パーティ参加に相応しい衣装をクロージャから調達してもらい、それらをマホガニーとツルギに着てもらった。
いつもゆったりとした服に慣れている二人は動きがきごちなかったが、社交場マナーを教えながら何度か着ている内に、二人はスムーズに動けるようになった。
そして念の為、マホガニーとツルギには体術訓練をしてもらった。パーティ会場は武器の持ち込みが禁止だ。何かあった時のために、スノーグラウスが先生となってマホガニーとツルギに体術を身につけてもらった。
それにしても、捕虜たちの面倒を見ながらマホガニーとツルギの特訓にも付き合ってもらって、スノーグラウスの体力は大丈夫だろうか。
そうして特訓をしている時、レオンハルトがやって来た。レオンハルトは何か双子たちに話し込んでいて……え?!
ツルギが、何かを手にしたまま体が宙に浮かんだのだ!
「レオンハルト、何したのっ?」
私が慌てて駆けつけると、レオンハルトがニコリと笑った。
「これは俺じゃないよ。ツルギのアーツだね」
「ツルギの……」
見るとツルギには、ペンダントのようなアーツユニットが握られていた。レオンハルトはこう説明した。
「初心者用に作られた簡単なアーツユニットなんだけど、ツルギはこんな小さなアーツユニットでも人を持ち上げることが出来るみたいだね」
「これは……すごいことなの?」
私はアーツについてはほとんど分からなかった。いつかに記憶喪失となってしまったからだろう。
「うんうん、めちゃくちゃすごいことだよ! この小ささだったら武器とは思われないし、パーティに行くならこれを持っていったらいいよ!」
とレオンハルトが言うと、足元でマホガニーがふてくされた。
「いいなぁ、ツルギだけ」
「君は、薬の使い方が上手いんじゃないかな?」
「え」
「ちょっとレオンハルト、マホガニーに妙なこと吹き込まないでよ……」
普段から危ない薬を持ち歩くなんて、どっかの誰かみたいだ。
だが、察しのいいマホガニーはレオンハルトが言わんとしていたことが分かったみたいで。
「分かった! 爆発する薬作ってくる!」
あーあ、やっぱりやる気を出しちゃったみたい。マホガニーはそう言い残して、訓練室を飛び出して行った。
沢山の煌びやかな人々、豪勢な料理、常に流れているクラシック音楽……。マホガニーとツルギは、初めて見るパーティ会場に目を輝かせていた。
「ご機嫌よう、ドクター!」
そこにシンプルなドレスで身にまとった女性が近づいてきた。このパーティ会場の主催者、パールホワイト企業の女社長だ。
「ご機嫌よう、シルクさん」
私はいつもの防護服に身を包んで挨拶をしたが、足元のマホガニーとツルギは着慣れない衣装のままぎこちないお辞儀をした。パールホワイト企業の社長であるシルクは穏やかな笑みを浮かべた。
「お話は聞いているわ。子ども用のスイーツも用意したのだけれど、迷惑だったかしら」
「お気遣い感謝します」
シルクは父親同様優しい人物だった。それに彼女の企業が販売している薬の成分はどこの販売会社より質が良いから、六年振りに会っても変わらないのは安心だ。
「今は……ラズハ・シップのドクターということでよろしいのかしら?」
小声で私に聞いてくるシルク。彼女はこちらの事情を少しでも知っているのだろう。私は小さく頷いた。
「あなたとならいつでも前と同じ契約を結ばせてもらうわ。……あなた方の理想、私は応援しているから」
「ありがとうございます」
「では、またあとで」
そうして他の席へ挨拶に行ったシルクの背中を見送りながら、六年はあまりにも経ち過ぎたなと私は改めて感じた。ロドスでパールホワイト企業と交渉の契約を結んでいた時は、彼女はもっと幼かった。私も歳を取ったんだなと思う。
「ねぇ、ドクター、あっちのお菓子食べたい」
