「疲れた……」
ラズハに私の執務室が出来てから、仕事がますます激務になって来た気がする。
ちょっと体でも動かそう。私はそう思い立って執務室を出てフラフラとラズハを歩き回る。疲労困憊で歩くからか、確か誰かにゾンビみたいだとか言われた気もする。ゾンビなんて映画でしか見たことないけど。
あ、立ったついでにトイフェルの人たちの様子を見に行こう。ホーンバーンと一緒にいた彼らである。報告書を見る限り人らしい動きどころか言葉も話さず、トイフェルの情報を聞き出すのは到底不可能と書いてあった気がする。
なんてゾンビから彼らのことを思い出すという失礼極まりない思考回路で通路を歩いていると、床に小さな毛玉を見つけた。
「ニャ〜」
それはサンドレコナーたちがラズハに連れてきた三毛のオス猫、コハクレアだった。
人見知りをしない猫で、私の姿を見るなり足元にスリスリと寄ってくる。私はしゃがみ、コハクレアの頭を撫でた。猫ってなんで撫でると癒されるのだろう。
するとふとコハクレアが私から離れ、ニャアと一鳴きしてこちらを振り向いた。どうやらついて来いと言っているみたいだ。
たまには寄り道でもしようか、と私がコハクレアについて行くと、まだ整理が終わっていない閲覧室にしようとしている部屋に辿り着く。あーそうだった。この部屋の整理もしなきゃだった。
カードキーを発行していない部屋なので扉は開けっ放しだったのだ。コハクレアはその部屋に迷わず入って行った。
覗き込むと、部屋に誰かの頭が見えた。あれ、こんなところに誰か迷い込んだのかな……と思いながら中に入ると、それはよく知ったある人物の頭だと気づいて私は声を掛けた。
「サンドレコナー」
「む……」
声を掛ける度にいつも強い口調で何かを言い返してくるサンドレコナーだったが、今回はその威勢も小さく、私に視線をくれるだけだった。そんなところで何をしているのか、と聞きながら前に回り込んで気がついた。サンドレコナーの膝上で、ムースがうたた寝していたのだ。
「あ〜、そういう……?」
未だに二人が付き合っているのかは不明だが、サンドレコナーとムースがよく一緒にいるのはラズハにいる誰もが知っていることだった。
「言いたいことは色々あるが、それは後にして置こう」サンドレコナーは小声で囁いた。「それとも、ここを避けた方が良かったか?」
「あーいや、好きにしてていいよ」
二人を邪魔する気はないんでね、と私が引き下がろうとすると、コハクレアが出てきてサンドレコナーの真横で丸くなる。まだ整理が終わっていないから、ちょっと寒かったかな。
ブランケットでも持っていてあげよう。私は部屋を出ようとした間際、柔らかい何かにぶつかった。
「あ、探していましたよ……執務室にいらっしゃらなかったので……」
「プラマニクス」
そこにいたのはプラマニクスだ。柔らかい何かが何だったのかは気にしないで置くとしよう。
「あ、ああ、すまない……でもちょっとこっちに……」
ここで大声を出す訳にはいかないと私はプラマニクスを連れて部屋から離れようとしたが、時すでに遅かったようだ。
「あ、ドクター!」
「ムース……」
ムースが起きたようである。
「や、やぁ、ムース、起こしてごめん……」
謝るしかない。主にサンドレコナーに。
「あら? 寝ていたのですか?」
事情を知らないプラマニクスが私からムースへと視線を移す。
「え……あ、ムース、いつの間にか寝ちゃってて! ごめんなさい、サンドレコナーさん!」
「私は別に……」
なーんか妙に距離あるんだよなあ、あの二人。早く結婚してくんないかなぁ。
「話聞いてます?」
「え、なんだっけ?」
「もう、こっちに来て下さいっ」
私はプラマニクスに手を引かれてほぼ強引に部屋から離れた。その後サンドレコナーとムースがどうなったのか、私は知る由もない。