フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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フェイトが住んでいるマンション、その屋上に今俺はいる。

隣にはフェイトがおり、目を瞑ってデバイス片手に先ほどから延々と訳の分からん言葉を紡いでいる。その言葉に呼応しているのか、足元のでっかい魔方陣が黄色い輝きを見せていた。

また使い魔アルフも俺の隣にいるが、彼女は特に何もせず佇んでいる。それでも強いて言うなら……ああ、素敵なボディだ。ヘソがいいね、ヘソが。こう、指を突っ込んでほじほじしたい。その時の表情を拝みたい。それくらいならかろうじて変態行為じゃないだろう。

 

ンで、最後に俺だが……って別に俺の情報なぞいらんだろ。アルフの身体を観察しながら突っ立ってるだけだし。服装はただの白ジャージ、手には木刀代わりのデバイス。

ホントならいろいろ用意したかったが、時間もなかったしな。まあこの身一つありゃ喧嘩は出来る。

 

(マトイでもありゃあ、もうちっと気合入るんだがな)

 

まっ、無いもんねだりしても始まんねぇし。それにまったく知らねぇ奴との喧嘩は久しぶりだかんな。今からムカつく奴をボコボコにしてやれると思うとそれだけでワクワクだ。昔を思い出すぜ。

 

そんな男独自の高揚感に包まれている俺に、隣のアルフが面白そうに声をかけてきた。

 

「隼ってやっぱり変な奴だよね」

「何回も聞いた。そしてその都度言ってっけど、俺は変じゃない。至ってマトモで、至って誠実な紳士君。これほどの真面目人間、どこを探したっていねぇぞ?ギネスに登録していいくらいだ」

「よく言うよ。ただ自分が喧嘩したいだけで、持ってたジュエルシードを手放すなんて」

 

そう、俺はジュエルシードを手放した。正確にはフェイトにやった。その理由は単純明快で、いわゆる交換条件ってやつだ。

 

俺はフェイトの母親がいる場所を知らない。だから手段はフェイトに案内してもらうしかない。………だが、フェイトは猛反発。

まあ、当たり前だな。誰が好き好んで自分の母親の所に殴りこみに行くっていう男を案内する?さらに言うと虐待されているだろうフェイトだが、それでも母親は大好きらしい。そんなマザコンが暴力男を案内する事なんてまず無い。

 

だが、俺は一度やると決めたらやる男だ!

確かにジュエルシードを手放すのは少々惜しいが、持ってても使い道わかんねぇ。なら俺の欲を満たすために有効活用するべきだ。

案内してもらう代わりに、俺の持っているジュエルシードを渡す。ホントなら交換条件なんてしねーで一方的に言うこと聞かせるとこだが……まあ今回は大目にみてやっといた。

 

最初フェイトは俺がジュエルシードを持っていた事に驚き、次にどうするか悩んだ。

母親に危害を加えようとする男を連れて行っていいものか、でも隼だし、それにジュエルシードは欲しいし─────ってな具合に。

最終的には、こうやって屋上で転移魔法を発動させようとしている事からも分かる通り許可が降りたのだった。

 

『分かった分かった。ンじゃ、話し合いだけにすっから』

 

といって最後に納得させた訳だが、勿論そんなのは嘘。カチコミする気満々。デバイスを揚々とす振りする。

フェイトはそんな俺の行動を訝しんでいたが、俺は「なに、ワープ?空間転移?するための準備体操だよ」的な事を言って誤魔化しておいた。それで誤魔化されてくれるフェイトは純粋なのか天然なのかアホなのか。

 

ともあれ、これですべては整った。あとは…………

 

「開け、誘いの扉。テスタロッサの主の下へ!」

 

喧嘩だ、喧嘩!

フェイトの親だからって加減しねぇ。最低でも1発、最高でグチャグチャにしてやる!管理局とか魔法関係とかバイトとかその他諸々とか、今は知った事か!

