スノーグラウスの体調は少しずつ快方に向かっていたが、数日で動けるようになる状態ではなかった。
私は医療の処置だけして、あとはずっと看病してくれているネイルに任せることにした。スノーグラウスが眠っていた間ずっと暗い顔ばかりだったと思えないくらい、ネイルはよく笑顔を見せるようになった。
「あんたからのチョコケーキのお礼品、考えて置かないとな」
スノーグラウスはまだ寝たきりだったがはきはきと喋ることが出来るようになっていた。隣のネイルは笑った。
「そんなのはいいから、まずは快復に専念してよ?」
「ああ、そうだな」
どうやら二人の仲もより近くなった気がする。
私は執務室に戻り、いつも通りの仕事に取り掛かっていた。ラズハは接敵したことで行動を変えなければならなかった。ただ、患者は多く抱えていて、治療の質を落とす訳にはいかないと作戦資料を作っていた。
今戦えないスノーグラウスに代わって、主な稼ぎ頭はスノーグラウスが纏めていた「スノーグ戦隊」となっていた。
スノーグラウスが負傷したことでラズハに反感を抱くかと思われたが、話し合いをしていくにつれ、彼らはスノーグラウスのためではなく、ラズハのために戦ってくれると言ってくれたのだ。
それは、スノーグラウスの献身的に部下と接していた賜物であったと思う。スノーグラウスは本当に、ラズハに多く貢献してくれているのだと改めて感じた。
なのでスノーグ戦隊は各地で依頼される護衛任務や荷物配送護衛にあちこち派遣された。スノーグラウスが完全快復ではない今、難しい任務は受けられなくなったが、それでも彼ら戦隊の活躍はラズハに豊かな経済をもたらしてくれた。
一方で、ホーンバーンが従えていたゾンビのような人間に進歩はなく、ただの穀潰しとなっていた。面倒を見るのを嫌がる内勤オペレーターも出てきた程だ。私は彼らをどうするか、決断をし兼ねていた……。
「ねぇねぇドクター、聞いて聞いて!」
ノックをせずに私の執務室に入ってくる者は限られる。まず、誰かに開けてとねだって扉を開けさせるコハクレア、病室から脱走した患者の子どもたち、そして、今目の前に入ってきた金髪のコータスだ。
「なんだい、レオンハルト」
私はノックをせずに入ってきたレオンハルトを見上げた。レオンハルトはいつも爽やかな笑みを浮かべているが、今回はより嬉しいことがあったのか笑顔が眩しい。ロープがキラキラ男と言った理由がよく分かる。
「やっとさ、ネイルが呼んでくれたんだよ! お父さんって! 俺のことを!」
レオンハルトの翠玉色の目が大きく見開いてニカーッて笑う。確かに、ネイルはロープのことを母さんと呼ぶが、レオンハルトのことは父さんとは呼んでいなかった。それもそうだろう。目の前にいないと思っていた父親が突然現れたら、誰だって困惑する。
「良かったね」
「でしょ!」レオンハルトは本当に嬉しそうに話していたが、ふと目を逸らして真顔になった。「だけどさ、スノーグも俺のことお義父さんって呼ぶようになってさ〜。そんな簡単に、俺の娘をあげると思ってるのかな?」
「レオンハルトは、スノーグラウスにお嫁として渡したくないの?」
「もちろん、あげちゃうね!」それからレオンハルトはウインクをした。「だけどもう少しだけ、父親の気持ちになっていたいな。会えなかった分、ちゃんとお返ししたいからさ」
レオンハルトは本当に爽やかな人だ。
「なになに? そんなに見つめても何も出ないよ?」
「いや、何か欲しい訳じゃないよ」ただ、こんなふうに会話していることが、幸せだなぁと思っただけで。「ありがとう、レオンハルト。仕事の息抜きになったよ」
「そ? どういたしまして!」
私はますます、ロドスの人たちのことを思い出してしまうのだ。