ラズハは、かつてのロドス程ではないが、賑やかになっていた。
通路を歩けば人とすれ違い、時々食べ物や何かを貰うことも増えた。ドクターのおかげで歩くことも出来るようになった、と患者がわざわざ感謝に来たり、訓練を見て欲しいと頼み込んでくる戦闘員がいたりもした。
ああ、このラズハは確実にロドス奪還へ動いているんだ。私が改めて思った瞬間だった。
となると必要な食料や消耗品、医療道具も必要になってくるので、ラズハは途中にあった街に寄ることとなった。
レンガ調の洋風建築がある街で、紛争もない穏やかな地区だった。私は休憩がてらマホガニーとツルギを連れて街に観光しに行くと、ローズもついて来た。
「ウチも行く! ね、ついて行っていいでしょ?」
ローズはすっかりマホガニーとツルギと仲良くなったみたいだ。
「あー、だったら俺もついて行っていいすか」
とジェイが言った。きっと心配なんだろうなぁと思っていると、
「俺も丁度、食料を買いに行きたかったんす」
付け足すようにジェイが言う。
「むしろついて来てくれる方が助かるよ」
理由はなんであれ、誰かと一緒なのは心強いし楽しい。私はジェイたちとの同行を快諾した。
そうして私たちは、街の中をふらふらと歩いた。せっかくならマホガニーとツルギを色んなところに連れて行きたいと、観光名所に行ったり、催し物を見に行ったりもした。マホガニーとツルギに挟まれてローズは手を繋いで歩いている。一気に子どもが増えたみたいだ。
「ドクター、あれはなんだ?」
そんな中、マホガニーは街の公園を見かけた。私たちが暮らしていた集落には公園はなかったから、双子たちにとっては初めて見るものだった。
「あれはね、公園だよ!」私が説明するより早く、ローズがそう言って二人の前に出た。「一緒に遊ぼ! マホガニー、ツルギ!」
「うん!」
ローズが公園に駆けて行き、マホガニーがついて行く。だがツルギはついて行かなかった。
「ツルギ、行かないのかい?」
私がしゃがむと、ツルギが何かを渡してきた。
「これ、危ないから預ける」
ツルギに渡したナイフだった。
「そうだね」
私はそっとナイフを預かり、ようやくツルギも公園の方に走って行った。私は彼女を見送りながら立ち上がった。
「あの子どもたち、戦うんすか」
ジェイが真横で問いかけた。私は俯くように頷いた。
「もっと大きくなってからって思っていたんだけど」私は預かったナイフをハンカチで包んだ。「私が戦わせてしまったと思うと、心が苦しいよ」
双子たちとローズは、遊具を登ったり下りたりと楽しそうに遊んでいた。本来子どもはそうやって過ごすべき存在だ。
「きっと、あの子たちも親に会いたくて戦ってるんすよね」
とジェイが言った。分かってはいるんだ。戦うことを選んだのは彼らであること。
「うん。幼い頃から、二人の親のことは話していたから」
「俺もっす」
ということは、ジェイはロサの話をローズにしてあげていたのかもしれない。そう思うと、早くロドスに帰りたくなった。私にとってはあそこが第二の家なのだ。みんなと一緒に、また話がしたいよ。
そうして子どもたちを見守っていると、ローズが急に草むらにしゃがみ込んだ。何してるんだろうと不思議に思っていると、ジェイがこう言った。
「ローズは花や薬草に興味があるんすよ。ついでにいくつか持ち帰りましょうや」
花……すっかり忘れていた。花を愛でるということを。
「そうだね」
私も賛成し、ジェイと一緒に草むらへ向かうと、更に奥へ見に行ったマホガニーがこちらに向かって手を振った。
「おーい! こっちにも花が沢山咲いてるぞ!」
「あまり暗いところには行かないようにね〜」
私が注意を促していると、ツルギが何かに気がついて暗がりの向こうを見上げた。私は何か嫌な予感がした。きっとツルギは、本能的に警戒し始めたのだ。
「マホガニー、ツルギ、こっちへ」
すっかり戦闘慣れした二人はすぐに私のところに戻ってきた。ジェイも何かの気配に気づいているようだ。
「ローズもこっちに来い」
「え、どうして……」
「いいからいいから」
ジェイの言葉の意図まで分からないローズだったが、仕方なくこちらに戻ってくる。と同時に、暗がりからぬぅっと人影が現れたのだ!
「くっ……!」
ドサ……。
見た目ボロボロの女性が目の前で倒れた。武装しているところ傭兵のように見えたが、この辺りには紛争の情報はない。なぜこんなところにと思ったが、そんなことより私は手当てをしなくてはいけなかった。
「手伝いやす」
「ありがとう、ジェイ。まずは体を仰向けにして……」
ジェイに手伝ってもらい、私は女性を仰向けにさせて気がついた。その顔に見覚えがあったのだ。
「イネス、どうしてこんな怪我だらけに……っ?!」
かつてのロドスのオペレーターだった人物だったのである。