「ロドスにいた非オペレーターや内勤任務の者、患者たちの墓が狙われたということは、アーミヤの保存場所も狙われる可能性がある」
ラズハは人目を避けるように航行しながら、ある場所にやって来ていた。
私は先を歩くケルシーに訊ねた。
「あの墓は、完全に爆破されたのだろうか?」
すると、ケルシーはチラリとこちらに目を向けた。
「あそこには多くの爆発物を仕掛けていた。墓を作った時と、あの戦いの直前にだ。死体蹴りや墓荒らしの対策のためだったが、直ぐに爆破させることになるとは思わなかった」とケルシーは話し続ける。「トイフェルが遺体からコピー人間を作れるとは思えないが、念には念をだ。我々が死体蹴りの犯人になってしまったがな」
「ケルシーさんに埋めて置いてくれと言われた時はちょっと躊躇いやしたがね。そういうことなら、仕方ないかもしれないっす」
私の護衛として付き添ってくれているジェイがそう言った。私は、俯くように頷く。
私たちはケルシーとジェイのみで、あるところに向かっていた。この前の墓参りのように大勢行けば目立つし、三人だけなら敵らしき誰かを見かけても隠れてやり過ごすことが出来る。
本当は私の同行もいらなかったかもしれないが。
迷いなく獣道を進むケルシーの横顔を見やった。私をこうして外に連れ出したのは、あの甲板で話したことがきっかけだろう。私は、口を閉ざたままただケルシーについて行った。
しばらく歩いているとぱっと目の前が明るく開けた。眩しくて瞼を覆ったくらいだ。
目が慣れてよく見てみると、そこには太陽の光を煌々と反射させている湖が広がっていて私はつい見取れて足を止める。
「こんな綺麗なところがあったんだ」
と私が素直な感想を言葉にすると、ケルシーは淡々と話し出した。
「湖には入るなよ。底は海と繋がっているという噂がある大きな水溜まりだ」
「海と……?」
私はケルシーを見やる。ケルシーは噂を信じるようなタイプではないと思っていたが、私は他にも理由があるような気がした。
「……ここは不吉な話が多い。だからこそ人も寄りつかないのだろうが」ケルシーは一旦言葉を切る。「……自害をする湖なんだ。見た目は穏やかそうに見えるが水が濁っていて足元が見えない。いつの間にか深い底まで引きずり込まれる……渦潮か何かがあるのだろう」
自害……自ら命を絶とうとすることは、何もこのテラでは珍しくはなかった。実際、ラズハに来る患者の中では、何もかもに絶望して自暴自棄になる人もいる。この美しい湖はそんな人たちの残酷な優しい器なのだと思うと、私はなんとも言えない気持ちになる。
「こっちだ」
私が考え込んでいるとケルシーに呼ばれた。私は慌てて追い掛ける。ケルシーとジェイが待っていた先にはボロい小屋があった。一見何もなさそうな小屋だが、ケルシーが何か操作するとガタン! と音を立てて隠し階段が現れた。
「へぇ、こんな仕掛けがあったんすね」
ジェイが興味深そうに地下へ続く階段を覗き込む。
「……ロドスで冷却保存している主要オペレーターたちの周りはロゴスの呪術によって結界が張られてあるが、アーミヤが重症を負った時はすでに共にはいなかった」とケルシーは言った。「これはクロージャが仕掛けた隠し通路だ。ただの雨宿りの小屋に見えるように、わざわざボロい小屋の地下に作っていた」
そうしてケルシーは階段を下りて行くので、私もゆっくりついて行く。階段は小屋とは違って最新の素材で作られていて、歩きやすかった。
「我々を襲ったのは、アイディーでもカジンでもない。紫髪のサルカズの女だ」ケルシーは歩みを止めないまま話し続けた。「時にドクター。六年前、なぜロドスが急襲され、壊滅に追いやられたか知っているか」
「それは……」
思い出さないように避けてきた過去に私は言い淀んでしまう。私は、突然襲撃された後、たまたま近くにいたソーンズに守られて助かった。そしてソーンズに、マホガニーとツルギを任せられて……。
「敵の軍隊に挟み撃ちをされていた」
ロドス脱出後、外は大混乱だった。地面だけでなく、上空にも軍隊が配置され、そして、目前には最悪な天災が近づいていて──。
「まさか、敵は天災をわざと引き起こしたとでも?」
「突拍子もない発想だな」
そう言いながらケルシーが鋭い目付きでこちらを振り向いた。てっきり愚か者とか言われるのではと身構えたがすぐに背けられ、ケルシーは歩き続けた。
「だが、アイディーのような雷のアーツで天災を偽造したのならあながち間違ってはいないだろう」とケルシーは言った。「恐らく、ロドスを襲撃したトイフェルのリーダーは天災並みの攻撃を仕掛けることが出来る。それで一気に畳み掛けられた訳だ」
私は口を噤む。ケルシーたちが主要オペレーターを冷却保存し避難したルートとは違う方向へ戦線離脱した私は、敵の指揮官すら目にすることが出来なかった。そう考えるとゾッとする。
「……私を逃がすためにロドスは壊滅したのか」
私は問い掛けた。ケルシーは答えなかった。
その内に、目的の終着地が見えてきた。こじんまりとした多角形の部屋の真ん中に、一つの石棺がある。
部屋の足元からは常に冷気が放たれていて、これがまさしく「冷却保存」なのだと私は気づく。石棺には細工が施されており、その冷気を変換エネルギーにして保存対象を適温で温め続けているらしい。私は何度聞いてもよく分からないが。
「この技術は、ソーンズがあるパレットソードを改造した時に用いていたものだ」
「え、ソーンズが?」
私はケルシーに目を向ける。ケルシーは石棺の横に立った。
「スノーグラウスの特性はもう聞いているだろう。アイツは幼い頃から、アーツユニットを凍らせてしまうところがあった」とケルシーは話し続ける。「だからエアースカーペはソーンズに相談したと聞いていたが……まさかスノーグラウスの武器に使っていたとはな」
「スノーグラウスがアーツユニットを凍らせる理由は?」
「そこまでは分からない。奴がハーフだからか、偶然何かしらの巫術と一致したのか……」ケルシーは石棺に片手を置いた。「ここにアーミヤが眠っている。目覚めるのにあと一年は必要だが、ここで一人置いていくのは危険だろう。ジェイ、運ぶのを手伝ってくれ」
「へい」
さすがに石棺は大きくて重そうだ、と私も手伝おうとしたが、なんとジェイが一人で抱えたから驚いた。
「重くない? ジェイ……」
「重いっすけど、大丈夫す」
さすがウルサス人だ。