フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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まず最初に言っておく。

 

──夜天は優しい。

 

これだけは揺るがない、確固たる事実だ。

まず最初の出会いからして俺の命の恩人。もし、あの時夜天に受け止められていなければ俺の身体は地面に衝突、かなりのグロテスク物体へと様変わりして衆目の気を引くことになっただろう。

そして普段の生活にしても、夜天は俺の我が儘を一番許容してくれている。魔法訓練も、俺の覚えたい事だけを教えてくれて、それが出来たら我が事のように微笑みを浮かべて喜ぶ。晩酌の相手、バイトで積み重なったストレスを発散する為の愚痴の相手…………改めて見れば、挙げて言ったらキリがないほどの世話を夜天にはかけている。

 

──よって夜天は優しい。

 

そう、優しいんだ。

 

「はぁああ!!」

 

…………例え、気合の声を上げながら向かってくる魔法弾を殴り消そうとも、彼女は優しいのだ。

 

「しっ!!」

 

…………例え、綺麗な弧を描いた回し蹴りをプレシアに叩き込んでぶっ飛ばそうとも、彼女は優しいのだ。

 

「踊りなさい」

 

…………例え、硬い床を綿あめの如く毟り取って散弾のように投げつけようとも、彼女は───

 

「おい、そろそろ現実見ろよ」

ぽん、と腕をヴィータに叩かれてハっと我に帰った。そして改めて現状の光景を見やる。

 

「…………あれ、本当に夜天?」

 

うん、全然優しさの欠片も伺えないな。

 

「あたしもちょっとビビってるけど、あれが夜天だ」

「いや、だって普段と違いすぎね?あれ、すでに別キャラになってね?え、もしかして二重人格的な?」

「正真正銘のナチュラルな夜天だ」

 

そう言うヴィータの傍でシグナムたちも小さく頷くのが見えた。

 

「…………いやいや、やっぱ何かの間違いだろ。夜天は優しい、これ常識よ?あれがナチュラルって……いやいやいや、どこぞの腕力家とタメ張れそうな子じゃないって夜天は」

 

まあね、確かに人ってのはさ、普段抑えられてるのが爆発したら性格変わるっていうけどさ。ほらそこはあいつ人間じゃねーし、だからきっとこれはアレだ、幻覚だよ。幻覚魔法ってやつ?それを使ってんだよ。それか邪眼的な?ジャスト一分でこの悪夢は終了すんだよ、きっと。

 

「気持ちは分からなくもないですが、目の前の光景が全てです。あのオーガもまた夜天なんですよ」

「いやいや理、お前ならああなっても分かるが、夜天に限ってオーガなんてそんな……」

「そうやって自分の都合のいい理想像を女性に押し付ける……典型的なろくでなし男の行いですね。交際歴がないのも頷けます。人間からしてみたらこういう男はクズの部類なのでしょうね。ああ、しかし安心してください。私はそんなクズ主でも愛していますから」

「よし、言いたいことは多々あるが取り敢えず一発の拳に全てを込めてお前を殴る!」

 

ぶん、と振るった拳を小生意気な表情でひらりと躱す理。

くそ、ろくでなしで悪かったな!ええ、どうせ俺はクズですよ!てか何で俺が交際歴なしって知ってんだよ!?

 

「ちっ、まー現実逃避してた事ぁ認めるよ。つか逃避もしたくなるっての」

 

今まで夜天の優しさにしか触れてこなかったんだ。それがここに来ていきなりアレだぜ?そりゃ逃避の一つもしたくなるってもんよ。

そりゃ夜天のみならずコイツラとはまだ1ヶ月そこらの付き合いだからよ、まだまだ俺の知らねー面もあらーな。いくら同居して密で濃い時間過してるっつってもよ。実際、この夜天のステゴロの凄さにもマジびっくりだ。

 

「いやぁ、それにしても意外だぜ。夜天が肉弾戦って。俺ぁてっきり魔法主体の戦い方すると思ってたんだけどな」

 

