双星方舟〜ラズハ・シップ〜   作:青瑠璃

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砂漠の小屋

 

 私たちは先に行った仲間たちと合流地点を決めて再会した。その頃にはもう、日が暮れていた。

「ドクター、もう少し着込むように」

 砂漠の夜は冷えるから、とサンドレコナーに注意されるだけで目頭が熱くなった私はきっとどうかしている。サンドレコナーがロドスにいた時もよく口にしていた言葉だったからだ。

「ドクター、偵察を完了しました……」

 と私に近づいて報告に来たのはムースだ。隣にはスノーグラウスがいる。

「二人はあの小屋に入って行った」とスノーグラウスが言葉を続けた。「中には複数人の武装した兵士たちがいる。明確な人数は分からないが、何か様子がおかしい」

 様子がおかしい? 私はスノーグラウスを見やったが、他になんて言ったらいいか分からないみたいな顔をしていて困っていた。偵察ならイネスに頼みたかったが、生憎今はいない。

 私は小屋を見下ろした。私たちは、サルカズの子どもたちが逃げ込んだ小屋がよく見える砂漠の崖の上にいる。

「……どうしやす?」

 ジェイが夕食を準備しながら私に訊いてきた。相手に居場所をバラさないように、無煙焚き火台を使っている。ロドスでオペレーターを務めている間に身についた動きなのだろう。

「もう少し様子を見よう」

 私はそう返事をして考えた。あのサルカズの子どもは何も持っていなかった。てっきり、廃墟となった街から何か使えそうなものを漁る孤児か何かなのかと思ったが、なぜあの武装だらけの兵がいる小屋へ逃げ込んだのか。

「ねぇ、母さん。あの子どもたち、ただの泥棒って感じじゃなかったよね?」

 無煙焚き火台を囲いながら、ネイルが唐突に雑談を始めた。話し掛けられたロープも特段変わった様子なく会話を続ける。

「アレは誰かに脅されてるね。誰か怖い人とか強い人に、何か持ってこいって言われてるのかも」とロープは言って私の方を向いた。「ねぇ、ドクター?」

 これは、私にヒントを与えているという感じだった。ロープはその筋に関して詳しいところがある。私はロープの意図を汲み取って頷いた。

「脅されている……あんなに小さい子が脅されているなんて、可哀想です」

 と言ったのはマッドグリーンだ。思えばあの子どもたちはマホガニーとツルギくらい小さい子だった。マッドグリーンは二人と仲がいいから、あんなに貧相で怯えた顔の子どもは、初めて見た時はショックだったのだろう。

「うーん、今日はここで野宿かな?」

 レオンハルトはいつも通り、明るい声でそんなことを言った。そうしている間にジェイの簡単な夕食が出来上がり、皆に食事が配膳された。

 

 

 

 

「小屋から誰か出てきた」

 しばらくして、変化があった。もうすっかり夜になった時間だ。小屋から少しも目を逸らしていなかったスノーグラウスが、そう言って私に伝える。私はもう一度小屋の方を見やる。

 そこには、屈強そうなサルカズの男が一人、廃墟で見掛けた男女の子どもを連れて小屋から出てきた。ただ男は、あまりにも子どもたちを乱暴に連れ回していて……次の瞬間地面に押し倒したのだ!

 この様子に、今まで冷静だったスノーグラウスの耳が一気に逆立ち、無口になっていたマホガニーとツルギも反応を示した。私も平然とはしていられなかった。

 男は子どもたちに何度も蹴りを入れたのである! 子どもはほとんど無抵抗のままされるがまま。悲鳴までは聞こえる距離ではないが、間近で聞こえてきそうてで私は背筋が凍った。

「……どうする?」

 スノーグラウスは今にも飛び出したい思いを抑えるように、背中のパレットソードに手を当てながら私に聞いた。私だって助けに行きたいが、小屋にいる兵士の数が不明瞭だ。返り討ちに遭ったらそれこそ誰も助けられない。

「耐えるんだ」

 私はスノーグラウスの手に自分の手を重ねた。スノーグラウスの手は震えていた。彼は忍耐力があるだろうが、まだ十四だ。ごめん……私は何度も心の中で謝りながら、次にすべきことを考え、導き出した。

「作戦を考えよう」私は仲間たちを振り向いた。「あの辺りの地形、小屋の構造、敵の数……分かることだけ書き出すよ」

 私はそこらの小枝を拾い、薄暗いランタンを手元に近づけた。仲間たちは私の聞いたことに分かることだけ答えていき、それを私は地面に書き出す。紙もペンも端末もない状態で、私は作戦資料を作り出していったのだ。

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