トイフェルの情報は多く得られたが、私たちは対策を何も立てられないでいた。
何より、トイフェルのトップとも言える「パラレル」という女が使うアーツが、厄介だったのだ。彼女こそが天災並みの力を使うアーツの使い手なのだと。
「パラレルは、自分と同じ人間を欲していた。だが、わたしが作る生命体には不可能なことがあってね」とブルーグラスは言ったことがあった。「一つは、記憶の引き継ぎがほとんど出来ないこと。稀に覚えている子もいるが、断片的で曖昧なことが多くてね。そして、もう一つは、鉱石病にならないことだ」
どういうことなのかブルー生命体は源石の耐性がすこぶる高いのだという。もし万が一意図的に鉱石病になったとしてもたちまち短命で終わってしまい、鉱石病と同じ人間を作り出すことは不可能なのだという。
「パラレルは鉱石病ということなのか」
と私が聞くと、ブルーグラスは頷いた。
「ああ。感染状況はとても酷い。だからこそ、あのような大きな力も発揮するのだろうが」
造られた人間がなぜか源石の耐性に高い話は別で聞いたことはあったが、彼らとブルー生命体には色々と違いはあった。ブルー生命体には元となった人間がいること、そして、骨までの再現が出来なかったと、再生する金属を使っているのだ。その再生する金属も、源石に関わらないようにしたものではないと途端に失敗するのだとブルーグラスは話していた。
「パラレルはなぜ、自分と同じ人間を造ろうとしているんだ?」
この私の質問に、ブルーグラスは肩をすくめながらこう答えた。
「さぁ? 世界を征服でもしたいんじゃないか?」
ここでまた、私たちはトイフェルについての謎を深めることとなった。ブルーグラスは、トイフェルが自分の造った生命体で軍隊を作りたかった、ということまでは分かっているのだが、なぜ軍隊が必要かまでは明確なことは知らないようだ。
そんなある日、私は執務室に置いてくれた小さな冷蔵庫から飲み物を取り出した。ブルーグラスが差し入れでくれた飲み物だ。少し飲んで仕事を片付けようとした時に、あるトラブルが起きてしまったのだ。
「……ん?」
目線の高さが下がり、手が小さくなったように見える。猫背だっただろうかと背筋を伸ばすが変化はなく、きっと疲れたんだなと椅子から下りようとしたら大きく転んでしまって驚いた。
あれ、防護服がデカくなっている……?
「子どもになってる!!!!」
「どうした、ドクター!」
「どうしたの、ドクター!」
「ドクター、助ける!」
私が一人で大声を出したからだろう。スノーグラウスとマホガニーとツルギが大慌てで執務室に飛び込んできた。
「スノーグラウス、マホガニー、ツルギ……」
ブカブカの防護服に身を包みながら小さくなった私はさぞ情けない姿だっただろう。
三人は時が止まったように言葉を失くして私を見つめた。
「すまない、変な薬を飲んでしまったようで……」
と喋る私の声も高く子どもっぽくなっていた。
「ドクター……なのか?」
スノーグラウスは半信半疑でこちらを見ている。そうだよね、信じ難いよね……。
「ドクター、可愛くなっちゃった!」
という反応をしたのはマホガニーだ。耳と尻尾がパタパタ動き、今にも飛びかかってきそうだ。
「ドクター、可愛い」
ツルギはそう言って私を抱き寄せてきた。ちょっとツルギ、私は人形なんかでは……。
そこに、バタバタと足音を立てながら一人の成人男性がやって来た。
「すまない、ドクター! わたしが開発した若返りの薬を差し入れの飲み物と間違えてしまったようなんだが……」ブルーグラスは、すっかり小さくなった私と目が合った。「あ、もう遅かった……デスヨネ」