ある日、患者たちの診察を終えて執務室に戻っていると、宿舎で不機嫌そうなコータスの顔を見かけた。
「やぁ、ネイル。そんな顔してどうしたんだい?」
私は心配になってネイルに声を掛けると、挨拶もそこそこに、ちょっと聞いてよ! と愚痴を聞かされることとなった。
「スノーグ、めっちゃモテるのよ!」
ああ、なるほど。それはほぼ最初から気づいてはいたが、確かにモテるだろうなぁと思っていた。
「だってさ、この前、チェリーがスノーグのお見舞いに来ててさ……」
チェリー。それはスノーグ戦隊にいる唯一の女性オペレーターだ。最初会った時は女性かどうかも判別が難しかったのに、今では髪を長く伸ばし、オシャレな格好もするようになった。
「そのチェリーがどうしたんだい?」
と私がネイルの顔を見やると、彼女の顔はかなり歪んでいた。
「アイツ、スノーグに告白してたのよ! 好きですって!」
「ああ……」
スノーグ戦隊のメンバーは特に、スノーグラウスに対して慕っているというより、心酔している感じがあった。スノーグラウスはそれをあまり気にしていないようだが、もうほぼ両思いみたいなネイルからしたらヤキモチを妬いてしまうだろう。
「それで、スノーグラウスはなんて答えてたの?」
「そりゃあまぁ……断ってはいたけど……」
だよね。だってそこ、両思いだし。
と思っていると、ネイルが気にしているのはそこではないらしい。
「だけどさ、なんでその話を私にしない訳? 何かあったー? って聞いても、なんにも言わないのよ! 私に隠し事してるってことだよね、ドクター!」
「うーん……」
多分スノーグラウスにとっては、話すことではないという感覚なんだろうけど、ネイルはネイルでいつも複雑な乙女心を持っている。あの鈍感で人ったらしなスノーグラウスに、そんなネイルの心まで読み取るのは難しい気がする。
ただ、私はこういう相談をされるのが今日で初めてではなかった。彼らが恋人だった時に私が言ったことを、ネイルにも伝えよう。
「それは、スノーグラウスには言っていないのかい?」
「え」
「告白されていたことを見ちゃったって話」
「それは、してないけど。だって盗み聞きしたみたいで嫌な人みたいになるからさ……」
ネイルの下がっている片耳がますます垂れていく。私の思っていた通りだ。
「それは、スノーグラウスを傷つけると思っているからだよね?」
私は確認するように問い掛ける。ネイルは小さく頷いた。
「だって、盗み聞きされたくなかったよね……」
「それも、ちゃんと話すんだよ。たまたま聞いちゃったとかさ。それで、なんで隠したのか聞いてみるんだよ」私はそう言いながら、かつてレッドがソーンズについて相談してきたことを思い出していた。「スノーグラウスは怒ると思う? 怒ったのは、私が骨折している部分をわざと触った時くらいだったけど」
スノーグラウスの怒った顔はあまりイメージがない。だからこそあの時怒っていたのが新鮮で、ちょっとからかいたくなったのは事実だ。
「……分かった。ありがとう、ドクター」
ネイルはそう言って宿舎をあとにした。本人に直接聞きに行くのか、やはり聞く必要がないと判断したかは分からない。ただ私は、二人には仲良くして欲しいと思っているだけで。
「随分女の子に慣れているわね」
そこに、たまたますれ違いざまにイネスが宿舎にやって来た。私は軽く笑ってみせた。
「似たような相談を、受けたことがあってね」
今では、とてもいい思い出だ。