 

俺は俺のやりたいようにやる!自分の欲を満たす事が最優先だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動した先でまず思った事は『辛気臭ぇ』だった。

周りに広がる景色は一言で言うと暗い。黒ってか紫ってかそんな感じで。空間っつうの?それもなんか歪んでんしよ。まず地球じゃお目にかかれない光景だ。

ただ、その中で地球にもありそうな建造物が一つある。おそらくあそこに母親がいるんだろうが……。

 

「…………なんちゅう豪邸だよ、オイ」

 

つうか、もうこれ城みたいな?俺みたいな貧乏人への当て付けか?

また喧嘩する理由が増えた。

 

「金持ちは死ねばいい」

 

フェイトのマンションといい、この実家といい………もうなんかね、やるせねぇよ。ホント、死ねよ。あ~あ、この世にいる金持ち全員死なねぇかな。ついでにイケメンも絶滅しねぇかな。後者は特に。

やっぱいるとこにはいるんだなぁ、勝ち組。美人で金持ちで魔導師としても有能とか……あー、早く殴りてー。

 

「隼、どうしたの?」

「なんで機嫌悪いのさ?」

 

俺の剣呑な雰囲気を読み取って怪訝な顔をする二人だが、生憎と俺の機嫌は邸内に入った後も尚急降下。

上に目を向けてみれば、なんか高そうな電灯(シャンデリア?)。

下に目を向けてみれば、なんか高そうな石畳(大理石?)。

周りに目を向けてみれば、なんかよく分からん絵画やら壷やら。

これがザ・金持ちという光景だ、と言わんばかりの目障りさ。

 

(ちっ……忌々しい)

 

金持ちってのはどうしてこう自己顕示欲ってのが強いのかね?

帰る時、なんかその辺にある高そうな物ガメて帰ろ。

 

「あの、隼………」

「ん?なんだよ?」

「………ホントに母さんに暴力振るわないよね?」

 

不安そうな顔でそう言うフェイト

ここに来る前にあれだけ「危害は加えない」と言っておいたのに。心配性というか、優しすぎるというか、相変わらずというか。

 

「大丈夫っつたろ?お前の母親なんだ、話せば分かってくれるだろ。マジで暴力沙汰にはならねぇよ。まあ口論くらいにはなるだろうけどな」

「そっか……うん、それならいいんだ」

 

そう言って笑顔で納得するフェイト。

なんだろうな、こいつ見てるとヴィータや理の異質さがよく分かるよ。そうだよな、ガキってのはこういうふうに素直じゃねーとな。

汚ぇ大人が汚ぇ事考えてようとも、そんなの察せずにただ言われた事に納得しておく。それが良くも悪くもガキってもんよ。最初はそんなもん。大人の考えや背中見て追々学んでくもんだ。そして、そこから善し悪しを選び抜いた時、自分も大人になれるってもんよ。

 

(だから、まあせいぜい見とけや。これが汚ぇ大人ってやつだ。こうはなるなよ?)

 

そんな思いと共に体操のお兄さん顔負けのナイススマイルを浮かべて、汚い大人代表である俺はフェイトに案内を促した。

フェイトは今度こそ安心したのか、しっかりとした足取りで奥に向かって進む。その背後に続く形で俺は黒い笑みを、アルフは複雑な表情を浮かべながら歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな反面教師的俺が無垢な子供と綺麗な姉ちゃんを連れて歩く事数分…………つうか数分ってなんだよ!?家の中歩くのになんで分単位かかるんだ!?ああっ、ホント忌々しい!!

