情報がなかなか集まらず何か策はないかと悩んでいた時、執務室のノック音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼する」
返事をすれば、入ってきたのはサンドレコナーで、何事かと思っていると後ろからムースを連れて執務室に入ってきたのだ。
……やっぱり二人、付き合っているのでは。
そんな思惑をよそに、サンドレコナーが口を開いた。
「何を躊躇う必要がある。ドクターに用があるんだろう」
それは後ろのムースに掛けられた声だった。
なんだろう? と私はムースへ視線を移す。ムースの左腕はラズハが処方する薬によって鉱石病の進行は抑えられているようだが、キレイさっぱり治す方法は今のところ見つかっていない。ムースは左腕を隠すように袖を下ろしていた。
「あの、ドクター……」ムースがよくやく話し出す。「ケ、ケーキを焼いたんです……抹茶味とマンゴー味、どっちがいいですか?」
とムースはずっと手にしていたトレーにあるケーキをこちらに向けた。どちらのケーキも美味しそうだ。
「わあ、ありがとう、ムース。丁度甘いものが欲しいと思っていたんだよ」
根詰めていたからいいタイミングだ。私は席を立ち、ムースの方に近づこうとすると、ムースがなぜかわずかにサンドレコナーの後ろに隠れた。
「えっと、ムース……私嫌われてる?」
六年も経てばこんなに変わってしまうのかと私は寂しく思ったが、ムースは首を振った。
「ち、違います! で、でも、前みたいにワガママ言ったら嫌われるかと思って……」
「そんなことないよ!」
むしろ、もっと構ってあげたら良かったのにと思っていたから。
「私の用事はここまでだ。失礼したな」
とサンドレコナーが立ち去ろうとしたら、ムースがぐいっと彼の裾を掴んだ。
「サンドレコナーさんも一緒に食べましょ!」
ケーキは何個もトレーに乗っていた。ムースは最初から、サンドレコナーとも一緒に食べるつもりだったのだ。
やはり彼らは付き合っているのでは……私は、ムースを見つめるサンドレコナーの優しい眼差しを眺めながら、密かにそう思った。
ある日のこと。
ラズハの食堂で昼食を取ろうとしていると、厨房から賑やかな声が聞こえてきた。
「ジェイお兄さん、これはどこに置いたらいいんだ?」
「あー、それはすっねぇ……」
「ごめんなさい、ジェイお兄さん、お皿割っちゃった……」
「えっ、怪我ないっすか」
厨房を覗くと、ジェイの手伝いをしているマホガニーとツルギの姿があったのだ。
「料理しながら子守りもさせてすまないな、ジェイ」
と私がカウンターから声を掛けると、ジェイがマスクをズラしながらこちらに近づいてきた。
「いえ、子育てしながら料理すんのは慣れてるんで大丈夫す」とジェイは言う。「それよりこっちが申し訳ねぇっすよ。二人に訓練させてくれって言われたんすけど、何したらいいか分かんなくて……でこうなりやした」
「ふふ、料理の訓練だね」
と話している間も、ジェイはちらちら厨房を振り向いていた。多分、怪我しないか心配しているんだろな。
「……ソーンズさんとレッドさんに怒られやしないすかね。二人に料理の雑用やらせてて」
とジェイが小声で聞いてきたが、多分怒らないと思うけどなぁと私は返す。何よりマホガニーもツルギも、楽しそうだから。
ふと目を逸らすと、昼食をトレーに乗せて食堂を出ていこうとしているスノーグラウスを見かけた。私は声を掛けに行った。
「食堂で食べないのかい?」
「俺が飯を食ってる様子を見たら、アイツらも飯の食い方を覚えるかと思ってな」
スノーグラウスの言う「アイツら」は、前に捕まえた奇襲者のことだった。スノーグラウスはその後、ずっと捕虜たちから情報を得る役を与えていたが、それがどうやら面倒を見ることに切り替わったようだ。やり方はスノーグラウスに任せたが、それは私も予想していなかった。
「ありがとう、スノーグラウス。大変な役をやらせてしまって……」
「俺は大丈夫だ」
そう言ってスノーグラウスは食堂をあとにした。ラズハにスノーグラウスがいなかったらと思うと、彼の恩恵は大きい。あれでまた十四なのだから驚きだ。