その他大きな問題もないまま、私たちはラズハへと帰艦した。
「すごい数の軍隊が来たと思った」
とR-0c改に乗りながらスノーグラウスは私に感想を伝えてきた。敵ならば迎え撃とうと、ホーンバーンと戦隊を組み始めていたところだったらしい。
「では今日からしばらくお世話になりますネ」
ボソボソと声の小さいブルーグラスはそう言って行き通うラズハの仲間に名刺を渡して歩いたが、やはり自分の作ったコピー人間たちにはすぐに気づいたようである。
「これはこれは……もしかして君はわたしの子ですかな?」
「えっと……この人は誰ですか?」
この幼い顔をしている成人男性はホーンバーン戦隊の一人、カラトだ。ホーンバーンとスノーグラウスの献身的な教育で見事に好青年となったクランタである。
「そうか……造ってすぐに連れて行かれたからな。わたしのことは覚えていないだろう……」
と残念がっているブルーグラスの様子から、彼はコピー人間に愛情を持っていたのだということが伺えた。本当は戦って欲しくもなかった。ただ、逆らえなかっただけで。
「いや、なんでもないんだ。突然すまないネ」
そういう時は無理に話したりせず、ブルーグラスは彼らから立ち去る。ただ、ホーンバーン戦隊の中でかなりいい性格に育ったカラトは違った。
「あの、待って下さい!」カラトはブルーグラスを呼び止める。「あなたのことはよく知りませんが、落ち込んでる人は放って置けません! はい、これをどーぞ!」
「これは……?」
「これは、ホーン隊長が育てているお花です! 栞の作り方は、ブラックローズさんから聞きました!」
とニコリと笑うカラトに、ブルーグラスは少し和んだようだった。
「ありがとう……大事にするよ」
そうしてブルーグラスはいつも持ち歩いている本の栞として使うようになる。彼は、いい博士だったのだ。今まで倫理観を逸脱している研究者がいるなんて、と思っていた私の考えを改めなきゃならないと思った。
ブルーグラスが作り出したコピー人間……という呼び方はややトゲがあるので、私たちは彼らを「ブルー生命体」と呼ぶことにした。
ブルーグラスは、廃棄されていた彼らを戦隊メンバーとして成長したスノーグ戦隊とホーンバーン戦隊を高く評価してくれた。
「本来は、最初からよく聞く声などに一番従いやすいように作っていてね。トイフェルで軍隊として教育されているうちの子たちは、もう私の声は聞こえないはずだ」とブルーグラスは半分悲しげに言った。「廃棄されているとは知らなかったが、やはり出来損ないのブルー生命体もあったのだ。言うことを聞かないとか、戦うことしか脳がないとか」
それから、ブルーグラスはそこにいたマッドグリーンを見やった。マッドグリーンはすでにここにいる人物が自分を作った博士であることは聞かされていたが、落ち着いていた。
「オレは、自分が造られた人間という自覚はありませんでしたが……今こうしてラズハの人たちやドクターに会えたことには感謝しています。オレを造ってくれて、ありがとうございます、ブルーグラス博士」
とマッドグリーンが言うと、ブルーグラスは涙だけをポロリと零した。
「そう言ってくれる者がいるだけでも、わたしは……嬉しいよ」
ブルーグラスはその他にも、トイフェルについて分かることだけ話してくれた。トイフェルには中心人物となる三人がいて、実際の軍隊を指揮しているのはその三人なのだという。
それが、アイディーとカジン。そして、パラレルというサルカズの女がいるという話だった。
「アイディーとカジンも、やはりトイフェルの人間だったか……」
ブルーグラスが来てから開いた会議にて、ケルシーがそう呟くと、知らなかったのかとブルーグラスがこんなことを聞いてきた。
「わたしへメッセージを送り届けるために薬品を運んでいた誰かが襲われたと聞いたが、ラズハの人間ではなかったのか?」
「え?」
後日レオンハルトにそのことを聞いてみると、彼は明らかに動揺した顔を見せた。
「大したことはなかったんだって。それに、奴らがトイフェルの人とは思わなくてさ」とレオンハルトは言う。「それに、イネスが心当たりあるって言ってどっか行っちゃうし、報告しづらくて……」
大したことにならなくて良かったが、イネスがどこかに行ったというのが引っかかった。
「イネスはどこに?」
「さぁ……」
イネスにも自由行動の許可は下りているが、しばらくラズハにいなかったのは気になっていた。イネスにはイネスのやり方があるのだろうが、心配なのは変わりない。