その時、マホガニーにコートの裾を引かれて私は彼が指しているテーブルを見やった。そこにはティースタンドのあるテーブルがあり、色鮮やかなケーキやお菓子が並んでいたのだ。用意してくれたスイーツとはあれらのことだろう。
「行こうか」
と私がその席に向かうまで、ツルギは何も言わずについて来るだけだった。マホガニーがスイーツを食べ始めた時、ツルギがぽつんと言った。
「ドクター、窓の外の上から、誰かが覗き込んでる」
「え」
ツルギに言われた方向に私は素早く窓を振り向いたが、そこに人影は見当たらなかった。私は息を飲んだ。
「気づかないフリをするんだ、ツルギ。だけど警戒はしてて」それから私は、ケーキをツルギの方に差し出した。「これはどうかな? 食べてみる?」
「ん……」
六歳の子どもに演技をさせるのは酷だったが、目の前のケーキで気が逸れたみたいだ。私はホッとするのも束の間、また誰かが話し掛けてきた。
「これはこれは、アナタはラズハのドクターではありませんか」
誰だろう、このちょび髭ヴァルポっぽい人は。私は社交辞令的にお辞儀をした。
「ご機嫌よう。失礼ながら、あなたは……?」
「おっと、いきなり失礼したのはこっちだったな。名刺を」とちょび髭男は自分の秘書らしき者にアイコンタクトを送って名刺を渡してきた。「ワタシはアウトロー企業社長でね、人々に便利な道具を開発し、提供しているのですよ」
「私は、ラズハ・シップのドクターです。事情があり、本名を明かしていないのですが、名刺はこちらです」
私も名刺を渡すと、またもや秘書に受け取らせてロクにこちらの名刺を見ていない。感じ悪いのが第一印象だった。
「それにしてもドクター、子連れなのに護衛一人もつけていないのですかな?」あ、やっぱり嫌なタイプの人間だ。「世の中は物騒ですからね、護衛はつけた方がいいですよ。それとも、そちらは人手不足なので? それならワタシから何人か紹介しますよ」
「護衛はこの子たちです」
私は毅然とした態度で言い返した。ちょび髭男は驚いたように目を見開き、それからクリームだらけのマホガニーとツルギを見下ろした。
「冗談はやめて下さいな、ドクター。そんな小さな子どもがどうやってアナタを守るのです?」とちょび髭男は笑った。「どこも人手不足でしょうし、意地張ってそんな冗談を言わなくても何も恥ずかしいことでは無いですから……」
「これ、何に見えます?」
私はレオンハルトがツルギに渡した小さなアーツユニットを見せた。それは一見ペンダントのように見えた。
「それは……ペンダントか何かですかな?」
急になんなんだと言いたげな顔でちょび髭男は聞き返す。私は言葉を続けた。
「彼女は、近くに簡単なアーツユニットさえあれば、あなたをあっという間に空へ投げ飛ばすことも出来ます。それに、彼の方は力がありますので、怒らせたら何するか分かりませんよ」
「そんな大袈裟な! 六か七くらいの子どもだろう!」
と未だに信じないちょび髭男に、さすがにマホガニーも気づいたのか、どうする? と言いたげに私の方を見つめてきた。今でも飛びかかっていけるという体勢なのだろう。
「あの、アウトローの社長さん……」
言われっ放しは双子たちに申し訳ないと私が強く言い返そうとした時、ツルギがいいタイミングであることをしてくれたのだ。
「見て、ドクター。ケーキを浮かべたよ」
ツルギがアーツを使ってケーキをいくつも空中に浮かべたのだ。ケーキの中には崩れやすいものもあるというのに、綺麗な形のまま。
「そんな手品程度じゃ……」
それでも傲慢な態度を改めないちょび髭男に、性格悪い人間は一生性格が悪いのだろうと思っていた矢先。
バリーン!!!!
先程ツルギが警戒していた窓が、一斉に割れ始めたのだ。