ということで。
「イウニさん、セネトさん、ドクターも連れてきましたよ!」
私はムースに半ば強引に宿舎に連れて来られてしまった。
宿舎には床に敷いたカーペットの上で、お皿やフォークなどが散らかっていて、食べ物と見立てたのであろう雑草や小石、そして飾り立てられているカラクリ羽獣が多くあった。
「おー、ドクター! 本当に小さくなってるじゃん!」私を見るなり早速イウニがそう言った。「サンドレは石像で、ムースはお姉ちゃんだから……ドクターは何やってもらう?」
え? なんの設定なの、それ?
「うーん、今ドクターは小さいから……赤ちゃんとか!」
しかしセネトも、楽しそうに話を広げていく。え、私赤ちゃん役? 本人の意思もなく?
「私もそうやって唐突に決められた。あまり動かないから石像らしい」とサンドレコナーは淡々と説明した。「石像は動かないから楽だ。赤ん坊も動かないから楽だろう」
サンドレコナー、子どもたちと独特な馴染み方してるな……まぁ仲良いのはいいことだけど……。
「はい、ドクター」
招かれるままカーペットの上に座ると、セネトが白い花を頭に乗せてくれた。
「いい香りがするね。なんていう名前の花なの?」
と私は何気なく聞いたが。
「あ、ドクターは今赤ちゃんだから喋ったらダメなんだぜ?」
「ドクター、シーッだよ?」
イウニとセネトにそう言われてしまう。
「ええ……私、しばらく喋っちゃダメなの?」
「あ、赤ちゃんはよく泣きますから、泣いたりするといいかもです!」
私にフォローしたつもりなのかなんなのか、ムースがそう言ってきた。……私、見た目子どもだけど中身は成人男性だよ??
しかしここには助けてくれる大人はいない。サンドレコナーは頭だけでなく、服や上着も花だらけになっているばかりで止めもしない。もしやサンドレコナーも満更ではないのでは……。
まぁいいか。たまにはこうやって子どもみたいに振る舞うのも。
そうして私は、しばらくイウニとセネトのおままごとに付き合わされた。イウニとセネトだけじゃなく、サンドレコナーやムースの別の一面を見られただけで収穫だったと思うことにしよう。
「ってことがあってさ、仕事は大遅刻だよ」
その日の夜。ようやく執務室に戻ってきた私は、秘書として一緒に仕事をしてくれているマッドグリーンに昼間のおままごとの話をした。
「大変そうでしたね……」とマッドグリーンは言いながら書類を整理している。「しかし、たまにはそういうのもいいのではないでしょうか? ドクター、いつも忙しそうですし」
「まぁ、確かに……」
こうして見ると、子どもってこんなに小さいんだなぁと再認識することは出来た。椅子がこんなに高いことも、みんなの背が高いことも。マホガニーとツルギも、この目線で私たちを見ているんだなぁと改めて感じる。
トントン。
その時、執務室のノック音が聞こえて返事をすれば、珍しくジェイがやって来た。
「すいやせん、次の献立を書く書類を使い切ったことを今思い出しやして」とジェイが言う。「内勤の人はもう部屋に帰っちゃってて……ここに来たら原本があると思ったんすが」
「ああ、それなら」
私は椅子を飛び降り、必要な書類を手に取ろうとしたが……あ、届かない。
「ドクター、取りましょうか」
マッドグリーンがすぐに出てきて代わりに取ってくれた。子どもって、こんなに小さかったのか。
「ありがとう、マッドグリーン。急に子どもの体になると慣れないこともあるもんだ」と私はマッドグリーンに取ってもらったファイルから書類を取り出す。「これかな?」
「そうっす。ありがとうございやす」
ジェイはそう言ってしゃがんでから書類を受け取ってくれた。ジェイはいつも、子どもに対してこうだった。それは小さくなった私でも同じらしい。彼に悪気がないのは分かってるんだけど。
「早く元の大きさに戻りたいよ……」
とつい私が呟くと、ジェイはきょとんとしたあとクスリと笑った。
「たまにはいいじゃないっすか。小さいドクター、可愛いっす」
君も言うのか、ジェイ……。
私が明らかに変な顔をしたのか、ジェイはイタズラっぽく笑って頭をぽんぽんと軽く叩いてきた。それじゃあ失礼するっす、とジェイは執務室を後にするが、みんな誰もが私を子ども扱いだ。
「私は私なのに、一気に子どもになったみたいだ」と私は言ってデスクの前に戻る。「マッドグリーンだけだよ、私を子ども扱いしないのは」
と大袈裟に言うと、マッドグリーンの耳が一瞬ピンッと立った。
「なら……仕事が終わったあと、頭を撫でさせてはくれないでしょうか?」
え?
私はマッドグリーンを見やったが、彼の顔は真面目だった。冗談で言った訳ではなさそうだ。
「それは、構わないけど……」
私はオペレーターに甘いだろうか。それとも、体が小さくなったせいだろうか。
ただ一つ分かるのは、私は皆から愛されているということだ。それはとても、大事なことだと強く思うことにした。