双星方舟〜ラズハ・シップ〜   作:青瑠璃

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処遇

 

 ラズハは、ホーンバーンの処遇を決め兼ねていた。

 ホーンバーンの元々いた何人かの手下たちは、砂漠の小屋襲撃時に逃げてしまったようだった。他はトイフェルのコピー人間と思しき部下だけになったが、その部下たちは何度も根気強く療養を試みているものの依然言葉らしきものは喋らず、実質ホーンバーンは一人ぼっちだったのだ。

 しかし、彼のような粗暴な人間をラズハに追い出すだけとなると、またイウニとセネトのような可哀想な誰かを作ってしまうかもしれない。ラズハでは様々な意見が飛び交っていてズルズルとホーンバーンを保護する形を取っていたのだ。

 確かに、彼は症状こそは出ていないが感染者の一人ではあった。だが、他の感染者のように何かしら体調が悪い訳でもなく、それが返ってラズハで保護し続けることを嫌がる意見が多かったのだ。口が悪く粗暴な一面が際立ったからだろう。

 そこで私はホーンバーンと何度も面談をし、ラズハで雑務をしてもらうことにした。給料は払うし、人としての生活が可能だろうと判断出来たらラズハを出ていい、という契約にして。ホーンバーンは私と話している内に、ボロボロと自分の身の上話をしてくれて少しずつ彼の状況が分かっていったのだ。暴力以外でどう過ごしたらいいか分からない、と。

 このことについてケルシーは「ここは更生施設ではないのだぞ」とキツイ言い方をされたものの、最終的には許可が下りてホーンバーンを内勤任務の一人として採用することとなった。戦闘もそこそこ出来るだろうが、まだ様子見ということで。

「長らくこんなところに閉じ込めてすまなかった。君の仕事場まで案内するよ」

 私は取り調べ室にいたホーンバーンに声を掛ける。こうして改めて見ると、体はデカイのに小さくなったな、と最初彼にあった時とは大きく印象が変わっていた。

「そう言って給料払わなかったら出ていくからな」

 ホーンバーンの態度は相変わらず荒々しかったが、ここから出るのは容易ではないことはもう知っているはずだ。彼は何度も、ラズハから脱走しようとしていたのだから。

「ここだよ」

 私はホーンバーンの言葉に答えないまま、彼が仕事をする場所へ案内した。そこには、一人の少女が待っていた。

「あ、いらっしゃい! アナタがホーンバーンね!」ブラックローズだ。「ウチ、子どもだから一人でここ管理するのが大変で。大きな人がいると助かるよ!」

「子ども……?」

 ホーンバーンの額には分かりやすく青筋が走った。

 ホーンバーンがイウニとセネトに暴力を振るい続けていたのは、まるで現実を知らなさそうな子どもが嫌いだからだそうだ。それは、彼が幼少期から暴力で支配された生活を送っていたからだろう。ホーンバーンは素早く私を振り向いた。

「こんなガキのところで働けと?! なんでこの俺様が!」

 これは想像していたことだ。私は落ち着けと両手を前に振った。

「この艦にはイウニとセネトもいる。君が殴る蹴るをし続けたあの子どもたちだ」私はゆっくりと話す。「君がここで暮らすには、子どもたちに慣れてもらう必要があるんだ。そうでなかったらまた部屋に閉じ込めることとなるよ」

 これは脅し文句だったが、療養庭園の明るさと比べたら取り調べ室は薄暗く、気持ちも落ち込みやすくなるだろう。そんなところにはいたくないと思ったのか、ホーンバーンは何か言いたげな口を震える唇で抑えながら、ふいっと私から顔を逸らした。

「し、仕方ねぇから手伝ってやる! てめぇはちいせぇからな!」

 それからズカズカと歩き出したホーンバーンに、ブラックローズは声をあげた。

「あ、そっちは!」

「ああっ?!」

 ダバーン!!

 水生植物用に作ってある浅い池にホーンバーンが思い切り落ちてしまった。溺れる深さはないが、植物が生い茂っていてそこが水だとは気づかなかったようだ。

「だ、大丈夫かい?」

 私は慌てて駆けつけたが、ブラックローズはずぶ濡れのホーンバーンを見て大笑い。

「ふふっ、ははははっ! アナタ、ちょっと不器用なのね! ふふっ、ウチのお父さんみたい」

 ホーンバーンは馬鹿にされまいと拳を作り、私は咄嗟にブラックローズを庇うように動いたが、次の瞬間息を吐いて諦めたように力を抜いた。私がホーンバーンに、イライラした時にやるように提案した深呼吸方法だった。

 彼だって、変わろうとしているのだ。

「そこにいたら風邪を引いてしまう。ほら、手を」

 私は池に座り込んだままのホーンバーンに手を差し出したが、パチンと弾かれた。

「いい、自分で出る。てめぇみたいな弱っちい奴に俺様を支えられる訳がねぇ」

 と言ってホーンバーンは自分で池から上がって来たが、頭にはまだ植物がいくつか乗っていて、ブラックローズはクスクス笑い続けていた。

「ホーンバーン、ちょっとしゃがんでくれるかな?」

「ああ?! なんでだよっ」

「いいからいいから」

「……チッ」

 ホーンバーンは、私がしつこいことを知っている。なんだかんだでしゃがんでくれたホーンバーンの頭にある植物を一つ一つ取ってあげた。

「ほら、こんなに植物が引っ掛かっていたんだよ」

 と私がホーンバーンに植物を見せている間に、さすがに笑ってばかりではいけないと思ったのか、ブラックローズがタオルを持ってきてくれた。

「あとはこれで髪の毛を拭いてね……あ、そんなに適当にしたらダメだって! ほら、こうやって……」

 ブラックローズの献身的な行動に、ホーンバーンはすっかり大人しくなっていた。彼女のすごいところはそういうところである。分け隔てなく誰かを助けようとするところ。それは当たり前のことだろうけど、すごく大切なことなのだ。

「それじゃああとは頼んだよ」

 私はホーンバーンをブラックローズに任せ、療養庭園を出ようとした。

「待て」ホーンバーンに引き止められる。「いいのか、見張っとかなくて。てめぇがいなくなったらコイツの骨をへし折るかもしれねぇのに」

「タオルで拭かれてる君の姿を見たら、大丈夫だと思ったんだよ」

 きっと、本当は母親にやって欲しかったことなのだろう。ホーンバーンが大人しくなったのはそれが理由だ。

 ホーンバーンは居づらそうに目を逸らしたのち、ぶつぶつと聞いてきた。

「その、アイツら……イウニとセネト? もいるんだろ。ソイツらは、ここに来るのか?」

「うん、きっと来ると思うよ」

「……そうか」

 それ以上の言葉はなかった。だから私は、手を振るブラックローズにホーンバーンを任せて療養庭園をあとにした。

 人が更生する瞬間って、どんな時なのだろう。私は、改めて思考を巡らせた。

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