私たちはスノーグラウスを助け、レオンハルトの援助を受けながら無事にラズハへ逃げ込んだ。ラズハは頑丈な艦だし、追っ手とは距離もあったのでなんとか撒いたのだ。
そしてぐったりしたままのロープを病室で寝かせ、すっかり談笑の場となりつつある訓練室にて、私はようやく急に現れたレオンハルトとゆっくり会話することが出来た。
「レオンハルト……無事で良かったよ」
私が言うと、レオンハルトはニッコリと笑った。
「ヘルザルド炭鉱監獄の話は前々から目をつけていてね。そしたら、よく分からないラズハっていう医療団体が支援に向かったもんだから、様子を伺っていたんだよ」とレオンハルトは話す。「そしたびっくり。ドクターがいるんだもん。どういうことかと思っちゃったよ」
「ということは、私がヘルザルドに入ったのを最初から見ていたと?」
「まぁね♪」
なんですぐに助けてくれなかったのかと聞いても、レオンハルトはそれらしいことを言って私の言葉をかわすのだろう。私はレオンハルトを許すように頷いた。
「この人がレオンハルト?」
そこに、さっきから興味津々にレオンハルトを見上げているマホガニーが聞いてきた。あの巨人を倒したカッコイイお兄さん。マホガニーにはそう見えているのかと思われた。
「そうだよ、ドクターから話は聞いた?」レオンハルトは人懐っこそうに笑む。「俺はレオンハルト。天災トランスポーターなんだ。君は?」
「ぼくはマホガニー! こっちは妹のツルギだ!」
マホガニーはしっかりと挨拶をし、流れるようにそこにいるツルギのことも紹介した。
「初めまして、レオンハルトお兄さん」
ツルギは控えめにお辞儀をする。レオンハルトは満足そうに頷いて私の方を向いた。
「誰かの顔に似ているんだけど……もしかしてあの二人の?」
観察眼に優れるレオンハルトはすぐに分かったか。私は説明した。
「ソーンズとレッドの子どもだ。二人は双子なんだよ」
「へぇ、やっぱり?」それからレオンハルトは、わしゃわしゃとマホガニーの頭を撫でた。「そっかぁ、確かにソーンズにモフモフの耳をつけたらこんな感じだよね〜。こっちの子は、耳のないレッドみたい」
とツルギの頭もわしゃわしゃ撫でるレオンハルトに、マホガニーはすかさずこう聞いた。
「パパとママのことを知ってるの?!」
「もちろん! 二人にはよく助けてもらってたからね〜」
と会話しているところに、スノーグラウスが半歩近づいてきた。
「俺の父親のことも聞きたい」
そこでようやく、レオンハルトはスノーグラウスと目が合った。さっきは戦場下でよく見ていなかったのだろうが、レオンハルトはすぐに気づいたはずだ。
「まさか、エアースの……?」
レオンハルトは言葉を続けなかった。私もスノーグラウスを初めて見た時は驚いたものだ。服装や目の色は違えど、ほとんどがエアースカーペなのだから。
スノーグラウスは言葉の代わりに、こくんと頷いた。
「わぁ、会いたかったんだよ! エアースの子ども、こんなに大きかったんだ!」
レオンハルトはスノーグラウスに抱きついた。
よくケンカみたいになるレオンハルトとエアースカーペ。それでも、幼い頃からずっと一緒にいた仲だ。それは言葉では語ることが出来ない程、大切な親友だったことだろう。
その親友の子どもと、こういう形だが会うことになった。感動的瞬間に私は立ち会えて幸せだなと思っていたところに、もう一つのコータスの耳が現れた。
「あのさ、感動的なシーンのところ申し訳ないんだけど……」ネイルだった。「うちの母さんが治ったら、私たちはここから降ろされる訳?」
「それは、ロープと君の意思で構わないよ。ここに残る場合は、ああいった戦場に出てもらうこととなるかもだけど……」
と私が答えている中、レオンハルトがどうもこちらに視線を向けてきて気になった。私はレオンハルトを見やる。
「何か思うことでも?」
私が聞くと、レオンハルトはスノーグラウスから離れてネイルの前に立った。
「この子、なーんか見たことあるような気がするんだよね〜。どうも他人じゃないような……」
とレオンハルトはネイルの後ろに回り込んだり下から覗き込んだりしている。ネイルは助けを求めるように私へ目を向けた。
「ちょっと、この人何?」
レオンハルトのことだから何かあるのでは、と思うが、そうやって年端もいかない女の子をジロジロ見るのは失礼な気がした。私はレオンハルトを止めに入る。
「レオンハルト、そんなにネイルを困らせたら……」
「もしかして、君のお母さんってロープ?」
「へ」
え?
いや、確かに、ここに連れて帰ってきたのはロープなので、レオンハルトも彼女の姿は見ているはず。ネイルはロープによく似ているからそう想像するのも容易いだろう。
だけど、このタイミングでそんなことを言うということは……。
「まさか、レオンハルト……」
私はある点と点が線で繋がっていくような気がしていた。レオンハルトはネイルを見つめたまま、こう言ったのだ。
「君の父親かも、俺」