その後、トターには色々な手続きや検査を終えて、正式なラズハのオペレーターとなった。
トターも鉱石病だったが、ロゴスと関わりがあったからか、薬の調達はそこまで大変ではなかったそうだ。トターは、ロドスが壊滅したあとも、しっかり薬を飲んでいたようで、鉱石病があまり悪化していなかった。
ただ、片足を引きずったままであることは変わらず、機動力に欠けるのは確かだった。そこでクロージャはR-0cを改造し、戦闘特化型車椅子を開発し始めた。音声は本人に聞こえるのみになるモードを搭載し、険しい道もタイヤを改造することで人と同じくらいのスピードで走ることが可能になった。それに何より、空を飛んで木の枝に張り付くことも可能となったのだ。
「こんなことが出来るとはな、R-0c改は」
とスノーグラウスが褒めると、R-0c改は素直に喜んだ。
「喜んでもらえて何よりです、スノーグ様」
もちろん、耐久性にも優れ、いざとなれば弾丸を防ぐシールドを張る機能も搭載された。何よりスノーグラウスのアーツでも凍らないようにしたのは大きな進化だった。スノーグラウスはあっという間に使いこなしていった。
「とても有難いのだが、これはどう使ったらいいのか……」
一方、トターにとってはなかなか上手く使えるものではなく、最終的に、トターは杖を使う程度となった。何より、トターに言わせるとR-0c改ですら機械音がうるさいのだそうだ。
「そっかぁ。ま、人それぞれやり方があるよね!」
とクロージャはトターに杖を支給するだけとなった。
そしてトターは、ステレス持ちであろうカジンの話を仕切りによく聞いてきた。身長がどのくらいとか、角についている鈴の位置とか。これはのちにかなり重要な役となるのだが、今はまだ、公にはしないこととしよう。
トントン。
「どうぞ」
ある日のこと。
私はカウンセリング室で、とある人物と会う約束をしていた。
「失礼する」
「よく来てくれたね、スノーグラウス」
スノーグラウスだ。
患者たちには、治療を施すだけでなく、精神的に不快と思うことはないかどうかなど、こうしてカウンセリングをする日を設けていた。スノーグラウスはまだR-0c改に頼ることとなっていたので、退屈ではないかと話を聞いてみることにしたのだ。
「……確かに、病室で同じ日々を過ごすのは退屈だ」とスノーグラウスは正直に話してくれた。「だが、こうして俺が怪我人になって、初めて気づいたこともあるんだ」
「初めて気づいたこと?」
「ああ」スノーグラウスは頷く。「まず、通路の幅が広いことだ。最初はこの艦の通路がなぜ大通りくらい広いのかと気にしたこともなかった。ただ、こうやって車椅子や担架、点滴を押しながら歩く人などもいて、必要な広さだって気づいたんだ」
何気ないことだったけど、確かにロドスの時からも通路は広めに取ってあった。
元々ロドスがどういう目的の艦だったかは分からない。ただ、ここが製薬会社となった頃にはもう、患者優先の造りとなっていたはずだ。通路は八十センチ以上の幅を。それは、食堂のテーブルの配置やトイレの出入口にも採用されているデザインであった。
「それと、薬の大事さにも気づいた。俺は幸いなことに感染者じゃないが、薬を飲む習慣もなくてな。何度か忘れて痛い目に遭った。鉱石病の患者はちゃんと飲んでいるのに、俺は馬鹿だったな」
「でも、今はちゃんと気づけたじゃないか」
「ああ」
スノーグラウスは目を閉じた。それから深呼吸をしもう一度目を開くと、その空色の瞳で私を見つめた。
「苦しむ鉱石病患者も何人か見てきた。ロドスを奪還したあとも、俺は感染者を助ける人になりたい」スノーグラウスは言い切った。「ロドスを奪還したら、俺をロドスのオペレーターとして雇ってくれるか? ドクター」
こうして改めて言われると、感慨深いものがあった。スノーグラウスは度々、ロドスに行くつもりだったという話はしてくれたが、今はその覚悟が更に違う。私は、確かにそれを感じ取ったのだ。
「もちろんだよ」私は快諾した。「ただ、そのためには早くロドスを奪還しないとね」
「ああ、そうだな」
「君の両親に何か言われないだろうか」
「言わないさ。父さんと母さんは、いつも優しいから」
爽やかに即答するスノーグラウスは、どこかフリントに似ていた。彼は血筋だけでなく、両親に本当によく愛されて育ててもらっていたんだろな、ということが伺える。エアースカーペとフリントに、今すぐ伝えたい思いだ。
「それで、俺からの質問もいいか?」
「なんだい?」
「ロゴスの保護していた情報をクロージャが取り出してくれたから、父さんの資料を読んだんだ」
ああ、そういえば。マホガニーもツルギも、何度もソーンズとレッドの資料を読み返していたっけ。
「その資料がどうしたんだい?」
「感電嗜好ってなんだ? 父さんの資料にそう書いてあるんだが……」
え? 知らなかったの? エアースカーペが感電嗜好があることを??
「うーん……」
「言いづらいことなのか」
「そういう訳では……いや、やっぱり聞かない方がいいかも?」
「なんでだ?」
「ちょっと、ガッカリするかもよ?」
「……?」
私は迷ったが、最終的にはエアースカーペは変態だったということをスノーグラウスにも伝えることとなった。スノーグラウスはガッカリすることもなく冷静だったが、こんなことを言っていた。
「確かに、父さんは耳に触られるのを嫌がったんだよな……あれは、俺に感電させないためだったのか」
綺麗な顔をしていて人がよく、実力もあるスノーグラウスは、ちょっと……天然であった。