森の奥へ進めば進む程、霧がその濃さを増していった。
ただ、幸いなことに他に害獣がいたり荒れた土地でもないので、道中は歩きやすかった。湿度は高いのか地面はぬかるんでいたが、大したことはない。
「しかし、マホガニーさんはどうして一人でラズハを出たのでしょう……」
歩きながらマッドグリーンが呟いた。私もそれは全く思いつかなかった。
「分からない……マホガニーはいつも、ツルギと一緒だったから」私はうーんと唸る。「考えられるのは、敵と思しき者を見つけて追い掛けに行ったか……ただ遊びに行った……は違うな」
遊びに行くのだったらツルギも誘っていそうだし、と考えると、私に抱えられている彼女がきゅっと首の後ろに腕を回してくっついてきた。
「マホガニー、起きた時には部屋にいなかった。呼んでも出てこなかった。あたし、もうちょっと早く起きたら良かった」
とツルギは言った。
「ツルギのせいじゃないよ。マホガニーには何か理由があって一人で外に出たんだと思うし……」
と私はツルギに言うが、マホガニーは武器を持って行っていなかった。私はツルギを抱えたまま、マホガニーの武器を持って歩き続けている。
ガザガサガサ……!
何かで茂みが揺れ、マッドグリーンが咄嗟に前に出る。さすが、短期間でそんなに戦いの基礎を身につけたのか、と私は関心したがそんなことを考えている場合ではない。
「ミ〜」
しかし茂みから出てきたのは一匹の猫であり、私たちの足元を過ぎ去って霧の中に消えて行った。こんなところにも猫は強かに生息しているらしい。
「あ、マホガニーだ」
「え?」
その直後、私の胸にいるツルギがそう言って向こうを指差した。私はツルギが指す方向を見やるが霧ばかりで人影すら見えない。
「ドクター、下ろして」
「あ、ああ、分かった……」
ツルギに言われて私はその場にしゃがむ。ツルギはすぐに私から離れて仕切りに向こうを指差した。
「マホガニー、あっちに行った。行こう、ドクター」
「分かった。でも手は離さないで……」
ところがツルギは、私の声なんて聞こえていないかのように夢中になって霧の中へ走って行った。私は何か嫌な予感がしていた。ここでツルギと離れる訳にはいかない、と。
「行こう、マッドグリーン」
「分かりました」
そうしてツルギを追い掛けて私たちは走ったが、追っても追ってもマホガニーどころかツルギが見当たらない。私は一旦足を止めた。
「ツルギ、離れたらダメだ! この霧、何かおかしい!」
呼びかけたが、声は霧の中で空しく響いた。どうしよう、とマッドグリーンを振り返って気づいた。マッドグリーンもいない!
「マッドグリーン!」
私はマッドグリーンを呼ぶが返事はない。そうか、ここはもう何かしらの術にハマってしまったのだ。もっと早く気づくべきだった。この霧が怪しいかもしれないと。
「ツルギー! マッドグリーン〜!」
と私は二人を呼び続けた。ここで一人になってしまったら、自分はこれからどうなってしまうのだろう。ここで敵に見つかったら?
色々考え不安になってくる中、私の視界に誰かがチラついた。あの姿は……。
「ケルシー?」
ケルシーはラズハにいるはず。もしかしてケルシーもマホガニーを探しにここに来たのだろうか? 私は困惑を払拭したくてケルシーが見えた方向へ歩き出した。だがケルシーの姿は一向に見えない。私の足はどんどんと早くなった。
「ケルシー、待ってくれ!」
「そこから先は崖だぞ、ドクター」
え?
思わぬ声が飛び込んできて私は足を止める。ガラリと足元の地面が崩れかけて引き下がると、私が向かおうとした先は確かに崖となっていた。
「誰……?」
私を呼び止めた声は誰なのか、と振り向くと、そこにはスラリとした男性の姿があった。私、彼をよく知っている。
「久しいな、ドクター」
「ロゴス……」
ずっと探し続けていたロゴスの姿だったのだ。