それが蓋を開けてみればガチガチの肉弾戦。超インファイトのパワーファイターなんだもんなぁ。ギャップ激しすぎ。もしかしてギャップ萌でも狙ってなのか?悪ぃけど全然萌えねーよ。むしろ燃えるよ。人の喧嘩見てるとこっちまでしたくなるっつうの。

 

「主の仰る通り、元来夜天の戦い方はあのようなものではありません。とは言ってもこれはオリジナルからコピーされた時の記録によって知り得ている事なのですが」

 

すっと横に来たシグナム。その顔は呆れているようで、また同時に誇らしげでもあった。視線の先には夜天。

 

「彼女は中距離魔法、あるいは広域魔法を使っての戦闘が主体です。あるいはユニゾンによる主のバックアップ。もちろん接近戦も行えますが、それはベルカの騎士のレベルからすると児戯程度です」

「児戯って……あれ、どう見ても子供の戯れレベルじゃねーぞ?」

 

眼前にはプレシアに向かって猛然と殴りかかる夜天の姿…………あ、プレシアが夜天の足に鞭巻きつけて壁に叩きつけた。痛そー。

 

「主隼のおかげです」

 

え?俺のおかげ?あのオーガ化が?…………それ、俺の゛せい゛って言うんじゃね?いやいや、俺、なんもしてねーよ?

……してねーよな?

 

「ええっと、俺、夜天に何かやらかしちまったのか?」

「夜天に、というより我々に、です。そう、主のおかげで我々は゛己゛を持てたのです」

 

ごめん、俺馬鹿だからちょっと意味分かんない。

胸中で首を捻っていると、それを察したシグナムが小さく笑った。

 

「良いのです、主はそのままで。たとえ分からずとも、覚えていなくとも、私は覚えています。烈火の騎士シグナムでもなく、プログラムでもなく、ただ一人の゛私゛は」

「あ……お前、それ」

 

その言葉を聞いてハッとした。記憶の片隅に確かにあるその言葉。それを言ったのは、確かまだこいつらと出会って1週間もたってない時の、あのギスギスしてた時の──。

 

「……ンな事覚えてたんかよ。てか忘れろ。今思い出すと恥ずいわ」

 

あの時は、まあ何だ、かなりムカついてたからな。コイツラ全員に対して。特にシグナムなんて何か知らんがウジウジ悩んでたもんだからかなり暑苦しい弁えをした記憶が。

 

「主のあの時のお言葉があったからこそ、我々はプログラムに縛られず、与えられた役割に拘らず、己が心で生きようと決めたのです。守護騎士システムではなく、シグナムというプログラム名でもない、ただ一人の゛私゛として、日々成長していくと。…………まぁ、流石にあの夜天の成長の形には私も驚いていますが」

 

それでも、とシグナムは続けた。

 

「我らの記録にあるオリジナルの夜天……管制人格の湛えている表情はいつも憂いを帯びていて、生きる事に諦観していました。どうにもならない、どうしようもない、だから流れに身を任せようと、と。ゆえに主のおかげなのです。我らに全力で生きる生き方を教えてくださったのですから」

 

そしてシグナムは微笑んだ。瞳を細め、目尻を下げたそれは今まで見たことのない淡い笑顔。

それを見た瞬間、俺は心にある一つの言葉が浮かんだ。

 

(抱きしめてチューしてお持ち帰りしてまたチューしてベッドインしていいですか!?)

 

シグナムは美人系だと思っていたが可愛い系でもあったのか!何か凄い真面目な事言って俺の事尊敬しるっぽい事も言ってたけど、この最後の笑顔で何言ってたのか忘れちまったよ!どうでもいいよ!

