奇襲者たちを取り調べ室に連れて行き、私は情報の聞き出しをスノーグラウスに頼んだ。
「俺が……? 力技になるかもしれないが……」
とスノーグラウスは少し不安そうだったが、彼の経験を積ませたいということで、情報の聞き出し方法に手段は選ばないと私は指示を出した。きっと、エアースカーペもフリントもそうしていただろうと思って。
そうして執務室に戻ると、そこにはレオンハルトとロープがいた。レオンハルトは天災トランスポーターなので、あちこちで起きている不可解な天災跡地に向かっていいという自由行動を許可していた。その同行にロープがついて行っている。
「あ、来た来た」
私の顔を見るなりレオンハルトが人当たりの良さそうな笑みを見せて近づいてきた。彼の手元には新聞紙が握られている。
「ある街の地元の新聞なんだけどね、そこの記者が結構広い範囲を渡り歩きながら情報を得ているんだよ」と言いながらレオンハルトは私に見えるように新聞を広げて見せてくれた。「これ見て。目的も不明?! 次々と各地の病院が襲撃!」
「え」
私は驚き、新聞を受け取ってよく内容を読んでみる。そこには、街にある大きな病院や小さな診療所まで、何者かによって次々と襲撃されているということが書かれてあった。中には、医者が何人か誘拐されたという情報も書かれており、現在襲撃者を捜索中と。
「ドクター、六年間医者をやっていたんでしょ? もしかしたら襲われてないかなって思ってたんだけど、無事そうで良かったよ」
……いいや、違う。私はついさっき襲われた。
「レオンハルト、ありがとう」
私は新聞紙をレオンハルトに返した。
「ん? どういたしまして……?」
「それよりさ、なんか茶菓子とかないの? ここ」
困惑する様子のレオンハルトを横目に、ロープは勝手に執務室の棚を漁っている。生憎だが、ロドスより豊かではないラズハでは菓子類は常備していない。
「ここの留守、頼んで置いても?」
私はとりあえず今はそんなロープに取り合わずにレオンハルトへ目を向けた。レオンハルトはきょとんとしている。
「いいけど、ドクターはどこに?」
「スノーグラウスのところに」
私はそう言い残し、執務室を飛び出した。
「スノーグラウス!」
「ドクターか」
私は取り調べ室に駆け込んだ。そこには、平然とした様子で立っているスノーグラウスと、その床で倒れている捕虜数名の姿があった。先程私たちを襲ってきた上空からの奇襲者である。
「命までは取っていない。だがまだ、情報を聞き出すには……」
「一つ分かったことがあるんだ」と言ってから私は呼吸を落ち着けた。「ソイツらは、私を襲った可能性がある」
「ドクターを?」
「そう。……医者を誘拐することが目的だったかも」
「医者を……」
スノーグラウスは視線を倒れたままの捕虜たちに移した。私も捕虜たちを見やる。
「首の後ろに入れ墨は?」
「ある」
「トイフェルの?」
「ああ」
首の後ろにあるトイフェルのマークのことはスノーグラウスにはもう伝えてある。ということはもしかして。
「言葉を話せそうになかった?」
「……そうだな」
それからスノーグラウスは捕虜たちを一人一人抱え、マットがあるベットに寝かせ始めた。この取り調べ室は元は宿舎を改造しているので、空間が広いのである。ベットもそのまま置きっぱなしということだ。スノーグラウスは捕虜たちをベットに寝かせている間、浮かない顔をしていたが。
スノーグラウスは、エアースカーペによく似てはいるが、優し過ぎるなと私は思う。敵に無意識下で手加減をしている。彼が敵にトドメを刺したところをこの目で見たことがないのだ。
私は、スノーグラウスにこの仕事を任せるのは酷だったろうかと悩み始めていると、向こうがぽつりと話し出した。
「前にあんたは、自分が弱いと言っていたな」そしてスノーグラウスは捕虜たちを全員マットの上に寝かせるとこちらを振り向いた。「俺はそうは思わない。ドクターはずっとずっと強い。俺なんかより」
「そんなことは」
「力のことだけじゃない」
スノーグラウスは私をじっと見つめた。淡い空色みたいな瞳が、フリントの眼差しによく似ている。
「母さんに言われたことがあるんだ。拳を振ることが全てじゃないんだって。俺とボクシングごっこしながらよくそんなことを言っていた」スノーグラウスは懐かしむように視線を落とした。「今なら、分かる気がする。本当の強さというものを」
「君ならもっと強くなるよ。私よりずっと」
だって君は、エアースカーペとフリントの息子なのだから。
「ありがとう、ドクター」
グラウスが優しく笑った。