………話が逸れたな。兎に角、数分後、俺たちは一つの扉の前で立ち止まった。

俺がフェイトに頼んだ案内先は母親の部屋……つまりはこの扉の奥の部屋にバイオレンス・ママが居るって訳だ。

 

「さて、じゃあお前のママとお話(物理)してくるわ」

 

と、俺が部屋に入ろうとすると、後からフェイトが付いて来ようとしたので軽くチョップして止める。

 

「い、いたいよ、隼……」

「ココから先はR18のディ~プな世界だ。お子ちゃまはここまで。犬も入っちゃ駄目な。下手すると発情期に移行しちまうからよ?」

「R18?」

「ハツジョーキ?」

「分からなくていいから、さっさと消えろ。自室に戻っとけ。そうだな……15分くらいで『お話』は終わるだろうから、それくらいたったらまたココに来いや」

 

そう言って二人の背中を押し、どこかに行くよう促す俺。

それに対しフェイトもアルフも渋々ながら背を向けて廊下の先へと消えていった。

 

それを見届けた後、俺はポケットからタバコを取り出し火をつけ一吸い。改めてフェイトやアルフがいない事を確認。

 

「さーてと」

 

扉を前に左脚を前に出し、軽く前傾姿勢。出した脚を軸足として身体をを半回転。宙に浮かせていた右足で思いっきり扉をノックする。力加減は、まあいつもヴィータや理を蹴るくらいのもので。

 

「ちわ~、カチコミでーす。────暴力をお届けに参りましたぁぁああ!!!」

 

俺の乱暴なノックで蝶番が壊れてすっ飛んでいく扉。

 

ところで。

 

魔法やら理の残虐さで忘れがちかもしれないが、一応俺も力自慢、力に物を言わせるタイプだ。昔は睡眠より性欲より飯より喧嘩だコラァな感じで生活してた。喧嘩で負った傷を喧嘩で癒してた。週に七日は血流してた(相手の)。負け知らずと言っても過言じゃねー。

実際、こうやってワンパンならぬワンキックで扉ぶっ壊すとか中々出来ねぇよ?これ、結構すごい事よ?普通の人、足痛めるだけよ?…………だつうのによ。

 

(……そんな俺とタメ張るロリーズはどんだけだよ)

 

ヴィータに理、改めてあいつら滅茶苦茶だな。喧嘩ン時はいつもこんくらいの勢いで蹴り入れてんのに、即座に殴り返したり撃ち返したりしてきやがるし。頑丈な奴らだ。そして返って来たアイゼンや砲撃に耐える俺も我ながら頑丈だ。

 

閑話休題。

 

ともあれ、俺は意気揚々と中に一歩踏み込んだ。

その部屋もまた大きなモノだった。まるで俺のアパートの一室が豚小屋に成り下がるくらいの、それくらい大きな部屋。

一方でとても殺風景な部屋だ。まず目に入ったのが大きな机と大きな椅子。そしてその椅子にこちらに背を向けて座る女性。………それだけ。

『まず』とは言ったが、もうそれ以上目に入るものが無い。それほどの殺風景さだ。

 

(辛気臭ぇ部屋だな。……見たとこあれがフェイトの母親か)

 

この広い部屋に人は女性が一人。間違いなくあれがフェイトの母親だろう。

俺が部屋に入ったのは分かっているだろうに、そいつは未だ無関心にこちらに背を向け椅子に座っている。

 

つうかシカトこいてんじゃねぇぞ?フェイトママ、第一印象は最悪な女だな。

 

「よォ、人様が訪ねて来てんのになにシカトぶっこいて─────」

 

俺は文句をいいながら一歩踏み出し、2歩目を踏み出そうとした所で、その歩みと文句の言葉が止まった。

ふいに俺の視界の隅に紫色の光が入ったからだ。─────同時に俺の視界がブレ、また次の瞬間には体が吹き飛んだ。それはもう人間ピンポンボール。ジャックポットってか?

 

「んどぅヴァッッ!?!?」

 

一回転、二回転、三回転。

景色が流れ、体が床に叩き付けられ痛みが襲い、頭はそれを上回る激痛が奔っている。この痛みはアイゼンでぶん殴られた時、あるいはルシフェリオンの魔法弾を受けた時のそれと同等だ。

これつまり。

 

(俺、攻撃された?)

