採掘場の奥には、分厚い壁で出来ていそうな建物があった。
中に侵入すると何人か看守はいたがスノーグラウスがあっという間に倒した。ズラリと並んでいる鉄柵の檻ばかりが並んでいるところを見ると、どうやらここは囚人たちの個室ともなる牢屋のある建物らしい。牢屋にいる何人かの囚人たちが俺も私も出してくれと騒ぎ立てた。私は囚人たちを解放する前に、情報集めを始めた。
「ロープという女性を知らないか? 紫髪のコータスだ」
すると皆が口揃えて「独房にいる女」と答えた。独房がどこなのか聞き出し、私はスノーグラウスに指示を出して囚人たちを解放した。混乱を招いて私たちの本来の目的を隠すためでもあった。ロープという仲間を助けるという目的の。
おかげで外は騒がしく、追っ手はここまでは来なかった。あとは独房に向かってロープを助ける。私は、鎖でグルグル巻きにされている独房を発見した。
「ここに人の気配がある。……開けるぞ」
スノーグラウスに私は頷いた。鍵なんてものはないから、破壊して開ける。
「うっ……誰……?」
そこには、思っていた以上にやつれている彼女の姿があって私の心臓は締めつけられた。紫の長い髪は劣悪な環境下で汚れ、ボサボサで傷んでいる。耳の傷も増えているようだ。身につけている衣服もボロボロだ。
「ロープ!!」
私はすぐに駆けつけた。私がロープを抱えても、彼女にはマトモに返事をする余裕がないらしい。だけど、ロープは私の肩の上で一言、
「ドクター……?」
とかすれた声を零した。
「脱出しよう」
スノーグラウスはロープを抱え、独房を出た。だが、困難なのはここからだ。牢屋の外は敵と囚人だらけだろう。私たちはなんとか裏口から外に出たが、ここはまだ採掘場を含めた監獄内だ。
「目標が裏口を通っています。ただちに先回りを!」
その内に、上空を飛び回っていた敵のドローンが私たちの居場所を知らせ始めた。スノーグラウスは私が言った通り壁に穴を空けようとしたが、監獄の壁はそう簡単なものではなかった。
「無駄な抵抗はやめろ!」
やがて敵たちに追いつかれ、私たちは壁際に追いやられていた。私は両手を上げたが、それだけで相手が武器を下ろすことはないだろう。
「その壁は強力なアーツを仕込んでいるからな。そう簡単には壊せまい!」
と敵の一人が叫ぶ。
「なら、そのアーツの心臓を壊せばいいんだな」
スノーグラウスは揺らぎのない言葉で言い返した。敵はますます怒りを見せた。
「お前たち三人で何が出来るという!」と敵は声を荒らげる。「もっとも、その医者は無力のようだからなぁ? その囚人女も今は動けないようだし、大人しく俺たちに……」
「おらぁああああああ!!!!」
そこに、上から声が降ってきた。
見なくても分かった。マホガニーだ。
「誰が三人だって?!」煽るようにマホガニーは大声で言う。「ぼくたちは、六人だ!!!!」
ちょっと、敵にこちらの人数バラすなよとは言いたかったが、きっとどこかで出るタイミングを伺ってうずうずしていたのだろうマホガニーに私は今は口を閉ざすことにした。
「怯むな! ただの子どもだ!」
突然の奇襲に不意を突かれた敵だったが、相手が子どもだからと甘く見たのだろう。敵は一斉になってマホガニーを襲った。
だが、マホガニーは大き過ぎる武器を振り回し、敵の膝を掬い上げて全員を転ばせたのである。
「このガキが!」
逆上した敵が隙の多いマホガニーに狙いを定めて飛びかかったところで、また頭上からナイフが飛んできた。それは見事に敵の脳天に突き刺さり、倒れた。
「あっちの護衛を先に倒せ!」
ナイフの正体がスノーグラウスの攻撃だと思ったらしい敵が複数人、彼を狙って走り出したが私は気づいていた。スノーグラウスはパレットソードを閉じていたこと。そして、先程のナイフは……。
「斬る!!」
ツルギの攻撃だということ。
またしても空から降ってきた反撃に敵は怯み、その隙にツルギのナイフがあちこちへ飛び回った。ツルギは訓練の成果で、ナイフを投げ技としてすっかり身につけていたのだ。
「ここはもう任せてもいいな」
スノーグラウスが私を見やった。私は頷いた。きっとスノーグラウスは、壁を覆うアーツの心臓を破壊しに行きたいのだろう。
「彼女を頼む」
私はスノーグラウスからロープを受け取り、双子たちが敵を片付けていくのを見守った。訓練は上手く実践に活かしているらしい。マホガニーは武器を落としたフリをしながらツルギに渡し、ツルギがデカイ武器を振り回す。その間にマホガニーは、教えていた隠しナイフで敵を次々に倒していった。
私は腕にいるロープへ視線を落とした。意識が朦朧としている。早く治療しなくては。
「ほら、早くこっちこっち!」
間もなく、壁の向こうからネイルが脱出用のロープを出してくれて私たちは監獄を抜け出した。しばらくしてスノーグラウスがアーツの心臓を破壊し、監獄の壁をぶち抜いたという話だが、逃げた囚人たちやその他の看守がどうなったのか、私はよく知らない……。