「来たか」
まるで来ないことを想定していないみたいに、診療所から出てきた私たちをケルシーが出迎えた。マホガニーの体に合わない程の大きな武器にケルシーは一瞥はしたが何も言わなかった。見るとツルギは、もうどこかにナイフを仕舞ったようで手ぶらのようには見えた。
「早速我らの第二拠点に招待したいのだが、ここに来たのもたまたまの偶然でな」と話しながらケルシーは歩き出したので私は二人を連れてついて行った。「第二ロドス艦がオリジムシに襲われてあの通りなんだ」
「第二ロドス……?」
ケルシーがそう言いながら目で指した先には、小さな艦みたいなのがあった。ロドスと呼ぶにはせいぜい宿舎四部屋くらいしかない艦がそこで傾いている。それはこの集落が属する土地に接地したというよりは、墜落したように見えた。そしてその艦は数体のオリジムシに覆われて破壊されようとしている。
「早速だが依頼していいか、マホガニー、ツルギ」ケルシーは言った。「あのオリジムシを倒してくれ」
「「分かった」」
マホガニーとツルギの声が息ぴったりにハモった。彼らはそうやって、時々言葉を交わさずに息が合うことがあった。さすが双子といったところだろう。
ケルシーは二人のその反応を良しと見、私へと目を向けた。
「指揮の能力は衰えていないだろうな? ドクター」
「どうだろうな」
かつての作戦資料を、ボロボロになるまで見直さなかった日はなかった。だがケルシーにそこまでの説明をする必要はないだろう。
私は双子たちに指示を出した。
「今から私の言うことをよく聞くんだ、マホガニー、ツルギ」と言いながら、目の前の艦にいるオリジムシらを観察した。「マホガニーは右へ、ツルギは左だ」
「分かった!」
マホガニーは真っ先にそう返事をして右へ走って行ったが、なぜかツルギも右に向かってる……?!
「ツルギ、そっちは右だ!」
「あ、そうだった」
ツルギは確かに、普段の生活でも左右を間違えることが度々あった。それは六歳相応のようにも見えるが、そう何度も作戦中に左右を間違えるといつか致命的になりそうだ。
「はぁ!」
そうこうとしている内に、大きな武器を振り上げたマホガニーがオリジムシらに飛びかかって一気に数体も一掃していった。武器の製作には一切知識はなかったが、そこまでの性能だったとは私も知らなかった。それともマホガニーの力が予想以上に優れているということだろうか。
「えいっ」
一方のツルギも、素早くナイフを振り回して一体、また一体とオリジムシを倒していく。結果は見なくても分かった。彼ら双子たちの勝利だ。
「ドクター、倒したよ!」
「全部倒した」
そうして嬉しそうに笑うマホガニーとツルギだったが、ここは戦場だ。油断は出来ない。
「二人とも! 残りの敵がいないかよーく探すんだ!」
と私が言うと、途端に顔を引き締めて艦の周りを捜索し始める二人。戦闘の経験はそこまでないはずだが、彼らは確実に、本能的などこかで戦闘を覚えているようだ。
「ツルギ、後ろ!」
「えっ」
その時だった。まだ生き残りのオリジムシがどこからか飛び出してきて警戒中だったツルギの背中を襲おうとしていた。マホガニーが飛び出した。
「間に合えー!」
ドス……!
その瞬間、マホガニーが捨て身覚悟で武器を振り下ろしてオリジムシを倒した。が、その勢いでマホガニーは武器を落とし、地面へと投げ出されてしまった。
「大丈夫かい?!」
私は飛び出し、二人の元に駆けつける。マホガニーは顔についた土をこすりながら立ち上がり、ツルギは小さく頷いた。
「「大丈夫」」
双子は同時に同じ言葉を言って返事をした。後ろからケルシーがやって来た。
「そこそこ戦えるようだな。中に入ろう」
ケルシーはそう言って先に艦へと入って行った。私はマホガニーを立たせ、ツルギと一緒に艦へ向かった。マホガニーが落としてしまった武器を拾い上げながら、やはり彼に渡すのは早かっただろうかと、私は少し自分の決意に不安を抱いていた。