「ってことは、ローズとは血の繋がりはない……?」
私はジェイの屋台の席に座って、そこにいるウルサスの少女について話を聞き終えた。ウルサスの少女……ジェイのことをお父さんと呼んだ彼女の名前は「ローズ」。本名はエンアールというようだが、一緒にいると関係性を疑われるとのことで、ジェイがローズと名付けたようだ。
「これです。ローズが赤ん坊だった時の資料っす」
とジェイが渡してきたのは、もう随分ボロボロで焦げ跡もある資料だった。エンアールという名前のウルサスであることも、出身はイェラグであることも書かれてあった。
「ウチの名前は、助けてくれたロサさんから取ったんだって!」
とジェイ側の席に座るローズがそう話してくれる。彼女はジェイとは血が繋がっていないことをもう知っているらしい。
「ロサ……」
ロサはよく、ロドスの医療部で治療を求めにやって来た数々の患者たちの面倒を手伝いに行っていた。ロドスが襲撃されていた時、ロサが逃げ遅れた患者たちの避難案内をずっと続けていてもおかしくはなかった。
〜回想〜
「ジェイさん……!」
「あ、ロサさん。ここはもう火の手が回ってくるんで、早く逃げた方が……」
「うぎゃあうぎゃあうぎゃあ!」
「その赤ん坊は……?」
「患者さんの赤ちゃんです。この子の親は……」
「とにかく、早くその子を連れて逃げやしょう」
「いえ、私はまだ逃げ遅れたかもしれない人を探します」
「だけど、そんなことしてたら……」
「だからジェイさん、この子をお願いします」
「え」
「これがこの子の資料です。……お願いします、ジェイさん」
「……ロサさん」
「ジェイさんがそばにいるから安心してね、エンアール」
「いやでも……あ、ロサさん!」
「お願いします、ジェイさん!」
「無事に帰って来るんすよ……!」
「だからウチは、ジェイとロサの子どもなの。お父さんが何言ったって、ウチのお父さんはジェイだけなんだから!」
ジェイが回想を話し終えると、エンアールだったローズが自慢げにそう言った。
ローズは、自分の親がロドス壊滅時に失ったことを知っているのに、それでもなおジェイやロサを慕っている。それは本当に素晴らしいことだった。その状況、ロドスを恨んでも仕方のないことなのに。
「ぼくたちと同じだ」
ジェイが出してくれた魚肉団子スープを食べ終わったマホガニーが、そう言ってローズを見やった。ローズは七歳だから、共感することが多いのだろう。
「あたしのパパとママもカッコイイから」
とツルギも言い、魚肉団子スープをちびちびと食べている。するとローズがツルギの隣の椅子に座り、どんなパパとママなの? と話を聞いてきた。仲良くなってくれそうだ。
「それで、その子たちは……?」
今度はジェイが訊いてきた。私はマホガニーとツルギの話をした。二人はソーンズとレッドの子どもであること、今はラズハというロドスの一部の艦で医療団体として活動していること、いずれロドスを奪還する話もした。
「……ロドス、奪い返すんすね」
とジェイが言った時には、もう夜となっていた。人通りの少ないスラム街。ジェイの屋台だけが煌々と光を放ち続けている。
「また、力になってくれないかな」
私がそう言うと、チラリとローズの方を見やった。ローズはマホガニーとツルギと色々話し込んで盛り上がっていた。彼女とは六年間も一緒にいたのだ。私と同じく、血が繋がってなくても母性というか父性が芽生えているんだろうなと思った。
「ローズは、ロサさんに会いたがってやした。ロドスに行ったら、ロサさんいるんすよね」
「恐らく」
この目で見たことはないが、ロサもロドスでは重要な役割を背負っていたことが多かった。きっと、彼女も冷却保存をされて眠っているのだろう。
「……ローズに聞いてみやす」ジェイは屋台から出てきた。「ローズ、聞きたいことがあるんすが……」
「ウチ、行くよ!」ローズは即答だった。「ウチ、出来ることならなんでもする! 魚肉団子スープだって作るよ!」
その言葉に、ジェイの顔は穏やかに緩んだ。父親の顔だ。
「ってことで、またお世話になりやす」
ジェイは不器用に頭を下げた。そうして、私たちたはジェイとローズをラズハに受け入れたのだった。