その後大男は、捕虜としてラズハに連れ帰った。
尋問はスノーグラウス自らが買って出てくれたが、大男……ホーンバーンと名乗った彼は、聞いたことに対してぽんぽんと答えていったそうだ。
まず、男女のサルカズの子どもは、その日暮らしをしていたのをストレス発散のためだけに連れ去り、盗みをさせて自分は楽に暮らせるようにしていたとのこと。名前は”古代サルカズスラング”で酷い名前がついていたので、私たちはイウニとセネトと呼ぶことにした。どちらも恵みを意味する言葉から取ったものだ。
ということで、ホーンバーンを含めるイウニとセネトは、どちらもどこか遠い辺境の地からやって来たことは確かなようで、古代サルカズ語を話すことが分かってきた。ホーンバーンはこちらが分かる共通語も話すが、イウニとセネトは古代サルカズ語のみしか話さず、コミュニケーションは困難を極めた。
そして、ホーンバーンが言っている部下というのは、武器だけ所持していてあとはボロいシャツとパンツしか身につけていない挙動不審な彼らのことだった。アーツを使ってきた者も身なりが悪く、別の部屋で尋問はしてみたのものの、彼らは一人も言葉らしい言葉を発しなかったのだ。声が出てきても「う」とか「あ」とかのみで、目はいつも焦点が合わない。部屋にいると意味もなくウロついていてまるでゾンビのようだった。
そのことについて聞くとホーンバーンは、彼らはあの砂漠の廃墟で砂に埋もれている奴らから拾ってきただけだからそれも詳細は分からないとのことだった。食べ物もマトモなものを食べないから生ゴミを食べさせていたとか酷い話も聞かされたが、それでも彼らは文句の一つも言わず、抵抗するどころかどんどんとホーンバーンの言うことを聞くようになったのだと話した。
「正直、俺ぁアイツらは捨てられた奴隷か何かだと思っていた。痛いの悲鳴もあげねぇし、倒れたら使い捨てりゃあいいと思っていたし。だけど、やたら武器だけは使いたがったからな。適当なのを与えてやっていた」
とホーンバーンは語っていたらしい。
それで私は、捕まえた彼らの身体検査をすると、二つのことが分かった。彼らは感染者ではないことと、首の後ろにトイフェルのマークが刻まれていたことだ。
「このことについてどう思う?」
スノーグラウスたちからの報告書を眺めながら、私は会議室にいるケルシーに問い掛けた。ケルシーももう気づいているみたいだ。
「大方、トイフェルで使えなくなったコピー人間をあの砂漠の街辺りで埋めて捨てていたのだろう。だがあまりにも量が多くなり過ぎて天災めいた無差別攻撃を仕掛け、廃墟をごみ捨て場としたかったのだろうな」
私は廃墟の広場で見た遺体の山を思い出していた。あのあと、私たちはしっかり防護服を着て遺体を丁寧に地面に埋めてあげた。墓石や墓標を立てるものはなかったから小高く砂を盛って弔った。
「だが、天災トランスポーターの誰かがあの廃墟の異変に気づくはず……だよね?」
と私は、今回の会議に参加しているレオンハルトへ目を向けた。レオンハルトは考え事をするいつもの仕草のように天井を軽く仰いだ。
「うーん、でもさ、天災トランスポーターが記録しに来たあとにあんなふうに遺体を捨てていたら、天災とは関係ないと思って気に止めないのかも」とレオンハルトは言った。「俺は気にするけどね。まるでわざと誰かが天災を偽造したみたいに見えるし」
どちらにせよ、トイフェルのやっていることは人道を踏み外した行為だ。私は心の中で酷い嫌悪感を抱いた。
「次に、マッドグリーンの話なんだけど……」
私は気持ちを切り替え、会議に持ち込んだもう一つの資料を開く。マッドグリーンは廃墟やホーンバーンが従えていた彼らを見て、途切れ途切れに思い出したことがあるのだという。それをマッドグリーンは書類にまとめて書き出してくれたのだ。
マッドグリーンの書いた内容はこうだった。
オレは、真っ白な壁の部屋で立って並んでいた。オレはなぜそこで立っていて、何に向かって並んでいたか分からない。それに、その時のオレはなぜ立って並んでいるのか? という疑問すら思い浮かんでいなかった。
誰かの声を合図に、オレは一歩、また一歩と歩いていて、ようやく列が二つに分かれているのが見えた。右はなんて書いてあったか覚えていないが、左は「廃棄」みたいな言葉だったと思う。
オレは廃棄だけはされたくなくて恐怖を抱いていたが、その部屋の中では怖がる素振りさえしてはいけないと言われていたような気がする。だからオレは、前や後ろにいる奴らと同じように真っ直ぐ背筋を伸ばして順番を待っていた。
オレは廃棄されずに、右側の方に進んだ。
それからのことははっきりと覚えていないが、次にオレが思い出したのは誰か二人とあちこちに戦いに出ていたことだ。互いに言葉を交わしたことはなかったが、オレはその二人と、ずっと昔から親友だった気もする。親友の特徴はこのような感じで──。
私はマッドグリーンの報告書を最初目にした時はぎょっとした。マッドグリーンが「親友」だったかもしれないという人物像の特徴が、あの時私たちを襲ってきた彼らによく似ていたのだ。マッドグリーンと初めて会った時に一緒にいた、二人の特徴に。
「あの二人、マッドグリーンの親友だったのか……」
会議に参加しているスノーグラウスが、そう言って目を伏せた。スノーグラウスの攻撃でトドメは刺していなかったが、ラズハに連れ帰ったのち息絶えてしまったのがその二人だった。
「私たちは全力を尽くした。だが、もう救いようがない程弱っていた可能性がある」会議の中心ともなるケルシーが毅然とした態度で言い切った。「これらの報告書から分かるように、何かしらの検査をしてコピー人間を廃棄するか兵士にするか選別をしているようだな」
「そうかもしれないけど……」
「イウニとセネトは感染者だ。ラズハで治療することとなった。以上会議は終わりだ」ケルシーは立ち上がった。「コミュニケーションの方はお前に任せる」
「え」
さっさとそう言って立ち去るケルシーに、今度こそ私は追い掛けた。
「待って、ケルシー……」
そうして私は、ラズハの甲板に出た。