「そうそう、そうやって書くんだよ」
「すごい、上手」
隔離病棟の奥、ガラス部屋には巨躯なペッローの男が一人、小さな子ども二人に挟められて何かしている。
私はここまで案内したサンドレコナーを振り返り、中に入るように目で促す。
私はサンドレコナーと並んでガラス部屋前に立った。そこには巨躯なペッロー男……ウッドグリーンが、マホガニーとツルギに教えられながら文字を書く練習をしていた。
「あの子どもは、ソーンズとレッドの双子の子ども。今は真ん中にいるウッドグリーンに文字を教えているみたいだね」
マホガニーとツルギには、ウッドグリーンに文字を教えて置けなんて言ったことはなかったが、何故なのか懐いて献身的に面倒を見てくれていた。ウッドグリーンも嫌がる素振りはしていないし、だいぶ人間らしさを取り戻しているようだ。
「ウッドグリーンは、偽造された天災現場の周辺に、埋められるように砂漠の下にいた」私はあの時の様子をありありと脳裏に浮かべた。「偽造された天災の理由も、ウッドグリーンの正体も今のところ何も分かっていないが、二つだけ分かっていることがある。トイフェルが関わっているということだ」
「トイフェル?」
「ロドスを襲撃した団体だよ。今は元ロドスを作り替えて拠点にしている」
私が答えると、サンドレコナーはますます口を固く閉ざした。サンドレコナーの中でも、ロドス襲撃の記憶は苦々しいものとして残っているのだろう。
「そしてもう一つは、トイフェルがコピー人間を造り出しているということ」私はイネスの言葉を思い出していた。「コピー人間にはどうやら首の後ろに奇妙な入れ墨があるらしい。トイフェルのマークだ。なんでも、悪魔の魂の模様とかで、火のような形をしている」
それから私はウッドグリーンへ視線を戻して、
「ウッドグリーンの首の後ろにも、そのマークがある」
と言った。サンドレコナーは、小さく息を吐いた。
「ラズハの面接を受ける前、身体検査を受けたのはその理由か」
「うん。だけどこの情報は、ラズハでは一部でしか知っている人はいない」
もちろん、それについてはマホガニーとツルギは知っている。
「この情報を私に伝えたということは、今後はそのような任務に出る可能性もあるということか?」
さすが、サンドレコナーは飲み込みが早かった。私は頷いた。
「トイフェルは指紋だけでも同じ人間を造り出すことが可能らしい。それらの話が全て本当なら、ロドスは……」
「ドクター、見て見て!」
「マッドグリーンが書いた」
その時、今までマッドグリーンの面倒を見ていたマホガニーとツルギが、部屋から出て来て一枚の紙を見せてくれた。そこには、大きな文字で「マッドグリーン」と書かれていて、横にはバラバラとマホガニーやツルギの名前も書いていた。そして、ドクターの文字も。
「すごいな。上手だ」私は二人の頭を撫でながらサンドレコナーに目配せをした。「今は言語療法を受けながら、マッドグリーンに文字の習得を促しているんだ。記憶喪失の可能性があるけど、トイフェルの情報を少しでも聞き出したくてね」
「それを子どもにやらせているのか」
「この二人、結構頼りになるんだよ」
すると、マホガニーが興味津々そうにサンドレコナーを見上げた。
「お兄さん! その頭の上のヤツはなんだ?」
「触りたい」
無邪気に話しかけてくる双子にサンドレコナーは動揺した様子だったが、他にもカラクリ羽獣を用意していたのか、懐から二羽取り出してきた。
「カラクリ羽獣だ」
サンドレコナーも見ない間に、子どもの相手に慣れたのかもしれない。