双星方舟〜ラズハ・シップ〜   作:青瑠璃

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レオンハルトとロープ

 

 衝撃的発言を聞いて数時間後。

 体力が回復してきたロープは、自らの力で食堂にやって来た。

「おい、動いて大丈夫なのか?!」

「お姉さん、フラフラしてるよ!」

 マホガニーとツルギが慌てて駆けつけたもののロープは大丈夫と言いながら適当な椅子にどかりと座った。

「夢の中で、いつかドクターが助けてくれるんじゃないかって思っていたこともあったけどさ」ロープが話し出す。「まさか本当にドクターが来るなんて思わなかったよ」

「ロープが生きていて良かった」

 私は、まだ動いたらダメだとかなんで泥棒なんかしていたんだという言葉を全部飲み込んで、それだけを伝えた。ロープは力なく笑った。

「それはこっちのセリフだよ」

 ロドス壊滅後どう過ごしていたのか、と話したい気持ちはあったが、それよりロープと話したそうにしている人物がいたので私は引き下がることにした。

「ロープ……会いたかったんだよ」

 レオンハルトだ。

「マホガニー、ツルギ、宿舎に戻ろう」

「え、ぼくまだご飯食べてて……」

「宿舎で食べよ、マホガニー」

 私はマホガニーとツルギを連れて食堂を出ようとしたが、ロープに引き止められた。

「ちょ、ちょっと待ってよ、ドクター! コイツと二人きりにしないでよ!?」

 さっきの弱っていたロープはどこに行ったのやら、ロープが縋るように私の袖を掴んだ。私は邪魔なのではと思ったが、レオンハルトはにこやかに笑っている。どうやら私はここにいてもいいらしい。

「マホガニー、ツルギ、先に宿舎に戻っていてくれるか?」

「「はーい」」

 子どもだって、気を遣ってくれたんだと思う。マホガニーもツルギも、自分の食事を持って食堂を出て行った。

 今この食堂にいるのは、私とロープとレオンハルトだけだ。

「まずはそこに座ってよ。立ってると話しづらいし」

 ロープが言った。私はロープの隣に、レオンハルトは向かいの席に座った。

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ、ネイルは、俺たちの娘……だよね?」

 最初に話を切り出したのはレオンハルトだった。ロープはキョロリと横に目を向ける。

「ネイルって、レナハートのこと? ぼくの娘だけど、君には関係ないことだよ」

 ロープはレオンハルトから目を逸らしたまま答えた。私の袖を掴むロープの力がますます強くなる。

「レナハート……いい名前だね」

「それは……っ」レオンハルトの方を向き、目が合うとまた逸らすロープ。「なんでもない。ただなんとなく、適当につけた名前ってだけ」

「もしかして、俺の名前から取ったってこと?」

「だから、関係ないって!」

 ロープが勢いよく立ち上がった。まだ完全に快復していないはずだと私も立ち上がってロープを支えたが、レオンハルトは動じていなかった。

 ロープはレオンハルトの翠玉みたいな瞳に視線がぶつかる度に、明らかに動揺していた。何より顔が真っ赤だし。

「あの、私やっぱここにいない方が……」

 私は離れようとしたが、ロープが袖をずっと掴んでいる。ものすごく力が強い。

「聞いてよ、ドクター。コイツ本当に嫌な奴なんだから!」それからロープは私の方を睨みつけてきた。「最初はさ、もっと可愛くなるからって意味分かんないものばっか押しつけてきて! ぼくが女の子らしくしたいって言ってたのを誰かから聞いたんだろうね。デリカシーないんだから!」

 そしてロープは、長い耳についていたリボンを思い切り外した。あれ、そんなリボン付けていたんだっけ?

「こんなもの……!」

 ロープはレオンハルトに向かって、リボンを投げつけるのかと思った。だが、その前に力が抜けてロープはその場で崩れた。私は慌てて介抱しようとしたが、違う。ロープは泣いていたのだ。

「ぼく、こんなの始めてて……もうずっと忘れようとしてたのにぃ……」グズグズ言いながらロープは言葉を吐いた。「ぼくなんかがあんなキラキラ男と釣り合う訳ないじゃん! だからあそこでお別れしたの! もうぼくのことなんて忘れても良かったのに!」

「えっと……」

 乙女の心は分からないが、どういうことかは徐々に分かってきた。ロープは、レオンハルトと付き合っていた時期があったのだ。私は知らなかったのだが。

「そういうことだったのかぁ」

 一方レオンハルトの調子は崩れないまま、ロープがいる方に回り込んできた。それからレオンハルトはロープの前にしゃがみ込んでにこりと笑った。

「てっきり、嫌われたと思っちゃってたからさ。俺も忘れようとはしていたんだけど」レオンハルトがロープの涙を拭った。「今度も俺から言っていい? 俺、ずっと君のことが忘れられなくてさ」

 これは、もしかして。

「わ、私は宿舎に戻るよ! じゃああとは仲良くね!」

 私は急いで立ち上がり、テーブルの角に腰をぶつけながら食堂を立ち去った。ロープはもう私の袖を掴んでこなかった。ここから先は聞いてはいけないだろう。だけど結果は、聞かなくても分かった。

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