私たちがラズハに連れ帰った三人の捕虜は、厳重注意のそれぞれの個室で、三面アーツ込みの強化ガラスで療養することとなった。
だがその内の二人は不備がなかったにも関わらず何故か息絶えてしまい、唯一生き残ったのは先程の戦いで凍らせられていた方の……ペッローの男だけとなっていた。
だがその男も何か語りかけることもなく、昼夜問わず暴れ回っていた。手足を鎖で縛っていなければ強化ガラスさえ壊すだろうと思った程だ。
ケルシーは必要な時は部屋に睡眠剤の霧を振り撒いて捕虜を眠らせて、栄養補給剤や炎症を抑える薬を点滴で注入していたが、目が覚めるとひと暴れし、ほぼ無意味なようだった。だが、ケルシーは何か思惑があるのか何も言わなかった。
私は仕事の合間を縫ってその捕虜に会いに行った。見張り同然にいる他の医療員は暴れる捕虜にウンザリしていた様子だったが、私が来ると捕虜の様子を度々報告してくれた。
私が捕虜に出来るのは一つだけだった。話し掛けることだけ。
コミュニケーションが取れるように、スピーカーに向かって話すと捕虜の部屋にまで声が届くシステムが搭載されていたのである。私はそれに向かって捕虜にずっと何度も話し掛け続けた。他愛もない話だったけど。
捕虜は話しかけていなくても暴れていたが、私が声を発するとそれだけで発作のように激しい動きを見せた。たまに片腕の鎖を無理矢理ちぎった程だ。
近くにいる医療員が、もう捕虜の面倒を見るのは辞めようと言いかけた者もいたが、私は声を掛け続けることが無意味だとは全く思っていなかった。かつてのロドスでは、訳ありのオペレーターや患者は何人もいた。私はその度に知っていったのだ。治療するのは、何も怪我や病気だけではないのだと。
その内にマホガニーやツルギが私の活動に気づき、双子たちも捕虜に話しかけに行っていた。今日はスノーグと戦いごっこしたとか、ローズと一緒に花輪を作ったとか。
その活動はどんどんと広がり、その捕虜に話し掛けに行く人物が代わる代わるやって来るようになったのだ。それが一体どのような変化をもたらしたのか私は文字にすることが出来ない。ただ、無駄ではなかったということだけが分かるだけで。
それは、ラズハが補給のために街に停留した時だった。私は補給のために一度離れるが、君に何か欲しいものがあるかと聞いた時、捕虜が反応を示したのである。
最初は、小さな変化だった。色んな人が話し掛けるのが日常となったからか、声が聞こえる度に暴れることが少なくなったのは確かだ。ただ、その日だけ違う反応を見せたのである。
「オレは……誰だ」
掠れた声だった。だが私にははっきりと聞こえた。
「私は、あなたのことが誰か分からない。だから手荒だけどあなたをそこに閉じ込めて話し合いを試みているところなんだ。……あなたはどこから来たのかな」
「オレ、は……」
ガラスの向こうでジャラリと鎖が動く音が響いた。私は目を上げる。捕虜の男はベットの上で上体だけ起こしていて、私と目が合った。
「オレは、トイフェルから来た……」
捕虜の男は、はっきりとそう答えたのだ。