 

それに思い立った瞬間、俺の体は壁に叩き付けられた。そしてそのまま壁際で体を横たえる羽目になった。

 

「あの出来損ないの人形、一体どういうつもりなのかしら。満足に仕事もこなせないどころか、こんなゴミをこの庭園に招き入れるなんて」

 

そんな淡々として冷たい声が、床に身を横たえた俺の耳に入ってきた。その声の聞こえる方に何とか目を向けてみれば、そこには先ほどまで椅子に座りこちらに背を向けていたはずの女性が立ち、俺を無様とでも言いたげに見下していた。

俺はその態度が気に入らず、すぐさま立ち上がり────しかし、膝立ちがやっとだ。

 

体イテェ!頭イテェ!つうかなんか頭から血がダクダク出ちまってんじゃねーか!?

 

「ふん、今ので気を失わないなんて。頑丈なゴミ……というよりしぶとい虫ね。鬱陶しい」

 

そう言ってまた一つの魔力弾を浮かべた。その目には慈悲も何もなく、ただ文字通りゴミか虫を処理するような、そんな無感情さが窺える。

そんな視線を向けられ、今にも魔力弾を撃ってきそうな女に俺は恐怖で身が震えた────訳がねぇ。

 

「………あ゛ぁん?!今、なんつったよ。おおコラ?」

 

この俺をゴミ?虫?……上等だよ、このクソババァ。ああ、上等だ。

俺は痛む体と滴り落ちる血を無視し、立ち上がった。ここで立たなかったら俺じゃねぇ!

 

「まだ立てる元気もあるのね」

 

ババァは少し意外だったのか、眉を寄せ不快感を示した。

 

「ハッ!あんなちょっせぇ攻撃が効くかよ。生憎とこちとら殺傷設定の魔法にゃ死ぬ一歩手前ほどまで慣れてんだよ」

 

勿論、効いていない訳がない。鼻血程度なら兎も角、流石にここまで流血したのは久しぶりだ。ビールの瓶で頭カチ割られた時以来か?まあ頭のケガは出血はハデだが実際はそこまでじゃねーから問題なし。

俺は余裕を表すようにタバコを出して火をつけ、ババァに向けてぷはぁ~と景気良く吹かす。

それを見てまたババァの眉根に皺が寄った。

 

「………不愉快ね」

「おいおい、そりゃ俺の台詞だ」

 

こっちからカチコミしにきといてこのザマだ。まさかいきなりこんな上等かまされるとは思いもしなかったかんな。

不愉快っつうより無様だ。

 

「ハァ、俺もヤキが回ったかな。最近、本気喧嘩なんてしてなかったかんなぁ。うちの奴らともマジでヤルがベクトルがちょい違うし。しかも、その相手が女って事でどこか油断も────」

 

と、そこで俺はある重大な事に気づいた。いつもは一目見て気づくであろうくらいの重大な事に。

 

(あれ?このババァ、極上じゃね?)

 

何が、と言うまでも無いとは思う。特にどこが、と言うまでもないとは思う。

 

(いや、まあフェイトの母親ってことで予想はしてたし、実際どんな感じかも二人から聞いてたけど……けどそれ以上に美人じゃんよ)

 

フェイトとは違い黒く長い髪。気の強そうな顔立ちで可愛いという要素はないが、代わりに美という要素がてんこ盛り。少々小ジワがあるが、まあ目立つ程じゃねえ。

服装もこれまたヤバイ。センスの悪い黒マントは兎も角、その下に着ているドレスっぽいワンピースだが、そのデザインがなんとまあ素晴らしい事。胸元ガバ空き、谷間モロ見え。しかもデケえ。下腹部もパックリ空いてるし、股間のラインもドレスのくせにバッチシ分かる。

 

……んっん~。

 

(いつもだったら鼻息荒くして小躍りしてんだけどなぁ……やっぱ今はそこまでじゃねーや。完璧テンションのギアが別のとこ入ってっし)