なんだよ、改めて見るとやっぱシグナム可愛いじゃん。いつもは「真面目か!」とツッコミたくなるような堅物だけど、その真面目っつうのは真っ直ぐっつう事でもあんだな。

柔らかそうなおっぱい同様、その笑顔もなかなかにGOOD。

 

よし、じゃあここは一発俺も良い事言ってシグナムへの好感度を上げ───

 

「痛っ!?」

 

突然ケツと脛に痛みが奔った。見ればシャマルが俺のケツと笑顔で抓り、ヴィータがローキックをかましている。

 

「痛ぇーな!何すんだよ!」

「ふん!」

「ハヤちゃんの馬鹿」

 

と、二人はゴキゲン斜め。一方のシグナムの方にも理とザフィーラが詰め寄っていた。

 

「なに主と二人だけの世界を作っているのですか?それほどまでに死にたいのですか?」

「シグナム、俺の目を盗んで主の株を上げようなど……いくら我らの将とて抜けがけは許さん。主は貴様一人のモノではないぞ」

「べ、別にそのようなつもりは……!」

 

と、向こうも向こうで何かよう分からん事になってる。そして視界の片隅には絶賛バトル中の夜天とプレシアの姿があり、その二人のキャットファイトを泣きそうな顔で右往左往とキョドりながら見ているフェイトがおり、不意に目があった。

 

「は、はやぶさぁ~……」

 

泣きそうな顔、てか普通に泣いてる。

目の前の惨状──夜天とプレシアのなんちゃって殺し合いに自分の気持ちが受け止めきれなくなったんだろうな。

 

(あー……なにこれ?え、俺ら何しに来たんだっけ?)

人のふり見て我がふり直せ、とはまたちょっと違ぇーだろうけど、こいつら見てっと幾分冷静になれた。と同時にため息を一つ零して泣いてるフェイト頭を撫でてやる。

 

「心配なのは分かっけど、ンな顔すんなって」

「で、でも……」

 

それにいい加減俺も腹たってきたし。人の喧嘩を指咥えて見てる事しか出来ないってのが一番ストレス溜まんだよな。

 

「大丈夫だって。なんなら今すぐあのバカども止めてやんよ」

不敵に笑う俺に、しかしフェイトの顔にはまだ心配の色が見える。ただ、それはさっきまでの母に対する心配とは違い、今回は俺の対する心配ってのが明らかだった。『あの二人を止めるの?危ないよ?近づくだけで軽く3回は死んじゃいそうだよ?』とでも言いたげな顔だ。

しかし、そんな心配は不要だ。俺を誰だと思ってやがる?あんなヒステリックを止めるなど造作も無い!

俺は身を翻し、二人に向って一歩足を踏み出す。そして…………

「ザフィーラ、行って来い!!」

「なんですとっ!?」

俺のあまりのキラーパスに慄くザッフィー。

いや、だってあの二人の仲裁に入るなんてマジ無理だし。喧嘩をしにあの中に入って行くならいくらでも覚悟キメられるが、ンな事すれば余計カオスった上にメンドくせー事になんのは目に見えてるからな。

「フェイト、待ってろ?すぐにこの勇ましい守護獣殿がアレを止めてくれっから」

「む、無茶を言わないで下さい!アレの中に飛び込めなどと………駆逐艦1隻でレ級に挑むようなものです!」

 

首をイヤイヤと横に何度も振って拒否を示すザフィーラ。

おいおい?それでも守護獣かよ。

 

「ハァ……そうかよ。いや、こりゃガッカリだ。ああ、ガッカリだ。守護獣の名が聞いて呆れるな」

「な、なにを……」

「口では俺を護るだの何だのぶっこいてんのに、いざ戦いを前にすると逃げ腰か?情けねぇな。なるほど、結局お前はただの愛玩動物だったわけか。まっ、それもいいんじゃね?戦いは他の立派な騎士に任せて、自分は後ろで丸まってりゃあよ?」

 

何とかザフィーラに仲裁役をやらせたく、俺はあからさまに軽く挑発してみた。それほど俺もあの中に飛び込みたくねーんだわ。命がいくつあっても足りやしねぇ。悪いがザッフィーには犠牲になってもらう。

 

「………いくら主の言葉でも、中には許容出来ない事もあります。訂正していただきたい。私は誇り高き騎士であり守護獣であり提督であり少女コミック愛好家!この牙と爪を持ってすれば、恐れるものなどこの世にありません!」

