「ここら辺だと思うんだが……」
子連れの商人の話を聞いてスラム街に来たものの、曲がりくねったり行き止まりだったりと迷路のようなところに出てしまい、私たちは迷子になっていた。
「うーん、この辺りは色んな臭いがしてよく分かんないなぁ」
ループスであるマホガニーも、スラム街の悪臭に鼻も効かないみたいだ。
「へへ、可愛い女の子だなぁ」
そこに、いかにも輩みたいな男が、ツルギを見て近づいてきた。私はツルギを自分のところに寄せた。
「うちの娘に何か?」
私は毅然とした態度で対応したが、男はヘラヘラしたままだった。
「ここ通りたいなら、その娘を置いていけよ、とーちゃん?」
男はそう言って前に立ち塞がった。私はツルギを抱き上げた。
「置いていきません」
それからもう片方の腕でマホガニーを抱えた。双子を外に連れ出す時にいつも私はこうやって抱えていたが、久々に抱き上げると少し重くなっていた。子どもの成長は、早いものだ。
「ここがどういうところか分かっててそう言ってるのか……?」
男の目つきが変わった。
ゾッとする気配。見ると私たちは、後ろも複数人の誰かに囲まれてしまったようだ。私は二人に小声で耳打ちをした。
「突っ走るぞ」
マホガニーとツルギから返事はなかったが、もう体勢は整えているだろう。私が走り出すとまずは最初の男が行く手を阻んだが、マホガニーが身につけたばかりのアーツを放った。マホガニーのアーツは、近くにある物を動かす力だ。あの大きな武器を持っていると目立つので、マホガニーがレオンハルトのアーツを見ながら身につけた簡単なアーツだった。
「何っ?!」
不意を食らって倒れた男の横を通り、私は走り続けた。後ろの追っ手はツルギの投げナイフで対応している。ツルギはあまりアーツの適性はなかったが、より投げナイフの命中率が高まっていた。
「おい、逃がすな!」
もはや狙いはツルギではなく、盾をついた私たちに逆上しているのだろう輩たちは減るどころか続々と人が増えて狭い道はあっという間に騒然となった。
そうしてやっと十字路に差し掛かった時、別の賑やかさが耳に入ってきた。
「いらっしゃいやせ〜、魚肉団子いかがっすか〜」
なんとも気だるそうな声だったが、左に曲がると大通りに出るのだろうか? 私は一かバチか左に曲がり、目の前に見えた眩しい光の中へ飛び込んだ。
後ろではドカンドカンとケンカをしている音が聞こえ、私は双子たちを荷物の影に隠して背後を伺う。私が光に見えていたものは、どうやら煌々と照らされた屋台の中だったようだ。
そして。
「ありがとうございやした〜」
恐らく屋台の主だろう人物が、そう言って追っ手の輩たちを全員倒していたのだ! ええ、私がここにいきなり逃げ込んだだけで助けてくれたのか……??
「あの、すみませ……」
私は屋台の主に謝ろうと一人で出ると、見覚えのある顔に言葉を失った。
「久しぶりっす、大将」
その口調、その見た目。何も変わっていなかった。
「ジェイ……」
私は全身の力が抜けてその場で崩れた。レオンハルトの勘は妙に当たることがあるが、本当に知り合いと出会うこととなるとは。
しかし、もう一人予想外の登場人物もいた。
「お父さん、まーたお客さんとケンカしたの??」
勝気そうなふわふわワンピースを着たウルサスの少女。ジェイと同じ真っ白な髪の毛をしていて、私は少女とジェイを交互に見た。
「え、こど……ジェイの……子ども……?」
一体誰との?!
私は衝撃を隠せなかった。