 

まあしかしそれでも。

 

「喜べ、ババァ。俺ぁ少しだけ愉快になったぞ。これであんたにグチャグチャな未来は訪れない。ぶん殴ってはやるがな」

「……威勢のいい虫ね。でも賢くない」

 

そう言うとババァは浮かべていた魔力弾を俺に向けて放った。

俺も日頃伊達でヴィータと喧嘩している訳ではない。不意打ちなら兎も角、ただ真っ直ぐ飛んでくる魔力弾など避けるのは容易い。

 

そう思っていたんだが……。

 

「ぎょべッ!?」

 

現実は厳しい。

俺の腹に魔力弾が当たり、めり込み、爆ぜた。そしてまた壁に激突。咥えていたタバコが落ち、滴った血で火が消えた。

 

「ゴホッ……あ~あ、タバコが。勿体無ぇ、いつもは根元まで吸うっつうのに。ぶん殴った後で1カートン買わせてやる」

 

見当違いの事を呟きながらも、心中ではちょっと驚いていた。

出鱈目な魔力弾だ。

威力は耐えられないほどじゃない。ヴィータのラケーテンでの突進や理のディザスターによる砲撃に比べたら屁だ。しかし問題はその速度。とても放たれてから避けられるモンじゃない。200kmくらい出てんじゃね?

 

「美人に責められるってのも悪かぁないが、俺もどっちかってとSだかんな。いや、たとえSじゃなくても今回はダメだ。もうね、いろいろダメダメだ。言いたい事分かる?」

「虫の言いたい事が分かるとでも?」

「さらに上等だよ。いいか?俺ぁな、キてんだよ。それも相当。そもそもここに来る前から………フェイトにお前が何をしているか聞いた時からよぉ」

「……ふふ、そういう事。虫かと思っていたけど、どうやら正義のヒーロー気取りの偽善者だったようね」

 

ババァの顔に笑みが浮かぶ。ただそれは見ていて気持ちいいモンじゃない。なんとも腹の立つ笑みだ。

対する俺も同じように笑って返す。

ついでにここに来て3本目のタバコに着火。あ~あ、節約してんのによ。でもしゃあねーわな、ムカつくとどうもすぐ手が伸びちまう。

 

「ぷぅ~──。そんな大層なモンじゃねぇが……まぁ、似たようなモンに見えるよな。こっちとしてはただ気に入らねーってのが理由だけど、周りから見たら『善い奴』に映るんだろうよ」

 

傍から見てる奴にとって、正義を行ってる奴の動機はいらない。純粋でも不純でもいい。結局最後に残るのは行ったあとの結果とそれがどう見られるか。

つまり今回は、虐待されているガキのために怒る正義感溢れる男、バイオレンスママに天誅。……事情を知らない奴が傍から今の俺を見ればこう結論付けるだろうよ。

 

うぼえっ、自分的にはマジ反吐が出る。

 

「ただ気に入らない?」

 

ババアも単純に俺をそう思っていたようだ。が、こちらの返答を聞いて訝しむ。

そう、ただ気に入らねーんだ。今の俺にはそれしかない。そして、何が気に入らねーのか。それは──。

 

「『子供は子供らしく在れ』、それをあんたはさせてやれていない」

 

ただ、その思いだけ。

これは子供だけの問題じゃない。子供らしく振舞えるようにさせてやるのは親の義務。

虐待されているガキがガキらしいとは思えない。よしんば今はガキらしくても、いずれどこかで歪んじまう。

 

「子供が自分の意思で子供らしくしないのは……まあ、それも気に食わねぇがまだいいさ。だがな、親の行いでそう在れないのは俺は気に入らん」

「……ふ、ふふ、あははは!」

 

俺のここに来た理由を聞いてババアはさも愉快そうに笑い出す。ンだよ、マジむかつくな。綺麗な顔してる分、笑い方も様になってて余計腹立つ。

 

