「この辺りの巫術は解呪されたようだな」
とロゴスに言われて辺りを見回すと、そこはもう霧の深い森でも、湿地帯でも、植物に覆われた廃村すらない荒野であった。
そうか。そもそも最初から全てが巫術だったのか。
どういう巫術だったか分からないが、とにかく今はマホガニーを連れて帰らなくては。私は歩き出そうとして、足がかなり重いことに気づいた。
「あれ、私……」
「かなり疲労しているようだな。我が連れて行こう」とロゴスは私の腕からマホガニーを抱える。「ラズハとやらはどこにある? そこに行けば良いのだろう?」
ロゴスの声は聞こえるが返事をしようとしても口すら重い。私は……。
「ドクター!」
私は倒れかけて誰かに支えられた。マッドグリーンだったと思う。ツルギを抱えながら私を支えるのはさすがに重いだろうと思ったが、体が思うように動かない。
マッドグリーンの胸が温かい……。
それが眠気なのだと気づいた時、私はそれでもこんなところでは、となんとかしようとしたが抗えず、とうとう意識を手放してしまった──
定期的な機械音に気づいて目が覚める。
それから辺りを見回して、ここがラズハの病室なのだと認識し始めてきた。なるほど、ここで目覚める患者の気持ちはこんな感じなのか、と改めて知りながら上体を起こして思い出す。
「マホガニーは?!」
私の周りはカーテンに囲まれていて誰もいない。とりあえずベットから下りよう。私はそう思い立って床に足を出すとパタパタと小さな足音が聞こえてきた。
「あ、ドクター! よく眠れた?」
ブラックローズだった。
「ああ、おはよう、ブラックローズ」
と私が挨拶をすると、ブラックローズは微笑んだ。
「ふふ、もう夕方だけどね?」
夕方? あれからどれくらい経ったのだろう。
「私はどれくらい寝ていたんだ?」
「三時間くらいだよ」
そこまで時間は経っていないようだ。
「……マホガニーは?」
「こっちだよ、ドクター」
私はブラックローズに手を引かれて隣のベットへ。そばには車椅子に座っているスノーグラウスが付き添っていた。
「起きたか。おはよう、ドクター」
スノーグラウスの表情は落ち着いていて、そこに寝ているマホガニーへ目を向けた。マホガニーはベットでぐっすり眠っているみたいだ。
「マホガニーはフジュツ? って奴が掛かってたみたいで、ロゴスって人がカイジュしたみたいだよ。あとは寝てたら体調もよくなるって」とブラックローズが私に説明をする。「ちなみにスノーグの車椅子は、そこら辺を一人で歩こうとするからクロージャさんが作ってくれたの」
「ああ、それで」
と私がマホガニーからスノーグラウスへ目を向けると。
「スノーグ様のことはワタクシ、R‐0cにお任せ下さい」
喋った。車椅子が。
「ふふん、いいだろう。たまに口答えしてくるが、大抵のことは俺の行きたいところに連れて行ってくれるんだ」とスノーグラウスが言う。「ただ、訓練室と外はダメらしい。R‐0cがうるさいからな」
たった数時間で喋る車椅子と馴染んでいるとは。それはスノーグラウスの柔軟性のおかげか、クロージャが上手く作ったからなのか。なんとなくだが、どっちもだからという気もする。
とにかく、私はマホガニーの傍らで膝をつき、前髪を払うように彼の頭を撫でた。穏やかな寝息を立てている。
「無事で良かった、マホガニー」