「次の航行予定を確認してくれ。それとこっちは、先日の敵の情報をまとめたもの。これはスノーグラウスのカルテだ」ケルシーから大量の書類を渡される。「こっちの書類は、医療支援の依頼だ。我々は接敵したことで大きく動くことは危険と判断した。全て断りの連絡をしてくれ」
「分かった」
ケルシーが持ち込んできた仕事は大量にあった。私がほとんど、スノーグラウスに付きっきりだったからだろう。
いきなりこんなに仕事を持ち込むケルシーを、誰もが冷酷だと言うかもしれない。だが私たちは、ここで立ち止まっている訳にはいかない。前進するのだ。
私は書類に目を通した。そこには、アイディーとカジンについての特徴や分析などが書かれていた。まず、二人についてトイフェルの関係者かどうかは分からないということ。サンドレコナーがカラクリ羽獣で追尾させていたようだが、途中で気づかれて壊されてしまったようだ。
ただ、アイディーの雷のような術攻撃は、あの砂漠の街で偽造された天災に似せることは出来るだろうという推測が書かれていた。アイディーの放つ雷は天災そのものだと思っても過言ではない。
そしてカジンの方だが、こちらもどこの誰かも分からないエラフィアの男であり、角に鈴をつける種族はごくひと握りしかないので心当たりには向かってみるが情報は得られないだろうとのこと。それに、間近に来るまで接近に気づけなかったことから「ステレス」の特性持ちであることが推測されており、また接敵するとなると厄介なのは目に見えていた。
「ステレスか……」
かつてロドスには、ステレスを見抜く手練れたちが何人もいた。それと比べるとラズハはあまりにも小さく、戦闘に欠けた艦であった。私が戦えたらどれだけ良かっただろうか。
私は首を振る。いいや、今はないものねだりをしている場合ではない。
私には私の出来ることをするまでだ。
私は、仕事に取り掛かった。
テラは絶えず変化し続けている。それはラズハでも同じことだった。
「優しくだぞ、やさーしく」
何やら声が聞こえて顔を上げると、どうやら私は真っ昼間に執務室の机で眠りこけていたらしいと気づく。
それでさっきの声はなんだったのだろうと視線を投げると、目の前にあるソファに、二つの小さな頭が見えた。
「マホガニー、イウニ」
私はふわぁと欠伸をしながら二人の元に近づくと、ソファの後ろにはツルギもいて、三人で毛玉を囲んでいた。毛玉とは……ソファで丸くなっているコハクレアだ。
ここはカードキーがないと入れないのだがいつの間に……と思っていてふと気づく。あれ、セネトはどこに行ったのだろう。
「あ」
その時、壁に設えた棚から本を取ろうとしていたセネトが、ずるりとバランスを崩して倒れかけた。私は咄嗟にセネトに飛びついた。
「危ないっ!」
なんとかセネトをキャッチした私だったが、代わりに背中を強打してしまった。痛い。
「大丈夫かい?」
私はセネトを抱えて立たせ、髪の毛を整えてあげる。可愛い顔をしているセネトの顔が、今はびっくりしたみたいな顔になって私を見つめていた。
「びっくりしたね、よしよし」
言葉は通じていないだろうが、マッドグリーンと同じく声を掛け続けることは無駄ではないはず。私はセネトの黒い髪を優しく撫でた。彼女の髪は毛先だけ赤い。
「ありがとう、ドクター」
「え」
喋った……? 私が通じる言葉で?
「……ドクター?」
確かに、ドクターと呼ばれたことはあったが。
セネトは黙りこくった私を不思議そうに見つめていた。私はなんとか言葉を出そうとした。
「セネト、言葉を覚えたんだね……?」
「マホガニーに、教えてもらた。ツルギとお喋り、したいから」セネトがたどたどしい発音で話した。「ドクター、悪い人じゃない。セネト、分かる。イウニも分かる」
すると、イウニが近づいてきて私に向かって頷いた。
「ドクター、いい人。頭、触るの好き」
頭触るのが好き……? 私は触られたことはなかったが。
とセネトが私の手を取って自ら頭を撫でられにきた。あー、そういうことな。頭撫でられることは嫌いじゃなかったのだ。
「いっぱいナデナデしてあげるからね」
私はもう一つの手でイウニの頭を撫でた。二人とも少し笑うようになった気がする。彼らがもっと笑える世界を。その為にはロドスが必要だ。
「ドクター、ぼくもナデナデして!」
「あたしも!」
「分かった分かった、順番にね〜」
私は順番に子どもたちの頭を撫でた。