術への対処をしようと何らかの呪文を唱えながら引き下がる。そこにマホガニーとツルギの一斉攻撃だ。

 それでもパラレルには防御姿勢があっただろう。だが二人の狙いは、パラレルではない。

 マホガニーとツルギの武器は、うるさく音を発し続けているパネルへ向いていた。パネルは二人の一撃でひび割れ、やがて鋭い音を立てて割れていった。

 機械の警告音がノイズ混じりに鳴り、システムダウンしたことを告げる。

「崩れるぞ」

 ロゴスの冷静な声と共に、私たちの足元はなんとも言えない浮遊感が襲った。飛行モードに移っていたトイフェルの拠点が浮上力を失って墜落を始めたのだ。

「「ドクター!」」

 私の元にマホガニーとツルギが飛び込んできた。私はしっかり二人を抱えたが、体は急降下するばかりでどうしようもなかった。ロゴスの夕焼け色の瞳が私の視線と混ざり合った。

「ここへ」

 ロゴスに肩を抱えられ、私は全てを彼に委ねた。耳元で横切る風の音と、崩壊するトイフェルの拠点の音がうるさかった。そして、私たちは……。

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