「ほう、その子はソーンズとレッドの子どもなのか」
湿地帯に向かいながら、私はようやくロゴスに色んな事情を話すことが出来た。私の腕に抱えられているツルギのこと、そのツルギの双子の兄がマホガニーであること、そして今はラズハで活動していることも。
「それで、ロゴスは今までどこに?」
今度は私が質問をした。マッドグリーンは静かに後ろをついて歩いてきていた。あとでマッドグリーンやトイフェルの話もしなければ、なんて思いながら。
「我はずっと、ロドスを襲った者たちが何者なのか探っていた。ロドスの情報に不正アクセスする者も多くいたようだからな」
「なるほど……」
ロドスの情報は、いつもロゴスの残酷で奇怪な呪術で守られていた。トイフェルがロドスを拠点にしたあとも、私たちの情報が漏れなかったのは彼のおかげでもあるだろう。
「実は、そのことなんだけど……」
「待て」
私はトイフェルの話をしようとして、ロゴスに引き止められた。一見何もない森の中で、今はロゴスのそばにいることで霧も晴れている。だが、ロゴスには何か見えているようだ。
「ここから先はより強い巫術が掛けられている。我のそばにいても、遠くで何かしらの幻覚が見えるかもしれぬ」
「というと……?」
「遠くで何かが見えても、何も信じない方がいいだろう。そこのペッローの男もだ」
私は息を飲み、マッドグリーンは頷いた。
「分かりました」
そうして私たちは、森の奥地へと進んで行った……。
ロゴスの言っていた通り、私たちはどんどんと湿地帯の方に踏み入ることとなった。
高い木々が少なくなり、じめじめとした空気が肌にまとわりつく。少し離れたところからうっすらと霧が広がっているのも妙に不気味だった。
私はついロゴスの袖を掴みながら歩き続けたが、それはツルギも同じようである。ツルギは私から離れまいとますます体を寄せてきた。衣装についてちょっと厳しいロゴスも、私が袖を掴む分には何も言ってこなかった。
マッドグリーンはただ後ろをついて歩いて来ていたが、周囲の警戒は怠っていないようだ。彼の目が常に辺りを見回している。彼は精神的にも強い方なのかもしれない。まさしく、重装オペレーターらしいマッドグリーンだ。
「おーい、早く! こっちこっち!」
その時、向こうから若い男性っぽい声が聞こえて私はギョッとした。ロゴスの呪術外である霧から、誰かが手を振っているような影が見えたのだ。
「幻影だ。気にするでない」
私が幻聴と幻覚を見ていると気づいたのか、ロゴスは度々声を掛けてくれた。他にも知らない女性や子ども、恐ろしい手だけの幻覚がそこまで迫ってきたりもしていたので、本当にロゴスの声掛けは有難かった。
その内に周りの景色が、湿地から徐々に変わり始めていった。まずは何かの瓦礫、人が使っていたような壊れた道具、野生化した畑……これは一体なんだろうか? と思って目を上げた先に、植物や苔に埋もれた廃村が広がっていた。
「ここは……」
「この辺りの巫術を掛けた村だろう。なぜこのような巫術が蔓延ったままか分からぬが、村人たちはこの巫術が必要だったのだろうな」
それでも前に進み続けるロゴスに私たちもついて行くと、村の奥だろう位置に質素な石造りの建物が見えてきた。周りの崩れた建物が木製だったところを考えると、この廃村の中では一番豪華な建造物だったのだろうと思われた。そしてその建物の形はところどころ崩れてはいるものの、教会だったということが伺えた。
「ここにマホガニーが……?」
私はとうとう言葉を口にする。辺りの空気は湿っているのに、なぜか口が渇く。
「行って見てみないことには」
そうしてロゴスは、何か呪文を唱えながらボロい扉を押し開けた。扉はあっさりと開いたが、恐らく解呪しなければ開かなかったのだろう。