双星方舟〜ラズハ・シップ〜   作:青瑠璃

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行方

 

「ケルシー」

 私が呼び掛けて甲板に出ると、ケルシーはフェンスに向かって外を眺めていた。あ、この景色どこかで見たことがある。きっと、失った記憶のどこかで。

「まだ話したいことがあるんだけど」

 私はケルシーの背中に問い掛けた。ケルシーはこちらを振り返らずに答えた。

「あの子どもらのことだろう。あの子どもらは古代サルカズ語以外通じないが、ここで暮らす上では共通語は必要なものだ。いちいち私を通訳にしているようなら二人の成長は見込めない」

「そうだけど」

 そうじゃない。私は、ただ聞きたいことがあるだけだ。

「ならなんだ? トイフェルのことか? それとも捕虜のことか。そのことなら……」

「アーミヤのことだよ」

 私がずっと思っていたことだ。

 さらりと爽やか過ぎる風が吹いて、ケルシーの髪を揺らす。ケルシーは、ようやくこちらを振り向いた。

「……アーミヤは、私たちと途中までは同行していた」ケルシーの言葉は、いつも長いようで短い。「だが、ロドスにあったような技術をもう一度揃えるためには、時間と経費が必要だった。あと人手も」

 ケルシーの鋭い眼光が横を向いた。それがいつもより迫力がないのが私はむしろ怖かった。

「アーミヤの指輪……アーツ抑制リングだ。ロドス襲撃時に一つ、度重なる戦場に二つ、そして、残されたロドスの一部を取り返すために五つ壊れた。それでもアーミヤは戦い続けていた」

「じゃあアーミヤは……」

「生きてはいる」ケルシーは私と目を合わせる。「お前がいた石棺と同じようなものだ。具体的には違うが、アーミヤを石棺で眠らせてロゴスに呪術を掛けさせた。五年間眠り続ける呪術だ。私の声で目覚めるように」

「五年間?」

「ああ、そうだ。ロドスに冷却保存した主要オペレーターたちも五年間は眠らなければならない呪術と治療を施した。目覚めるためにはお前の声が必要だ」

 それは初耳だった。

「目覚めるための声をトリガーにしているのだ。誰の声でも目覚められたら困るからな」とケルシーは話し続ける。「お前が眠っていた時の声はアーミヤが目覚めるトリガーだった」

 今でも鮮明に思い出す、目覚めた時のアーミヤの顔。生きているという事実がどれだけ私を救ったか、言葉には出来ない。

「主要オペレーターたちはお前の声の方が聞き慣れているだろうからな。冷却保存は解くだけでいい訳ではない。だがお前を探し出すには、更に一年は掛かったが」

「六年経っても目覚めるのかい?」

「無論だ」

 しかし、ケルシーは私から目を逸らして背中を向けた。一寸先は真っ暗な夜。とても静かな外だった。

「ただ、お前が目覚めた時に全ての記憶を失っていたように、彼らも記憶喪失という障がいが起きている可能性がある」とケルシーは宙に向かって話す。「ソーンズとレッドも、自分に子どもがいたことを忘れている可能性も視野に入れた方がいい」

「……」

「なんだ、その沈黙は」

「そんな気がしていたんだよ」

 私はケルシーに並んでフェンスに両肘を置いた。今ラズハは、人気のない森のそばに停留中だ。ラズハの明かり以外何も見えないのが、私たちの未来のようにも見えて視線を落とした。

「覚悟はしているよ。だけど、マホガニーとツルギは……」

 私は双子たちの心情を思った。ずっと、両親のために戦っていたのに、いざ再会を果たした時、何も覚えていないと親から言われたらどんな気持ちになるだろうか。私は、フェンスの上で拳を作った。

「伝えてくる」

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