翌日になれば、マホガニーはすっかり元気に走り回っていた。
「あ、おはよう、ドクター!」
と朝からマホガニーは、スノーグラウスを乗せたR‐0cを押してラズハ中を走り回っていたのだ。
「ちょっとマホガニー! そんなことしたら危ないよ?!」
私は止めたが、マホガニーもスノーグラウスも大丈夫だと言うばかり。
「スノーグがR‐0cに乗ったまま戦えるように特訓してるんだ!」
「そういうことだ、ドクター」
とマホガニーとスノーグラウスは言っている。別にクロージャは、R‐0cに乗りながら戦うために開発した訳ではないと思うのだが……。
「マホガニー!」そこにツルギが飛び出してきて二人に急ブレーキをさせる。「まだ休んでた方がいいよ。マホガニー、昨日ずっと寝てたんだから!」
珍しい。ツルギがマホガニーに怒っている。
「だけど、じっとしてたら……」
マホガニーはしゅんっとなり耳が下がっている。
「いいから行こ、マホガニー。スノーグも病室にいるの」
男子と比べると、女子は大人へ成熟するのが早いのだという。なんだかその瞬間を垣間見た気がして、私は嬉しいような、寂しいような複雑な気持ちを抱えた。
「ツルギ、ちゃんと二人を病室に送り届けてね」
私がそう声を掛けると、ツルギはうんと頷いた。ちょっと、大人に近づいたように見えた。
その日、私はある二人のカウンセリングをする予定を組んでいた。
イウニとセネトだ。
イウニもセネトも、だいぶこちらの言語を流暢に喋るようになり、どんどんと個性が出てきたのだ。
まずイウニは、マホガニーとよく似ていて勇敢で好奇心旺盛。年相応の男の子といえばこんな感じだろうという元気さに溢れていた。
次にイウニは、ツルギと同じく口数は少ないが、時々あらぬ方向を見て何かを見抜くような、鋭い目つきをすることがあった。私はそろそろ、彼らの事情などを聞いてみようと思ったのだ。
そうして一人ずつカウンセリング室に呼んで話してみると、色んなことが分かり始めてきた。
「セネトとは、兄妹でもなんでもないんだ。ただ、一緒にゴミを漁ってた友達みたいなもん」
とイウニが話してくれたのだ。
確かに、イウニには四本の角があるが、セネトは二本しか角がない。顔もそこまで似ていないし、兄や妹には見えなかった。
「イウニ、怖い犬から守ってくれた。だから一緒にいたの」
とセネトも同じようなことを話してくれたので間違いはないようだ。
ただ、その他の情報はあまり得られなかった。それぞれ親に捨てられ、親戚らしき人や知らない大人たちを頼りにしていたこともあったが、嫌な人も多かったのだと。その内に、古代サルカズ語が通じるサルカズも周りから減ってきて、唯一頼るホーンバーンに騙されてずっと捕まっていたのだという話だった。
「実は、ホーンバーンはこのラズハで保護しているんだ。心を入れ替えたと思っているけど、二人は彼に会っても大丈夫かな?」
イウニとセネトのカウンセリングをした本当の理由はこれである。ホーンバーンはそこまで暴れることもなくなったが、これ以上ホーンバーンをラズハに留まらせると、イウニとセネトにとって精神的にも良くないと思ったのだ。だから私は、ホーンバーンをどうするか、イウニとセネトをどうするか、二人に聞いてみたのである。
「イウニは構わない。セネトが大丈夫じゃないなら会わない」
とイウニは即答だったが、セネトは少し戸惑っていた。
「……セネト、イウニと一緒なら会う」
セネトの回答はそうだった。
私は、ホーンバーンともカウンセリングをしてイウニとセネトに会ってもらうことにした。もしちゃんと接することが出来なければ、ホーンバーンをラズハに追い出すという話もして。
結果から話すと、三人の関係はまずまずだった。イウニがセネトの前に出てきて庇う仕草をし、その姿を見てホーンバーンは萎縮したみたいだ。
だが、ホーンバーンは古代サルカズ語で話しながら、自分で初めて育てて咲いた花を二人にあげたのだ。手渡しは出来なかったが、床にそっと置いて。
多分、二人に謝ってもいたのだと思う。イウニもセネトも頷いて、仲直りはしたのだろう。
私はそれを良しと見て、ホーンバーンをようやくラズハの正式なオペレーターとして承認した。またどこで良くないことが起きたら、その時考えよう。