 

クククッ、容易くノりやがった!これだから犬っころは単純でいい。

んじゃ、最後の一押しっと。

 

「よくぞ言った!それでこそ俺の騎士、最上の守護獣!魂を奮わせろ!誇りを抱け!漢を魅せろ!さあ、目標は目の前だ!」

「応ッ!!」

 

勇ましく叫び声を上げるとザフィーラは獣形態から人型になり、夜天とババアに向かい力強く一歩を踏み出した。

頑張ってな~。

 

「さて、部屋出ようぜ」

「え゛っ……ザ、ザフィーラの雄姿を見届けないのですか?」

「どうでもいいし。おら、全員出るぞ。ここに居てもやることねぇしよ。夜天とババアも、一通りヤり合ったら気が収まるだろ。その時が来るまで俺たちゃ出てようぜ。行きてぇとこもあるし」

「一通りヤり合ったらって……じゃ、じゃあ何でハヤちゃんはザフィーラを向かわせたんですか?」

「あいつ、今まで見せ場が少なかったからよ。わざわざ作ってやったわけ。それに最近あいつ弛んでるしな」

 

ザフィーラ以外の奴らはバイトや家事以外の時間もなんか自己鍛錬的なモンしてる姿をよく見かけるが、あの犬に限っては皆無。PCや漫画本を手にしてる姿しか見てねー。あまつさえこん前なんて──

 

『主、どうすればよいのでしょう……最近シグナムが長門に、夜天が鳳翔さんに、シャマルが愛宕に、ヴィータが曙に、理が不知火に見えてしょうがないのです』

『実とゆずゆ、果たしてどちらが究極でどちらが至高の可愛さか……うぅむ、悩ましい』

 

──なんて事をほざいてやがった。

あん時はあいつに日本の娯楽を教えてやった事に本気で後悔したぜ。

 

「ンじゃ行きますか。おら、フェイトにアルフもさっさと行くぞ~」

 

そんな会話をしながら俺は騎士達、それからフェイトとアルフを連れ立ってこの喧嘩場を後にした。

 

「うおおおおおおおお!大和魂いざここに!!思春期少女の想いを乗せて!!鋼のくび────────アッーーーーーーー!?!?!?」

 

はぁ~、今日もタバコが美味ぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭上から凄まじい音が聞こえてくる中、俺たちは長い長い廊下を歩いている。

頭上の音は言うまでも無く夜天とババアの喧嘩によるもの。その音がずっと絶え間なく続いている事から、どうやらザフィーラは無残に散ったようだ。

 

そんな騒音をBGMに俺たちはあっち向いてホイやしりとりをしながら歩いてんだが、そんな中、ただ一人会話にすら参加せず、ちらちらと理の事を見続けている者がいた。フェイトだ。

いつからだったかは知らんが、それに気付いてからこの10分間フェイトを観察していたが、かなりの頻度で理に視線を投げていた。ジッと見続けているわけではないが、それでも5秒間隔で視線が前方と理を行ったり来たり。眼球が忙しなく動いてる様は見てて気持ち悪い事この上ねぇな。

(なにキョどってんだ、こいつ?)

これが理が男で、視線を送っているフェイトの頬が赤く染まっていれば『ああ、そういうこと』と合点もいくが、生憎と理はちんちくりんなドス黒幼女で、フェイトの頬は変わらず真っ白な純粋少女。

ふむ、さて、これはどう推理しよう?

フェイトが理を気に掛けているのは明白だが、ならばその理由はなんだろうか。

理。魔道生命体。女性型。幼女。身長体重は不明、たぶんフェイトと同じくらい。実年齢はまだ数週間。クールロリ。クレイジーロリ。残念。ガッカリ。生意気。カス。

この中になにかフェイトの気に掛る項目でもあるのだろうか?

(まさか単純に「死なないかな~」なんて事を思ってるとか?……いやいや、俺じゃあるまいし、フェイトがそんな事思うわけねぇか)

でも、だとしたら何で?