「あまり笑わせないで頂戴。何だかんだ言って、結局は私があの出来損ないにしてる仕打ちが許せないだけじゃない。偽善を行うのに回りくどい理由を付けるなんて、そこまでいくと偽善じゃなく偽悪ね。悪を装って注目されるのが趣味なのかしら?」

 

……ん?あれ?そうなるのか?……いやいや、何か違うんだよ。そう言う事じゃないんだよ。クソ、俺、あんま口で説明すんの上手くねーんだよ。

 

「いや、違くてよ。つまり虐待は別にしていいんだよ。実際、世界じゃ何万人もガキが虐待されてるわけで、それを俺は全部助けたいわけじゃねーし。むしろ面倒だし」

「……は?」

 

呆けるババアを尻目に俺は考える。

そうだ、虐待ってのを論点にしたいわけじゃねーんだ。いや、確かに虐待が良いか悪いかで言えば悪いに決まってんけど、そこに俺の感情がどうこう言ってるわけじゃなく。

 

「虐待はして良くて、ただそれを俺に分からせるなっつうか……あー、つまり虐待してるガキを俺の前に出すなって話だ。知り合いにさせんなっての。ちゃんとフェイトに言い聞かせとけよ、どんな奴相手にも秘密にしとけとか、現地じゃ他人に関わるなとかよ」

「…………」

「手ぬるいんだよ。きちんと調教完了させてから送り出せや。ったく、そのせいで俺を不機嫌MAXにさせやがって。それかフェイトみたいな可愛いガキじゃなく、不細工で可愛げの欠片もない生意気なガキ使えや。それかただの男。だったらガン無視決め込んでんのによぉ。むしろ一緒にボコボコにしてやってんぜ」

「…………………」

 

フェイトはここ最近知り合ったガキの中じゃあダントツで好きなガキだからな。なのはよりも、すずかよりも、アリサよりも。まあ顔を合わせてる回数がフェイトが一番だからってこともあるが。…………ヴィータ?理?論外。

 

「だから、ちょいさっきの言葉訂正。ガキはガキらしく在れ……だたし、俺の知ってる可愛いガキ限定。あとの見ず知らずのガキの事のなぞは知ったことか。そこまで心広くねーんだよ。いくらでも虐待されてろ」

 

言って自分でも改めて納得。

そう、今回のように俺の知ってるガキが虐待受けてガキらしくなれてないのがムカついたんだ。ムカついたってか、気分悪ぃ。これが仮にダチから「隣の家、子供虐待してるっぽいけど、どうしよう?」なんて相談された場合、俺はきっとこう返すだろう…………「んな事よりお前の奢りで飲みに行かね?」と。

 

「…………………なんて、でたらめな男」

 

唖然とした表情になってこちらを見やるババア。そんなババアに対してでたらめ男である俺は続ける。

 

「まあ、ぶっちゃけここに来たらその理由もちょっとどうでもよくなったんだけどな。フェイトを虐待?もう知らんがな」

「……は?……は??……いえ、ちょっと待って??」

 

確かにここに来るまでは義憤紛いの気持ちが僅かだがあったかもしれない。

『親のせいでガキらしく振る舞えてないのが気に入らない』と思うと同時に『こんな可愛いガキを虐待すんな』とも思っていた。

正義のヒーロー、偽善、偽悪と見られてもまあ納得だ。

フェイトへの虐待が許せない。フェイトが可哀想。助けてやりたい。

もしかしたら、そう思っていたかもしれない。他人の事情に憤りを感じていたのかもしれない。…………この部屋に入る前までは。

 

「つまりな、そんな事よりもいっとうデケえ問題がここに来て浮上したわけよ」

 

俺は吸っていたタバコを吐き捨てる。そして獰猛に笑いながら右手の人差し指で自分の頭を指す。

 

「ヤってくれやがったよな?」

 

