そうしてレナハートがネイルとなって慣れ親しんだ頃、だんだん第二ロドス艦──ラズハに賑やかさが追加された。
「おい、ネイル! どこにいる!!」
とスノーグラウスが声をあげることが多くなったのだ。
「やぁ、スノーグラウス。ネイルがまた何かしたのかい?」
そこに私が声を掛けると、スノーグラウスはこう話し出した。
「俺のえんどう豆を半分どこかに隠したらしい。今マホガニーと一緒にどこかに逃走中だ」
「またか」
そう。ネイルはラズハ内でスノーグラウスにイタズラをすることが増えたのだ。大抵そこにはマホガニーと結託している。
「えんどう豆が欲しいならただでくれてやるのに……黙って持ち出すのは許さないからな」
と言ってはいるが、スノーグラウスが本気で怒った様子を私は見たことがない。多分、ネイルと追いかけっこをしているような感覚なのだろう。なんだかレオンハルトとエアースカーペのことを思い出すな。
「ただ、そろそろ外に出る用事があったから、ネイルとマホガニーを探し出さないといけないな……」
と私も考え込む。今日は治療の援助で紛争に巻き込まれた難民たちを助けるという依頼があったのだ。そのためには人もいないラズハではネイルやマホガニーの力も必要だ。
「ツルギ、いるか?」
私は適当なところに向かって呼びかけた。すると、ガンガンと通気口を通る音を立てながら、天井からツルギが飛び出してきた。
「ドクター、あたしここにいる」
ツルギはますますレッドに似てきて、ありとあらゆる場所に身を隠すのが上手になってきていた。ただ、出てくる時に音が鳴るのは考えものなのだが。
「マホガニーとネイルを探して来て欲しい」
索敵ならマホガニーの方が上だが、ツルギも索敵が得意だった。ツルギは頷いた。
「分かった」
ふわっと飛び上がってまた天井の通気口へ戻っていくツルギ。通気口を素早く通っているのだろう音がガンガン鳴り響いた。
ツルギによって無事にマホガニーとネイルは発見され、スノーグラウスによってこってり絞られた。といっても、スノーグラウスが言うのは「えんどう豆が欲しいなら許可を聞いてくれ」とか「なぜ全部持っていかなかったのか」とか大した話はしていたかったが。
そうしてラズハは、紛争によって難民となってしまった人たちのキャンプへと向かった。私たちはこうした活動を地道に続け、最終目的であるヘルザルド炭鉱監獄に向かうための実績を積んでいた。どうやらヘルザルド炭鉱監獄は、囚人たちを治療する医者を常に募集していたのだ。医者が定着しないのも、ヘルザルド炭鉱監獄の待遇が最悪だからなのかもしれない。
「ドクター、こっちも診てくれ」
スノーグラウスに呼ばれ、私はぐったりしている患者へ向かう。スノーグラウスは戦闘では優れた能力を持っているが、病気に関してはとんと疎かった。
「これは……」
鉱石病。
難民キャンプでは、鉱石病に罹る患者も多くいた。おおよその患者たちには痛みや悪化を防ぐ薬を処方するだけで済むが、鉱石病は進行を遅らせる薬しかない。私は、目を伏せた。
「この子は、鉱石病です……」
「えっ」
近くにいたのは患者の親だろう。患者の親は酷く驚き、周りにいた難民たちは虫の子を散らすように私たちから離れた。鉱石病には完治しない病気で、死後遺体が感染源となることから、根も葉もない話が肉付けされて近くにいることすら恐ろしいものとされていることが多かった。
「そんな子は私の子どもじゃないわ! どっかに捨てるなり貴方たちの奴隷にでもするといいわ!」
「かあ、さん……?」
そうやって、鉱石病になった瞬間人の縁を切ることも珍しくはない。
「正しい治療を受けていればある程度の生活は……」
「そんなお金、ないわよ!」
戦争や紛争が絶えないこのテラでは、散々耳にする言葉だ。
「お前たち、人手を探しているんだって?」
一方で、向こうから声を掛けてくる者もいた。見ると武装した男たちが何人かいる。
「俺はガンレッタ。治療はさっぱりだが、この世の中だろ? 護衛として俺たちを雇ってくれないか。給料はソイツの治療に充てて欲しい」
と率先して戦闘員を名乗り出てくる者もいた。治療も出来、戦闘の準備がある艦はそう数はないだろう。もしあるとするなら、それはかつてのロドスだけだ。
「ありがとう、助かるよ。ただ、給料はちゃんと払う。その四分の一が治療費だ」
私たちはそういった傭兵たちも受け入れて行った。治療のために、目的地のために。……そして、ロドス奪還のために。