そう思っていた矢先、その視線を向けられていた当の本人である理から声があがった。

「先ほどから、いえ、詳しく言えば会った時から私の事を見つめていましたが何か?」

「え!?あ、その……」

 

まあ、見られてる本人が気づかない訳がないわな。それにしてもまさか会った時からだとは、いよいよもって訳が分からん。

 

「まさか私に惚れたのですか?レズビアン?」

 

え、ウソ、マジ?フェイトってそっちの気があったの?その歳で?いや、まあ、レズの良さは否定しねーけどよ……てか、むしろ見てる分には大好物だけどよ、それでもまさかフェイトがねぇ。もう数年もすれば飛び切りの美人になりそうな程の素材なのに、男から見れば勿体無ぇな。

 

と、一人思考が先走るが、まさかフェイトがそんな訳も無く。

 

「そ、そんなんじゃないです!………あの、れずびあんって何ですか?」

「うっ、なんて純粋無垢な瞳……やめて下さい!そんな目で私を見ないでください!」

 

純粋な子供心に充てられて慄き、眩しそうなモノから目を背けるような仕草をする理。

そりゃそうだよな~。見かけはフェイトと同年代でも、その心は邪悪で醜悪だからな~。

 

「……オホン、失礼。取り乱しました。兎も角、残念ですが、その想いはそうそうに絶つべきです。私の体も心も余すところ無く主のモノなのですから。むしろ足りないくらいです」

「キモイ事言ってんじゃねーよ。心も体もいるか」

「ツれないですね。真実の弁を一蹴されるのは、いくら私でも傷つきます?涙の大洪水です」

「ハッ、なに言ってんだか。テメーの体も心もテメーだけのモンだろ、普通に考えて。ドラマ見すぎ。そういう言い回し、うぜぇ」

 

と言っても、それは理が言ったからであって、もし仮に夜天やシグナムに言われたなら俺はテンションMAXになること間違いなし!

 

「夢のない主ですね」

「バンザイ現実だ。夢とか未来だけ見て生きててもつまらん」

「先を見ないといつか痛い目見ますよ?」

「未来があるから今を生きてるんじゃねぇ。今、俺の生きてる現実の先で勝手に未来が待ってんだ。勝手に待ってるモンにいちいち関心持つか。好きなだけ勝手に待たせる。それで何かしてこようもんなら、万倍にして返してやるだけだ」

「意味が分かりませんよ」

「ノリで理解しろ。あ~ゆ~OK?」

「あいあむOK」

「お前ら2人で変なコントしてんじゃねーよ!てか、話の内容飛びすぎだ!」

 

と、ヴィータから注意が入った事もあり、そろそろおふざけは御終いにしておこう。ちなみにどの辺からふざけていたのかというと、理の「まさか私に惚れた~」あたりから。まっ、要は最初からだな。

俺と理ハイタッチ。

 

「「イエ~イ」」

「仲良さげにしてんじゃねーよ!!」

 

さて、そろそろホントに真面目モードにならんとロリータが噛み付いてきそうなので。

 

「で、フェイトよぉ。ホントの所は何で理の事見てたんだ?ほら、怒らないから言ってみ?」

 

と、漸く本題に入ろうとした時、今度はシグナムから横槍が入った。

 

「………主隼、テスタロッサには妙に優しくありませんか?」

 

一向に話が進まね~。てか何その恨めしそうな顔。なんか悪いもんでも食ったかよ?

