双星方舟〜ラズハ・シップ〜   作:青瑠璃

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ヘルザルド炭鉱監獄

 

 そうしてラズハは、傭兵たちや行き場を失った患者たちでますます賑やかにはなったが、際立った戦闘員は現れなかった。何より、若いとはいえスノーグラウスが強過ぎるのだ。

 せいぜい予備隊くらいの実力はそれなりにいたが、大半は非オペレーターと同じく、内部で支援活動をする者たちばかりだった。それでも、ラズハは順調に大きくなりつつあった。

 それからもう一つ。私は仕事の合間に、マホガニーとツルギの訓練に付き合っていた。二人の戦い方は独特だと分かったので、私は双子たちに奇妙な訓練を与えてたのだ。

「マホガニーとツルギはしばらくキャッチボールの練習をするように」

 すると好戦的なマホガニーが早速文句を言い出した。

「え、なんで? 戦いって遊びじゃないんだろ?」

 だから私は、キャッチボールの理由をしっかり伝えた。

「マホガニーとツルギは、二人で戦う方がより強い」私は二人の戦い方を脳裏でありありと思い出していた。「マホガニーは、よく武器を落としてしまうだろう? それを、ツルギが落とさないようにキャッチ出来るようにするんだ」

「あたし、出来るかな?」

 ツルギは自信なさげにそう聞いてきた。私は頷いた。

「大丈夫。二人なら出来るよ」

 なぜなら彼らは、ソーンズとレッドの子どもだ。きっと出来る。

「じゃあぼくは、ツルギが投げたナイフをキャッチ出来るようになったらいいのか?」

「それなんだけど、ナイフを素手で取ったらさすがに危ないからね。だからマホガニーは……」

 戦わなくていいのなら戦わない方がいい。でももし、戦うことになったら。私は出来るだけアドバイスをし続けた。二人が怪我をしませんように。そう祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしていました、ラズハの皆様方」

 いよいよヘルザルド炭鉱監獄にやって来た。名目は「囚人たちの健康診断」ではあるが、ブラックな話が多い監獄である。私はスノーグラウスを護衛に、ヘルザルド炭鉱監獄の受け付けに出迎えられていた。

「今日から三日間、囚人たちの健康診断をするとのことでよろしいですか?」

 と私が確認すると、受け付けの男はいかにも愛想笑いのまま、ええ、そうです、と話し続けた。

「その前に我が会社の社長にお会いして頂きたく……あ、こちらです」

 男はそう言い、高価そうな絨毯が敷かれた階段へ案内する。私はちらりと、隣のスノーグラウスへ目を向けた。

「大丈夫だ。あんたの護衛はしっかりやる」

 スノーグラウスの言葉はいつ聞いても力強い。

 本当はマホガニーやツルギも連れて行きたかったし、ついて行きたいと言っていたのだがやはり六歳の子どもを連れていると都合が……はっきり言うと舐められてしまう可能性があった。だから双子たちはネイルと別行動をしていた。何かあった時のための配置である。

「こちらです」

 と案内役が社長室前で一旦振り向く。それからノックすると、どうぞと声が聞こえたので中に入ると、横にフェリーンの秘書を置いている社長が高そうな椅子に座っていた。髭を伸ばしたキャプリニーの男だ。

「ようこそ、ラズハのドクターよ。ここは多くの囚人たちを抱えている監獄の鉱業会社でね。仕事の効率をより高めるために、こうして囚人たちの健康診断を定期的に色んな団体や医師たちに行ってもらっているんだ。最近どこも人手不足でしてな、なかなか頼めるところが見つからなかったところでラズハ医療企業さんが依頼を受けて頂いて本当に有り難い……」

 と社長は長々と話し出した。私は警戒しながら、健康診断の手続きをしようと思った。

「それで、囚人たちの名簿はどちらに?」

「こちらだよ」

 私の問いかけに、社長は自ら書類の束を差し出した。私は、スノーグラウスを一瞥した。スノーグラウスは黙って頷く。どうやら受け取るしかないようだ。

「こちらも人手不足でね、この依頼を受けてくれて本当に助かったよ……」

 ガコン……!!

 社長の言葉を最後まで聞き終わらないまま、私の視界は突然傾いた。気づいた時には足元の床が開いている! こんな単純な罠に掛かってしまうなんて……!!

「ドクター!」

 ギリギリ罠の外にいたスノーグラウスに襟元を掴まれて私はなんとか助かったが、ここは思い切り敵の手中だ。スノーグラウス一人でなんとかなるとは……。

「やはり護衛の方は勘と反応が早いか」社長は冷静だった。「やれ」

 私は穴の縁でスノーグラウスの片腕だけでぶら下がっている状態。このままではスノーグラウスまで怪我をしてしまう。私を手放してくれと言いかけた時にはもう、スノーグラウスは動いていた。

「凍てつけ!!」

 アーツの呪文。スノーグラウスの呪文を聞いたのはここが初めてだった。

「急ぐぞ」

 何が起きたのか私からはよく見えなかったが、スノーグラウスに引き上げられた時には、辺り一面が凍っていた。銃を構えていた秘書諸ともだ。

「バ、バケモンだ……!」

 一人凍らされていない社長はそう言って腰を抜かしていた。スノーグラウスは戦意ない者にまで手出しはしない。スノーグラウスは私を振り向いた。

「作戦Bだな」

 この作戦にはいくつか案があった。作戦Aはすんなりと監獄内に入れた場合。だが今回は、予想通りそうはいかなかった。

「頼む」

「分かった」

 私の言葉にスノーグラウスが短く答えると、背中のタレットソードを開いてアーツの呪文を唱えた。それから天井に総攻撃。

 社長室が最上階にあって良かった。スノーグラウスの攻撃で天井に穴が空き、戦場とはまるで平和なような青い空が頭上で広がった。私はそこに向かって、マホガニーが作った爆発する薬を放り投げた。

 ドガーン……!!!!

 信号弾の代わりである。

 

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