ラズハ内で緊急会議が開かれた。議題はズバリ「トイフェルにいた研究者団体の発言について」だ。
「どう考えても罠だ」
ケルシーは徹夜続きであまり休めていないはずだが、思考回路は明晰であった。
「だが、トイフェルを崩せるチャンスかもしれないぞ?」
と言ったのはロゴスだ。ロゴスは悠然としていて、手にしている骨筆をまるでタバコのように振り回した。
「俺は、どっちもの意見も分からなくはなくてさ。判断に悩んでいるんだよね」今回情報を持ち込んだレオンハルトが明るい声で言う。「だけど、俺が見る限り、変な人の感じはしなかったけどなぁ。まさしく真面目そうなエーギルって感じの」
「顔も出ているのか」
と私が聞くと、そうそう、とレオンハルトは会議室のスクリーンに新聞の記事を映し出させた。
「ほら、ここに顔写真があるでしょ? 名前はブルーグラスさん。ちょっとやつれた顔はしてるけど」
とレオンハルトが指す記事には、確かにエーギルの男性の顔が載っていた。頭に青いヒレのような飾りを身につけていて、黒縁メガネを掛けている。目の下は酷い隈だ。
「ブルーグラス……コードネームだろうな」
ケルシーはスクリーンではなく、手元の新聞を睨みながら呟いた。彼の髪はところどころ青いアッシュが入っていて、ブルーグラスという名前をあとからつけてもおかしくはなさそうだった。
「命からがらトイフェルから抜け出してきたみたいだし、コンタクトを取るくらいはしてもいいかも?」
とレオンハルトは楽観的な口調を続けたが、ケルシーがピシャリとこう言い返した。
「どうやって連絡を取るんだ。ここにはマトモに通信機もない」
最近クロージャが開発した通信機にはまだ欠陥があった。連絡出来る範囲が狭いのだ。途中の電波や強いアーツなどに反応してしまい、遠くまでの連絡までは難しかった。だからラズハは、紙でのやり取りをしているのである。
「うーん、トランポーターが雇えたらいいんだけどねぇ」とクロージャが考え込む。「ここは人手不足だし、それに、途中でロドスのメッセージを運んでる人だってバレたらマズイよね〜」
ラズハには色々と問題があった。馴染みのある配達員に頼めば、すぐにロドス関係者だとバレる可能性もあり、接触をほとんど断ち切っていたのである。
しかし、私には一つの考えがあった。
「私たちがロドスの人間だと知りながら、秘匿にしたまま相手にメッセージを送ってくれそうな人は一人いる」
それは、賭けでもあった。
他の多くの者は私の言葉にきょとんとした様子だったが、ケルシーは何を考えているのか分かったらしく、勢いよく立ち上がった。
「おい、それは最も危険なことだぞ、ドクター」
「だが、方法は選んでいられない。そうだろう? ケルシー」
私は、焦った色をしたケルシーの目を見据えた。ロドス奪還のために、危ない橋を渡る時が来たようだ。