 

「あん?そうか?そうでもねーだろ。てか俺は万人に優しい!ザ・博愛!」

「ヴィータちゃんと理ちゃんには?」

「108回ほど死んでくれ」

「上等だコラァ!」

「109回ほど殺してあげましょうか?」

 

さて、そろそろこんなコントも本当に終いにしないとマジで終わりが来ねぇな。

取り合えず、フェイトに関してはそうだな……まぁ確かに優しいのかもしんねーな。とりわけ格別の優しさを見せてるつもりはねーけど、ロリーズを相手にしてる時のような憎悪もないし。

 

「俺ぁ本来ガキは好きだかんな。特にガキらしいガキが。その点でフェイトは殆ど文句の付け所がねぇ。今日日こんなガキは珍しいからよ、ついつい可愛がりたくなるもんだ」

「あぅ………」

 

そうそう、そういう素直に照れる所が特に。ロリーズじゃ天地がひっくり返っても期待できない反応だ。

俺はフェイトの頭をわしゃわしゃと撫で繰り回す。

 

「いいか、どうかそのまま無垢な心で育っていくんだぞ?まかり間違ってもあんな性格にはなるなよ?」

 

『あんな』呼ばわりされたロリーズは怒り心頭といった様子で今にも殴りかかってきそうだ。そんなだからお前らはダメなんだよ。腐れなんだよ。

もっとも、ロリーズがフェイトのように良い子になったらなったでキモイんだが。

 

「そして、性格もそうだが外見も今のまま、いや今まで以上に綺麗になるんだぞ。メロンを実らせれば尚良し!さらに可愛い女友達をいっぱい作って、そして10年後くらいに俺の為に合コンを開いてくれ!!!」

 

欲望駄々漏れの発言に対し、フェイトはあまりよく分かっていない様子。

まあ、今はそれでいい。いつかは絶対に分かる時が来るからな。その時になって改めて頼もう。『合コンを開いてくれ!』と。メンバーに関してならフェイトなら大丈夫という自信がある。将来、フェイトは絶対に美人になっている事だろう。ならば、自ずと周りに集まる友達も美人になってくるはず!類は智を呼ぶっていうし。

………え?それなら将来美人確定のフェイト自身に今のうちに唾をつけとけ?青田買いだって?

そりゃねーよ。

ガキの頃から知ってる奴とどうこうなるってのはさ………なんか萎える。目の保養くらいが精々だ。

 

また話が大きく逸れてしまった。

 

俺は一つ咳払いをすると、再度ガキに質問した。今度は誰からも横槍を入れられることなくそれが通り、漸くフェイトからの返答が来たのだった。

 

「えっと、その……理があの子に似てるから」

あの子?なのはの事か?………ああ、ね。そういやそれについては何も言ってなかったわな。魔導生命体って説明しかしてなかったし。そうだよな、なのはの事知ってんなら当然その疑問は湧くよな。中身は絶望的に似てないが外見はクリソツだかんな。

そんな絶望ロリだが、フェイトの言葉で少し憮然な感じの顔つきになった。いや、まあ、傍目に見たら殆ど変化したように見えねーけどよ、その辺は付き合いの長さと濃さで手に取るように分かるようになった。悲しい事にな。

まあ、それは兎も角。

理のやつ、あんまなのはの事好きじゃないっぽいんだよなぁ。以前その辺の事聞いた時は「さて、どうでしょうか。……そうですね、もしかしたらある種の同属嫌悪的な物があるかもしれません」なんて言ってた。「同属嫌悪?おいおい、お前、なのはと同属のつもり?あっちの方が万倍は可愛いぞ」って言葉を返したのを覚えている。もちろん、その後喧嘩になったのは言うまでも無い。

「誰が何時名で呼ぶ事を許可しました?馴れ馴れしい方ですね。身の程を弁えて下さい。私の名を呼んでいいのは主だけです。……まあ、他はギリ許容範囲で騎士の面々ですね」

「お前はどこまで上から目線なんだよ」

どうやらなのはと似てると言われた事ではなく、名を呼ばれたのが気に食わなかったらしい。ただ、理の言動を鑑みるにそこまでじゃないようだ。本気で嫌な時の理の口の悪さは苛烈で容赦ねぇからな。ともすれば手の方が先に出る時もある。

