「行くぞ」
スノーグラウスはそう言い、私を連れて社長室から出た。だが瞬く間に警備兵に囲まれてしまう。
「問題ない」
だがスノーグラウスは冷静で、彼の周りに飛び回る刃が警備兵たちへ命中。いくつか銃弾が飛んできたがその刃が防ぎ、道を拓くと私たちは走り出した。
「待て!」
「ここから出さないぞ!」
「お前たちは今からここの囚人となるからな!」
と警備兵たちが次々にそう口にし、あの社長の目論見がだんだんと分かり始めた。
なるほど。このヘルザルド炭鉱監獄に向かった医師たちすらももう二度と来なかった理由は、来なかったのではなく、帰れないようにされていたからなのだ。私も危うく、あの落とし穴に引っ掛けられて囚人となるところだった。
「スノーグラウス、出口が!」
出口の方には大量の警備兵がいて、厳重な閉鎖もされていた。私たちは閉じ込められたみたいだ。スノーグラウスの力だけなら壁を壊すことは容易いだろうが、その余裕を与えないまま次から次へと敵が流れてくる。
「こっちだ」
がら空きだった通路を見つけ、私はスノーグラウスに引かれるまま走り続けた。なぜかこちら側の通路はかなり手薄でどんどんと奥に進めた。私は何か嫌な予感がしたが、スノーグラウスに伝える隙はなかった。
「反乱者め!」
敵の誰かが銃器を向けたのが見えた。それは銃よりも大きく……なんてことだ、砲台だ!
「頭を伏せろ!」
スノーグラウスは声を張り、私は出来る限り身を縮めた。そこにスノーグラウスの腕が回され、体が浮いたと思った瞬間には、パリーン! と窓が割れた音がした。スノーグラウスは私を抱えて、窓に突っ込んだらしい。
「大丈夫か」
意識を失っていたのか、私はスノーグラウスの呼び掛けで目が覚めた。
「ここは……?」
ラズハに戻ってきたのかと思ったが、目の前の土埃とガヤガヤと騒がしい外の景色に私は違うと気づく。私は、スノーグラウスに支えられながら立ち上がった。
「恐らく、ここが採掘場だろう。俺たちがいきなり来ても誰も知らん顔だ」
とスノーグラウスが辺りを見回す。私も周りをよく見てみた。
周りは大きな階段状に削れていて、あちこちに洞穴が出来ている、まさしく採掘場らしかった。スノーグラウスはきっといい環境下で育っただろうから、こうして劣悪な採掘場を見たのは初めてだったのだろう。
「おい、誰か! 誰か助けてくれ!」
そこに、誰かの悲痛な叫び声が聞こえた。私はスノーグラウスと共に叫び声の元に近寄ると、一段下の層にいるリーベリらしき男が、倒れているもう一人の男を膝に人を呼び続けていた。
「もうこんな環境で掘り続けるのは無理だ! コイツに正しい治療を受けさせてやってくれ! コイツ、俺が初めてここに来てからずっと良くしてくれたからよ……!」
枯れた涙声のようにずっと叫び続けていたが、周りにいる採掘している人々は見向きもしない。見ると周りの人も酷く疲弊していて、着ている服もボロボロだ。倒れた人を助けようとすると酷い罰があるのかもしれない。
「スノーグラウス」
「分かった」
私は呼んだだけだったが、スノーグラウスは何をしたらいいか分かっていたみたいだ。私を抱え、その場で跳躍して下層の地層へ飛び下りる。私たちはすぐに倒れている男の元に駆けつけることが出来た。
「怪我をしているのかい?」
私は防護服でもあるコートの下から救急箱を取り出しながら声を掛けた。急に出てきた知らない人物に、叫び続けていた男が警戒深げな顔をした。
「だ、誰だ、お前は……!」
「私はドクター。今日ここの健康診断に来たんだ」
私は必要なことだけを伝えた。それから倒れている男の様子を診、外傷がないことを確認して手を見た。手の平はタコだらけで煤もこびりついており、爪はボロボロだった。酷い症状だ。
「栄養失調だな。それに今日は日差しも強いから、日射病や熱中症の可能性も……」
「おい、あそこだ!」
そこに、上から声が飛んできた。新手の追っ手だろう。
「ドクター」
スノーグラウスは私を呼んだ。だが、今倒れている患者を放っては置けなかった。
「応急処置だけ。……目が覚めたら、これを」
経口摂取用の補給剤を看病している男に押しつけると、私は立ち上がった。ぞろぞろと警備兵がやって来ている。
「ロープという女性を知らないかい? 紫髪のコータスの」
私は男に訊ねた。
「紫髪のコータスなら……もしかしたらいつも看守に反抗しているあの女かも」と男は答えた。「あの女はほとんど独房に入れられているから、そこにいるかもしれないが……」
「ありがとう」
私は走り出した。先に逃げ道を見つけていたスノーグラウスの後を追う。私はスノーグラウスに、独房に行くことを伝えた。
「どうせなら皆助けてやりたいがな」
スノーグラウスが前を走りながら呟いた。だから私はこう言ったのだ。
「スノーグラウスがあの頑丈そうな監獄の壁を壊したら皆助かるかも」
「……あとでやってみよう」
半分冗談のつもりだったが、スノーグラウスが私の言葉を真っ向から否定したことがない。ますますエアースカーペのことを思い出してしまう。
今は泣いている場合ではないんだけどね。
私たちは、独房がありそうなところへ急いだ。