フェイトへの虐待……そんな他人の事情なんかよりも何よりもデッケえ問題。

 

「俺があんたに喧嘩を売った。そしてあんたはそれに応えて上等くれた。今、この場ではそれが全てだ」

 

確かにフェイトのようなガキは大好きだ。このババアのような美人は大好きだ。

フェイトをガキらしく過ごさせていないこのババアが嫌いだ。美人の女を殴るのは忍びない。

 

───そんなものはもう遥か彼方。

 

「俺に喧嘩売った奴は殺す。俺が喧嘩売った奴は殺す。ヤられたら俺の気の済むまでヤり返す。だから俺はあんたをブチのめす」

 

何度も言ってんだろ?この世で一番大事で、可愛くて、優先すべきは『自分自身』だって。

そんな俺に向かって上等くれやがった。頭はぱっくりザクロっちまった。ピーチクパーチク講釈たれやがった。

 

な?許せねーだろ?

 

「多少可愛かろうとも、ガキの事情など知った事か。今、俺はテメエにやられてムカついてる。ぶん殴りたい。それが俺の今ある気持ちで、何よりも優先すべき事だ。それ以上のモンはここにねーし、それ未満のモンは後回しだ」

「─────」

 

ババァは誰でも見て分かるくらいの大きな変化を顔に浮かべた。それが呆れなのか、驚きなのか、惚れたのか、それともその全部なのかまでは分からんが。…………3つ目はねぇか。

 

「本気……で言ってるようね。何の恥も外聞もなく、後ろめたさもない。自分を最上位に置いて欲を優先し、意思を優先し、望みを優先する」

「世間ではそんな奴らを利己主義、エゴイズムなんて言ってやがるが、人間一皮剥けば誰もがそんなモンだ。だが大抵の奴は人目や常識を気にして、一生を皮被りの包茎で過ごす。……ハッ!俺ぁそんなの御免だ。被ってたまるか、ズル剥けだっつうの。俺が俺として生きて何が悪い?言うなれば俺は究極の正直者なんだよ」

 

なんて似非カッコイイ事言ってみるが、俺だって突き詰めていけばただの人。人の目を気にする事もあれば常識でモノを考えることだってある。

だが、それでもその他大勢の包茎共と比べたらとびきりの自己中野郎だろう。

 

「偽善でも偽悪でもなく、そもそも善悪すらどうでもいいみたいね。自分のする事が善行だろうが悪行だろうが、それがやりたい事ならやる」

「まっ、そういう感じだ。善悪の判断が付かない程ガキじゃねーが、それに従う程出来た大人でもねーんでな」

「一番タチの悪い馬鹿ね。社会不適合者……いえ、どちらかというと社会病質者かしら?」

「誰が犯罪者予備軍だコラ。てか、テメエの事棚に上げてよく言うぜ」

 

俺には分かる。こいつも俺と同じ、極上の自分勝手野郎だと。その証拠にババァから返ってきたのは意味深な笑み。

 

「面白い男ね。あなた、名前は?」

「鈴木隼。ハヤブサ・スズキって言った方がいいか?」

「そう。……スズキ、今すぐこの庭園を出て行くなら殺さないであげるわ」

「人様の顔を血まみれにしておいて調子ぶっこいてんじゃねぇぞ?テメェこそ今すぐ泣いて詫び入れりゃあ、殴るの止めて鼻エンピツ2本で勘弁してやんよ。もしくはこの豪邸と金寄こせ」

 

俺とババァはそこでお互い小さく声を出して笑った。さも愉快そうに、さも不愉快そうに。

 

「そう、じゃあ────」

「おう、だからよぉ────」

 

ババァは持っていた杖を構え、背後に数えるのが面倒な程の魔力弾を出した。

俺は首や手をポキポキと鳴らしたあと、デバイスを出して肩に担いで佇む。

 

そして………。

 

「「死ね!」」

 

お互いがSだと結局こうなるんだよな。

 

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