「へぇ、イネスがそんなことを?」
避難民のことは他の人たちに任せ、私はイネスから聞いた話をレオンハルトに伝えた。スノーグラウスもどこかで同じ話は聞いているかもしれないが、何も言ってはこなかった。
「信じ難い話だけどね……」私は言葉を切る。「もし、天災の偽造をしなきゃいけない理由があったとしたら、トイフェルのコピー人間と関係しているのかもしれないと思って」
「うーん、そうだなぁ。可能性は色々ありそうだよね」レオンハルトは天を仰ぎながら考える素振りを見せた。「例えば、実験に失敗したコピー人間たちが暴れた、とかね」
「うっ、それは頭が痛くなるな……」
失敗作が暴走した。そんなオペレーターがかつてのロドスにはいた。考えるだけでゾッとする。
「頭が痛いのか? 薬は持っているのか、ドクター」
ただ、事情の知らないスノーグラウスだけは人を気遣う言葉を言ってくれる。いや、違うんだよ……とは思うものの、ロドスの裏の顔を果たして彼に話せるかと思うと、説明するのも気が重くなる。
「スノーグラウスって会ってそんなに経ってないけど、丸っきり他人じゃないみたい」とレオンハルトが言った。「やっぱりエアースの息子だからかな?」
「レオンハルトの話はよく聞いていた。父さんはあんたに手を焼いていたみたいだが、信頼しているという感じだった」
レオンハルトに対してもフランクに話すスノーグラウス。レオンハルトは興味深げにスノーグラウスに詰め寄った。
「ってことは、俺のあんな話やこんな話も聞いてるってこと? 俺が英雄伝説になった話とか」
「英雄伝説の話は聞いていないが……」
そうして砂漠を歩き続けていた私たちだったが、スノーグラウスが何かに気がついて足を止めた。レオンハルトも気づいたようで、私は危うく二人の背中にぶつかるところだった。
「何かいるみたいだね」
レオンハルトが声を潜めて言う。その隣でスノーグラウスは頷いた。
私は二人の隙間から覗き込むように向こうを見たが、そこには砂と丘が広がるばかりで何もないような気がした。
次の瞬間だった。
目の前から砂飛沫が上がった。地面の中から何かが飛び出してきたのだ。
「大丈夫?」
私は驚いて後ろに倒れかけたが、すぐにレオンハルトが気づいて支えてくれた。
その隙にはすでにスノーグラウスは動いていて、地面に飛び出してきた人間……どうやらペッローのようだ……が凍らされていたが、急襲者はそれだけではなかった。急襲者が二名、空を覆って私たちを狙っていた。
ガンガンッとスノーグラウスのタレットソードの刃が飛んでその二名も倒したが、致命傷までではなかったようで、体勢を持ち直すなりすぐに飛びかかってきた。私はレオンハルトに片腕で支えられたまま、彼がもう片方の腕で槍を構えたのを見た。
「君たちが宝石か廃石か俺が選別してあげるよ!」
そうして放たれるレオンハルトのアーツで、二人はようやく地面に伏せた。私は彼らの首後ろに、奇妙な刺青があることに気がついた。
「天災があった街はまだもう少し先だがどうする?」
スノーグラウスが私たちに聞いた。私は判断を仰ぐようにレオンハルトの方を向いた。
「現地に行ってもいいけど、その時はみんなで行った方がいいかもね」それより、とレオンハルトは私からスノーグラウスへ視線を移した。「この人たちをラズハに連れて帰ろう。まだ息はあるよね?」
「ああ」
その時、静止したように凍っていたペッローの男がばたりと倒れた。スノーグラウスが凍るアーツを解除したのだと思われる。
「スノーグはそっちの二人を抱えて。俺はこっちを連れてくから」
レオンハルトはスノーグラウスにそう頼んだ。スノーグラウスは少しも嫌な顔せずに両脇に自分より体格のある男を二人抱え、レオンハルトは凍っていたペッローの男一人を背負った。
私は非力なのでそんな大男を抱えるのは一人だって無理だが、実はロープを抱えていた時も重かったとは口が裂けても言えない。私は頼りになる二人に、心から感謝を伝えた。
「いつもありがとう、レオンハルト、スノーグラウス」
「どうしたの? 急に。いつものことじゃん」
「俺は別に気にしない」
レオンハルトの横に並ぶスノーグラウスがやっぱりエアースカーペによく似ていて、私は慌てて眉間に手を当てた。