「え、わ、ド、ドクターですか……?!」
執務室に向かって通路を歩いていると、ムースと鉢合わせた。これで何度目のリアクションだろう。
「やぁ、ムース。小さくなって驚くだろうが、私だよ」
私はそう挨拶をする。ムースってこんなに背高かったんだっけ、と自分の小ささを実感した。
「はわ……あわ、あの、ドクター……」
ムースが挙動不審になり、どうしたらいいか分からないと手を宙に泳がせ始める。私はさすがにもう察した。
「頭撫でたいなら、いいけど……?」
いつもはムースの頭を撫でていた側。私の頭を撫でたいのだろうか、と疑問に思いながら私が言うと、ムースの耳がピンッと立った。
「い、いいんですかっ、ドクター!?」
と言いながらも、ムースの二本の尻尾はすでに嬉しそうにパタパタしている。
「うん、いいよ。私が小さいままなのも明日までだろうし……」
多分普段の私じゃ頭なんて撫でづらいんだろなぁと思いながら、半分は諦めでそう言った。何より頭撫でたい! みたいな顔をされたら断りづらいし……たまには、頭を撫でられるのも悪くないなぁなんて思いながら。
「わぁ、ド、ドクターの髪の毛……サラサラしてますね……」
ムースの手が私の頭を撫でている。私に気遣ってか、右手で撫でているみたいだ。
「こっちの手でもいいんだよ、ムース?」
私は鉱石病でやや太くなってる手を握ると、ムースは小さく悲鳴をあげた。
「ひぃえっ?!」
「あ、ごめん、驚かせてしまって……」
私は慌てて手を引っ込めたが、時すでに遅しだった。
「どうした、ムース。また節足虫でも出たか……」
サンドレコナーだ。
「あ、サンドレコナーさん」
ムースは怯えたような声でサンドレコナーを振り向いたが、私がいると見るやしかめていた顔の筋肉をわずかに緩めた。
「一責任者である自覚を持て。我々の性格くらい把握していただろう」
サンドレコナーは私が小さくなってもあまり態度の変わらない一人であった。サンドレコナーはいつも通り厳しい。
「ド、ドクターは悪くないですっ。ただ、ちょっと、小さくなってるから油断してたというかなんというか……」
とムースが庇ってくれたが、いきなり手を掴んだ私も悪かったなと謝ろうとした。
「私が悪かったんだ。ムースは何も悪くないよ」とサンドレコナーを見上げる。「あれ、サンドレコナー、頭に何かついてるよ?」
「ん……?」
サンドレコナーの頭の上にはバランス良くカラクリ羽獣が乗っている。サンドレコナーはそのカラクリ羽獣を触ったが、私が見たのは髪の毛に絡まっている花びらだ。
「違う違う、こっちの……ほら、しゃがんでくれる?」
とつい言ってしまって気づいた。そうだった。私今小さいんだった。
しかしサンドレコナーはなんの躊躇いもなくしゃがみ込んで私に頭を傾けた。私は素早く花びらを取ったが、普段届く背の高さなのに、申し訳ないなと思う。
「ドクター、取れたか?」
「あ、ああ、すまない、サンドレコナー。取れたよ」と私が言うと、ようやく立ち上がるサンドレコナー。「花びらがついていたんだ。どこか外に行ってたのかい?」
療養庭園とは真逆から来たので甲板にでもいたのかなぁと思っていると、サンドレコナーがわずかに目を横に向けたのち、こう答えた。
「イウニとセネトの飯事(いいごと)に付き合っていた。羽獣につけたのかと思っていたが、私の頭につけていたのか」
いいごと? おままごとのことか。
へぇ、サンドレコナーが二人のおままごとに付き合ってくれているとは、いいお父さんになりそうだなぁ。
「あ、ムースも、おままごとに使えそうな物を持って行く途中でした! ドクターも一緒におままごとしませんか? 結構楽しいんです!」
「ええ……私が行ったら邪魔にならないかな……?」
「そんなことないです! 一緒に行きましょう、ドクター!」