その後、パールホワイト企業から賊の侵入を許してしまったことのお詫びが届いたが、襲撃は彼女たちのせいではないので私は責め立てる気はなかった。
パールホワイト企業は良い製品を取り扱っているため、強奪しようとする賊もかなりいるのだ。
今回は貴族たちに恨みを持った賊たちの襲撃だったと判明したが、私には一つ気掛かりなことがあった。私が執念深く追い掛けられた理由だ。
私が執務室であのパーティ会場で起きた戦場のことを思い出していると、珍しい訪問者がやって来た。
「重要な情報を持ってきたわ」
イネスだった。
「なんだい?」
私は気持ちを切り替え、イネスが持ってきた書類を受け取る。それは、一見よくある広告雑誌のようだった。
「ここの公開求人を見て」とイネスは雑誌の最後のページを開いた。「ここに、医者の求人広告があるわよね?」
「まぁそうだな」
「ここのコードを読み込むと小さな企業の公式ページに繋がるんだけど、何をやっている会社なのか不明瞭なのよ。それで調べていたら、面白いことが分かったわ」
「面白いこと?」
私はイネスを見上げる。イネスの言う「面白いこと」は大抵悪い報告だ。
「トイフェルの子会社なのよ」
「トイフェル……」
私はついこの前のことを脳裏に蘇らせながら、ある答えに辿り着こうとしていた。
「更にもっと調べたら、そういった子会社が何個もあって、その内の一個か二個くらいは闇企業だったわ」とイネスの言葉は続く。「闇企業は奴隷商と繋がっていて、そこでも医者を求めていたのよ。しかも高値で買い取るって。これがどういうことか、あなたならもう分かるわよね?」
「トイフェルは医者不足ということか……?」
私は疑問のようにイネスに投げかけたが、彼女からの返答はなかった。それが何を意味するか分からない。ただ、前にレオンハルトが教えてくれた新聞の情報から、医者が絡む事件が全くの無縁だとは思えなかったのだ。
「ありがとう、イネス。覚えておくよ」
私がそう言うと、イネスは何も返事をせずに執務室を出て行った。彼女は偵察兵だ。また更なる情報を探りに行ったかもしれない。
私は珍しく一人きりとなった執務室で大きなため息をつき、天井を仰いだ。色々と急がなくてはいけない状況の中、まずは何をするべきなのか頭をフル回転させて考えた。
捕虜たちからの情報は得られなかったが、いいこともあった、とスノーグラウスから話がきた。
とりあえず見に来て欲しいと、取調室だった捕虜たちの部屋に向かうと、複数人たちの男女たちが、マッドグリーンの時と同じく一般人と同じような身なりと動きを習得していたのだ。
「あ、スノーグ兄貴!」
「スノーグさん!」
しかも、捕虜たちは全員、スノーグラウスを慕うようになっていて流暢な共通語も話していた。
「えっと、これは……?」
私が困惑しながらスノーグラウスに聞くと、彼はいたって普通の顔をしたままこう答えた。
「色々面倒を見ていたらいつの間にかこうなっていた。みんな、俺の部下になりたいらしい。弟分でもいいと」
私は捕虜だった彼らをもう一度見回す。彼らは五人。一人女性はいたが、誰もがスノーグラウスに尊敬の眼差しを向けていた。ある意味スノーグラウスの努力の賜物ともいえるだろう。
「戦えるのかい?」
「ああ、多少は」
そうして私は、ケルシーに頼み込み、かつて私たちを急襲してきた彼ら五人を、スノーグラウスの部下ということで受け入れることとなった。
私たちを襲撃する以前の記憶はやはりないとのことだったが、彼らは本当にいい人たちで、ラズハにいる患者たちとも優しくしてくれてすぐ馴染めたようだ。
その内に、スノーグラウスと部下たちは実戦にも出るようになり、金欠気味なラズハに経済的な一面を支えてくれる部隊となった。護衛任務や機密情報の護送などにスノーグラウスの部隊が採用されたのだ。
そうして、ラズハの活動はどんどんと大きくなるものの、肝心なロゴスの話は全く見つからないまま、月日が流れていった……。