「よく来ましたね、ラズハの方々」
長い長い手続きを終え、私はマホガニーとツルギを連れてようやくプラマニクスと面会が叶った。
「久しぶりだな、プラマニクス……じゃなくて、ええっと」
いつも呼んでいた名前の方ばかり出てきて私は言い淀む。ここではなんて呼んだらいいのだろうか。この降り積もる雪に根付いた宗教について、私はほとんど知らないのである。
「気にしないで下さい。身共はあなたの前では、プラマニクスですから」
といつもの口調で話すプラマニクスは、何も変わっていなかった。ふわふわの防寒着に太めの尻尾。彼女を纏う不思議なオーラは、足元にいるマホガニーとツルギも気づいているだろうか。
「あ、お客様にはココアをお出ししないとですね。そちらの方々、ここの席にどうぞ」
プラマニクスはそう言ってマホガニーとツルギをテーブル席に案内してくれた。彼女が子どもに対して接待をしているのを目の当たりにしたイェラグの人々は、きっとびっくりだけじゃ済まされないのだろうな。
「ありがとう、プラマニクス。停留という理由でラズハを受け入れてくれて」
私も促されるまま席について言うと、プラマニクスの長いまつ毛が下を向いた。彼女を囲うようにある部屋のロウソクの火がゆらゆらと揺れる。
「あなたがわざわざこちらに出向いたということは、身共に何か伝えたいことがあるからではないですか?」
プラマニクスは静かに問いかけた。
マホガニーとツルギが、プラマニクスが出してくれたココアを飲みながらこちらを見上げた。二人は幼いが、空気を読まずに喋り続けるような子どもではなかった。
「プラマニクス、首の後ろを見せてくれるか」
「え?」
私の唐突な発言にプラマニクスは驚いたように目を丸くしたが、それくらいなら対したことはないと長い髪を持ち上げた。私は恐る恐るプラマニクスの後ろに回り込む。その首の後ろには……トイフェルのマークはなかった。
「ない……」
「一体なんです?」
ここで私はようやく安堵し、プラマニクスの前に戻ってくるとトイフェルの話を始めた。
「ロドスを襲撃したトイフェルが、ロドスの人間を探している可能性がある」私は言い切った。「目的は分からない。ただ、トイフェルでは倫理観を逸脱したような研究をしているという話だ。その研究の実験体にされる可能性があるんだ」
私が言い終わると、プラマニクスは目を閉じた。
「……ロドスが襲撃された事件の話は、ここイェラグにも流れてきました」それからおもむろにプラマニクスは瞼を上げ、そのアッシュグレーな瞳が私の目と合った。「正直、驚きました。あなたのような人がいながら、どうして……と」
ロドスには、彼女の兄妹もいた。一人だけ生き残ってしまった六年間をプラマニクスはどう過ごしていたのか、と考えるだけで私は心苦しい。例え、仲の悪い兄だとしても。
「申し訳な……」
「ロドスの皆は、そのようなことを言う人たちではないでしょう?」私の謝罪の言葉を遮ってプラマニクスは話し続けた。「トイフェルに、カランドの裁きを受けさせましょう」
それからふわっと立ち上がり、プラマニクスは自ら暖房器具の上にあるケトルを手に取った。もう片方の手にはココアの粉末袋がある。
「おかわりはいりますか? 身共が淹れてあげますよ」
プラマニクスは最初から、私がマホガニーとツルギを連れていても変な顔はしなかった。彼女は二人が子どもであることを気にせず、自分の客人であるのと同等の対応をしてくれたのだ。
「飲む!」
「あたしも」
マホガニーとツルギはプラマニクスに遠慮することなく答えた。プラマニクスは満足そうに微笑んだ。きっと、妹のことを思い出しているのだろうな、と私は思った。