私のやることはまだまだあった。
ラズハにも、ロドスにあったように職業と職分を作ることとなったのだ。
というのも、スノーグラウスは砂漠の小屋での戦いで、思わぬアーツからの攻撃で自分が動けなくなったことを酷く悔しい思いをしているみたいだった。あの時、あの部隊に医療オペレーターのような存在がいたら、もっと被害は最小限に出来たかもしれない。私は、今いる戦闘員たちに職業と職分を分ける方法や審査の決まりを書類でまとめた。
そうしてスノーグラウスは「前衛領主」という職業と職分名がつけられた。広範囲に渡って攻撃を仕掛けるのが得意な戦闘員に与えられる肩書きである。
マホガニーも同じく「前衛領主」となり、ツルギは「特殊執行者」といった具合に皆にそういった職業と職分が割り当てられた。ただそれだけのことではあったが、そうすることで次に何をしたらいいか、自分に足りないものはなんなのかと明白になったのは大きかったようである。
まずスノーグラウスは、自分に足りないのは近接攻撃だったのだと気づいたのだ。言われて見れば確かに、周りを凍らせたり刃を飛ばしたりは見たことあったが、彼が片手でにぎる細身の剣は敵を斬るためのものというよりは、飛ぶ刃の指揮に振り回すばかりだったのである。そうと決まればスノーグラウスはクロージャに頼み込み、前衛領主たちの過去の作戦記録を何度も繰り返し見てそれを自分のものにしようと特訓方法を変えた。
マホガニーは体がまだ小さいとはいえ、薬を使った遠距離攻撃が得意なので、薬と武器を併せた動きはどんなものなのかと空いた時間で研究するようになった。今のところまだ爆発はしていないが、いつ貸し出した部屋が爆破するか私はハラハラしている。マホガニーの成長力を信じるしかない。
そしてツルギは、自分に与えられた職業と職分に困惑は見せていたが、母親と同じ職業と職分だったと伝えると、彼女もまた、過去の作戦記録を見ながら自分に足音を出さないなどの行動を改めることになったようだ。ロープと職業が同じだからと、ネイルと一緒に通気口の通り方も学んでいるらしい。いつかステルスとか身につけてツルギに気づけなくなるだろうか、と私は今からソワソワしているところだ。
最後に、私がこうして戦闘員たちを職業と職分に分けた本当の理由のためにあるところにやって来ていた。療養庭園だ。
コンコン……。
「はーい」
扉の向こうで、女の子の声が聞こえた。
「あ、ドクター、いらっしゃい」
療養庭園にいる女の子とは、ローズのことである。
「こんにちは、ローズ。少しいいかな」
私はあることをローズに話しに療養庭園に来ていた。会う予約はしていたのだが、ちょっと待って、とローズはどこかへ案内する。
「見て、あの二人……いい感じじゃない?」
「……?」
ローズが目で指すのは、植物の壁の向こう。そこにはすっかり大きくなった様々な植物たちがある中、ベンチソファに二人の姿があった。
「それで、俺になんの用なんだ?」
スノーグラウスと、
「あのね、渡したいものがあって、さ……」
ネイルだ。
スノーグラウスはいつも通りの様子だが、ネイルはソワソワしていて膝にある両手がモジモジしている。彼女の膝上に何か小さな箱があった。
これって……と私はローズへ目を向ける。ローズはしぃーっと指を当てて二人の行く末を見守っている。女子はこういうのに鋭いのだろう。例え七歳でも、ローズは特におませだし。
「渡したいもの?」
スノーグラウスがネイルへ顔を向ける。途端にネイルの顔がぶわっと赤くなり、慌てた様子になる。それもそうだろう。スノーグラウスは父親譲りな程イケメンである。あんな戦場で誰よりも前線を切っているとは思えないくらい肌が綺麗だし小顔だ。
「あの、こ、これ!」ネイルはスノーグラウスの顔をマトモに見ないまま箱を押し付けた。「く、口に合わなかったら捨てていいから! じゃあね!」
そう言い残すなりネイルは鉤爪付きの縄で天井に逃げた。この療養庭園は天窓のはずなんだけど、と思って見上げると、ネイルは換気のために開いている天窓から外に出て行ったようである。
なんだったんだ、とスノーグラウスは天井を見、それから押し付けられるように渡されたネイルの箱を見つめる。ああ、これは恋の季節なんだなぁ。私はそんなことを考えた。
「ねぇねぇスノーグ! 何もらったの!」
そこに空気を読んでいないのかなんなのか、ローズが飛び出してスノーグラウスに話し掛けに行った。私は止めようとしたが間に合わなかった。
「分からない……一緒に見てみるか?」
あのネイルの慌てぶりをなんとも思っていないのか、スノーグラウスがローズにそう言った。ええ、ローズと一緒に見るの? ここで?? 私が影でハラハラしていると、間もなく声が飛んできた。
「ドクターもそんなところにいないで、こっちに来て見てみるか?」
バレてた。普通に。
「や、やぁ、スノーグラウス……」私は平然を装いながら植物の壁から出てきた。「それ、ネイルから貰ったんだよね? 一人で見た方がいいんじゃないかな〜?」
私はネイルに気遣うつもりでそう言ったが、スノーグラウスはなんで? と言いたげにきょとんとしていた。
ああ、いい顔してるな。この鈍感で人ったらしでも、彼の優しさと逞しさで全部持って行かれるのだろう。両親のいいところしか詰まっていない彼に私は心の奥でやや羨望心を抱いた。
「いいから見ようよ見ようよ!」
好奇心なのか、ローズはそうやってスノーグラウスを急かした。スノーグラウスは私の心情までは読み取れなかったのか、そうだなと相槌を打って箱を開けた。
私もつい好奇心で近づいて箱の中身を覗いてみた。そこには、ハート型のチョコケーキに大きく「大好き」の文字が並んでいる。
この鈍感男はそれでも分からないとでも言うんだろうなと私はスノーグラウスの顔を覗き込んで驚いた。スノーグラウスの顔が、真っ赤になっていたのだ。
「え、これ……ドクター、ローズ……っ!」
スノーグラウスは赤面のまま私とローズを交互に見やる。むしろ今まで気づかなかった方が不思議なくらいだ。出会ってばかりだった頃、スノーグラウスのえんどう豆ばかり盗んでいたのに。
「両思いってこと?!」
ローズは両手で口元を覆い、大きな声をあげた。いや、それは……スノーグラウスは何か言おうとするが言葉にならないままスクッと立った。
「お礼品考えてくる!!」
スノーグラウスはダッシュで療養庭園をあとにした。スノーグラウスでもあんなに慌てることがあるのか。私は驚きながらも、あの真っ赤な顔をネイルに見せてあげたい気分にもなっていた。私は二人の恋路が、上手く行きますようにと密かに祈った。