双星方舟〜ラズハ・シップ〜   作:青瑠璃

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ロドス

 

「それって……」

「ロドスに帰るの?!」

 私が何か言うより早く、お喋りなマホガニーが声をあげた。目はキラキラしている。ケルシーは再び膝をつき、頷いた。

「ああ、そうだ」とケルシーは話し続ける。「その為にはお前たちの力が必要だ」

「ぼく、なんでもやるよ!」

「ちょっと待って、ケルシー」

 やる気満々のマホガニーを引き止めるように私は言葉を挟んだが、こちらに余裕は与えてはくれなかった。

「ロドスは壊滅状態だ。だがロドスの基盤ともなる土台やコアは今もかろうじて動いている」とケルシーが話し出したのだ。「土台とコアに、ロドス主要オペレーターをほとんど石棺で眠らせて冷却保存した。彼らはその土台とコアのそばで眠っているだろう」

「だがロドスは、敵の手中にあるのでは?」

「特殊な呪術を掛けてある。見つけ出すのは簡単ではない」

「だけど」

「戦う者が必要だ」

 ここまで話して、私はようやく口を噤んだ。ケルシーはいつだって自分の考えに真っ直ぐだ。それは今も変わらないということ。

「……ドクター、どういうこと?」

 これはツルギが質問をしてきた。私の白衣を掴み、少し不安そうだった。

「なんでもないよ、ツルギ……」

「いいや、これからのことを話した方がいい」

 子どもたちには何も背負わせたくない、と思っていた私だが、ケルシーは違った。ケルシーの言葉はまだ続く。

「お前の力が必要だ、ドクター。そして、オペレーターの子どもらであるその二人もな」

「まだ六歳なのに」

「六歳で戦う傭兵はテラ中にいる」

「だが」

「二人は確実に力を引き継いでいるだろう。それに、二人はお前とは考えが違うみたいだぞ?」

「それは……」

 私は双子たちを見下ろした。何も言ってはこないが、賢いマホガニーはどういうことか分かっている様子だった。きっとツルギも、この状況をよく理解したらケルシーの言葉にも頷くだろう。彼らは本当にいい子だからだ。

「時間が欲しい」

 私は言った。ケルシーに対する囁かな抵抗だったと思う。

「分かった、外で待っている。だが時間はない」

 ケルシーは静かに診療所を出て行った。私はケルシーを見送ってから、双子たちの前で膝をついた。

 

 

 

 

 

 

 

「ケルシーお姉さんの言っていたことは、理解出来たかな」

 私が聞くと、真っ先にマホガニーは頷いた。

「ロドスの土台のところに、パパとママがいるんだろ?」

 マホガニーが答えると、ツルギはようやく理解したみたいで目を大きく見開いた。

「パパとママが……?」

 ツルギが訊ねる。私は、俯くように頷いた。

「にわかには信じられないが、ケルシーならやりかねないだろう」

 私は今でも鮮明に思い出せる。石棺で目が覚めたこと、アーミヤの顔、目まぐるしい戦場のこと……。

「だが、ロドスは今は敵の軍隊の中だろう。ロドスに向かうなら……戦うしかないかもしれない」

「ぼく、行くよ」マホガニーの答えは明白だった。「ツルギも行くだろ? パパとママに会いに行くんだ」

「ドクター、あたし行く」

 マホガニーの迷いない言葉も、ツルギが私に向ける眼差しも、彼らの両親に本当にそっくりだった。

 私はそんな二人の頭を両手でぽんぽんと撫で、あるクローゼットに向かった。そこは洗いたての白衣や道具を仕舞っているよくあるクローゼットだったが、隠されたスイッチを押すと中身が回転し、ある二つの武器が現れた。

「マホガニー、ツルギ。いつか二人に渡そうと思っていたものがあるんだ」私は武器を二つ抱えた。「ソーンズの剣に似せたものと、レッドのナイフに似せた武器だ。二人の両親が使っていた武器だよ」

 その時見た二人の顔は、言いようがないくらい輝いていた。レプリカみたいなものだけど、いつかヒューマスがガラクタを便利品に作りかえる時に聞いていた話を思い出しながら少しずつ作っていたものだ。マズイ。思い出したら泣きそうになってきた。

「ドクター」心境を読まれたのか、マホガニーが話し掛けてきた。「ぼくたちがロドスを取り返す。だから大丈夫だよ」

 見た目はループスのマホガニーだが、それはソーンズにとてもよく似ていた。ああ、きっとソーンズもそんなことを言ったんだろうな。必ずロドスを取り戻す、だから泣いている場合ではないと。

「大丈夫」

 ツルギは口数は少ないが、私の頭を撫でて精一杯やろうとしているのはレッドによく似ていた。そう思うと、ますますロドスに帰りたくなってきた。

「行こうか」

 私は立ち上がり、マホガニーとツルギの手を繋いだ。マホガニーにはソーンズの武器を、ツルギにはレッドの武器をそれぞれ持たせて。

 集落の隅で細々と開院していた診療所は、今日で閉院だ。

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