「なぁドクター、レオンハルトってどんな人なんだ?」
その後。私たちはロドス第二艦の中層エリアにあった宿舎で休んでいた。時刻はもう夜である。
「レオンハルトは……」
私は、質問をしてきたマホガニーにレオンハルトについて説明をした。ものすごく優秀な天災トランスポーターであること。宝石とそれ以外を一瞬で見抜いて術攻撃を使いこなすこと。ちょっと金銭感覚が緩いことも話した。
「そしてレオンハルトは、スノーグラウスの父親、エアースカーペと親友なんだ」
「親友……」
マホガニーはそう呟いて向こうを見つめた。私たちが六年間過ごした集落には確かに子どもたちは何人かいたが、マホガニーもツルギも、同世代の子どもたちとはあまり仲良く出来なかったみたいだ。それでも二人がいればいいから。そんなふうに言わなくても、双子たちはそうやって生きてきた。いつか彼らにも、レオンハルトとエアースカーペのような大切な誰かが出来るだろうか。
コンコン。
その時、私たちの宿舎の扉をノックする音が聞こえた。どうぞと答えると、黒い長い耳の……スノーグラウスが扉を開けた。
「えんどう豆を塩茹でしたものだ。あんたらも食べるか?」
「食べる! ツルギも食べるだろ?」
「うん……!」
スノーグラウスの言葉にマホガニーは即答し、ツルギを誘って一緒にえんどう豆を食べ始めた。スノーグラウスがえんどう豆を食べている様子を見て、私は酷く悲しくなった。
エアースカーペは枝豆が好きだった。
死んでいないと分かっていても、今は会えない状態なのだと思うと心に重く苦しさがのしかかる。私は、ロドスから離れたダメな指揮官なのだ、と。
「ドクターも食べる?」
そこに、ツルギが私を振り向いてそう聞いてきた。いけない。変な顔をしていただろうか。
「うん、私もいいかな? スノーグラウス」
「もちろんだ」
スノーグラウスは本当にいい少年だ。スノーグラウスは分け隔てなく私たちにえんどう豆を差し出してくれた。
スノーグラウスはこの双子たちのいい兄であり師であり、親友であって欲しいと、私は勝手に思いながらえんどう豆を頬張った。
翌朝。
私は双子たちに朝食を取らせたあと、やらなければならないことをケルシーに任せられていた。
この第二ロドス艦が、敵にロドスの残党だと思わせてはいけないため、書類上での名目が必要だったのだ。ケルシーとクロージャとスノーグラウスだけならただの旅人くらいで流されていただろうが、さすがにこれから新しい仲間を受け入れるに当たって動き始めるとなると、大人数いるのに旅人と言い張るのには無理があったのだ。
まず、この第二ロドス艦の別名を用意しなくてはいけなかった。ここがロドス奪還のために動いている本拠点だと敵にバレると、力をつける前に殲滅される恐れがあったのだ。なのでこれは、ケルシーと話し合って決めることとなった。この艦がこれから、国境を越えて様々な患者たちを受け入れる「移動する病院」という意味を込めて『ラズハ』。とある神話に登場する医療の神様の名前を文字ったものである。
次に、その病院として稼働するための道具や機械の申請許可の製作と発注、更に患者を受け入れるための病室を整えなくてはいけなかったので私は大忙しだった。スノーグラウスも手伝ってはくれたが、さすがにマホガニーとツルギは訓練室で待機してもらった。彼らも下手なことはしないだろうが、何より六歳というのがネックだったのだ。ケルシーはその間、交渉役として別の大仕事をしていたし、クロージャには機械関係を任せていたのでおおまかなことは私がやることとなったのである。
そして、ロープの娘というレナハートのこと。手当てした足はもうほとんど良くはなっていたが、私たちとはあまり馴染めてはいない様子だった。一応、ロープを連れて帰るまで一緒にいると言ってはくれたが、人と話しても目を逸らしたり明らかに愛想笑いをしていたり。あの気のいいスノーグラウスがえんどう豆をお裾分けしようとしても断っていたりと、コミュニケーションに問題があった。
私は仕事の合間に、彼女に話し掛けに行った。
「調子はどうだい?」
「あ、ああ、ドクター。うん、君のおかげでだいぶ足はよくなったよ」
レナハートの顔は笑っていたが距離を取るような雰囲気。ロープとよく似ていた。
「レナハートという名前なんだけど、ここにいると本名で語るのはマズイこともあるだろうから、コードネームに変えたいと思ってるんだ」
と私が言うと、彼女の長い茶色い耳がピクリと動いた。
「私のコードネーム? いいよ、そんなもの……」それから彼女は眉を吊り下げて、「だって、私泥棒だよ? なんでそんなに良くしてくれるの?」
と私に聞いてきた。
人を助けるのに理由があるとは思っていないが、確かに今までロドスにいた時、そうやって私に質問をぶつけてくるオペレーターたちは沢山いた。私は真摯に答えようとした。
「もしかして、私がロープの娘だから?」
私が何か言うより早く、レナハートがそう言った。レナハートは相変わらず私とは目が合わず、キョロキョロしている。
……そうか。彼女が不安に思っているのはそんなことだったのか。
「すまない、レナハート。私も言葉が少なかったみたいだ」私は謝った。「君を助けたのは、ロープにそっくりだったとかじゃないんだよ。助けたかったから助けたんだ。これでも私、製薬会社のトップだったんでね」
「そ、なんだ……」
ロープはそれでも目を逸らしたままだった。まぁすぐに信じるのは難しいだろう。
「君のコードネームを考えてもいいかな」
私が言うと、レナハートは迷いながら小さく頷いた。私は、彼女がいつも持ち歩いている鉤爪付き縄へ目を向けた。
「君のコードネームはネイル。どうかな?」
すると、彼女はようやく私の目を見た。その丸い目がどういう意味だったのか、この時の私は気づかなかった。
「私の名前、ネイル?」
「うん」
「ネイル……!」それから彼女は走り出して、訓練室で戦いごっこをしていた双子とスノーグラウスの元へ駆けて行った。「ねぇみんな! 私の名前はこれからネイルだから! よろしくね、みんな!」
と言っている彼女の声はとても嬉しそうだった。すると、マホガニーも嬉しそうにこんなことを言っていたのが聞こえた。
「お姉さんのママと同じコードネーム貰ったんだ! カッコイイじゃん!」
どうやら彼女は、コードネームが欲しかったらしい。ロープと同じような、コードネームが。