しかし、まあ、これも身内である俺だから分かるのであって、他の奴は額面通りに受け取ってしまうだろう。

例に漏れずフェイトも、

「ご、ごめんなさい……」

なんて言ってしょんぼり顔だ。見ろ、後ろで保護者代わりの獣耳の姉ちゃんがスゲェ睨んでんじゃねーか。

しゃあねーな、ガキの面倒は大人が見るもんだ。

「フェイト、この馬鹿の言葉は真に受けるな。一種の挨拶だと思っとけ。でだ、このガキとなのはとの関係だけどよ、似てんのは当然なのよ。理含めコイツラが人間じゃねーてのは言ったよな?加えて、全員オリジナルがおり、コイツラはそれを元にしたコピー体ってわけだ。分かるかコピーって?分からなきゃクローンでもいいし、偽モンと解釈してもOK」

「え、そうなの!?」

驚いた顔で全員の顔を見渡すフェイトとアルフ。

それに対し別段臆することなく、普通に『ああ、そうだが?』といった様子のコピー体面々。シャマルなど「あはは~」と朗らかに笑っている。

「あ、あの、そういうのって………」

「『気にならないのか』だろ?そうだよな、普通は気にするもんらしい。事実、こいつらも当初は悩んでたしな。ハァ………なんてぇか、ホント馬鹿じゃね?って話だよ。よく漫画や映画とかでよ、クローンとかコピーとかってそういうキャラが葛藤したりすんじゃん?ほら、「なんで自分は普通の人間じゃないんだ!」的に?ハッ、下らねー。人間じゃなかったら何だってんだよ。別にいいじゃんよなぁ、コピーでも。世界にゃどれだけ人間以外の動物がいると思ってんだ?なら、それならそれで、そういう種族だと思っちまえって話だ。だってぇのにウザったい自虐しやがって。いっそ死ねよ」

 

世の中にゃあよ、人に生まれても『普通』の人扱いされないやつも居んだぜ?中でもキツイのはあれだ、奇形児とか顔に火傷とかの傷跡を持ってる奴ら。そんな奴等を「可哀相」とか言ってるカスがいるけどよ、あれ、ぜってぇ本心じゃねーよな。

偏見、差別、建前────それらは人が生きていく上で絶対必要な要素だろうけど、もう少し正直に人は生きていいと思う。思うが侭に。我がままに。

まあ、それが無理なのが現実なんだけどよ。あまり思いの丈をぶっちゃけすぎると、今度は自分が社会からハブられる事になる。だから人は偽善を纏う。

ある種、処世術だな。

「それで、なんだ、コピーなのを気にする?人間じゃないのが気になる?はん!ケツの穴のちっせぇ事ぬかしてんじゃねーよ。そういう奴ぁじゃあよ、身的・知的障害者の目の前で『五体満足で健康体、精神面も至って正常、見た目人間と変わりません。でも、人間じゃないから人間になりたいです』って言ってみ。どれだけ自分がちっせーか分かっから」

 

と、そこまで言って、なんか思いのほか多弁しちまった事に気付いた。しかも、話の内容が内容だったもんだから、さっきまでの朗らかな空気はどこへやら。皆のテンションがガタ落ちしちまった。あのロリーズでさえ、なんか気落ちしてるし。

こ、こりゃあ流石に俺も後味悪ぃな。

「ま、まあ、あれだ。前からも言ってるように、要は『テメェはテメェ』って事だ。他の誰でもなく、他の何にでもなく、ただ一人の自分として生きたいように生きりゃいいんだよ。そうやって胸張ってりゃ世は全て事も無し。てか、寧ろこんな世などクソ喰らえってな。葛藤とか悩む暇があるなら遊び倒そうぜ」

そう前向きに締めくくってみたものの、皆の顔は以前晴れない。

参ったね、こりゃ。そこまで真剣に考えることでもねぇのに。そもそも、これは俺の持論で、しかもかなり穿った理論だかんな。全てを全て真面目に受け止めてもらっても困る。

 

………よし、ここは無理やりイイ話だー的な展開に持っていこう。

「あー……であるけれども、そう簡単には人は強くなれねーわな。テメェはテメェっつっても、世界は勿論テメェだけで成り立ってる訳じゃねーしよ。で、だ。そういう時どうすればいいか、自分一人の強さで生きてーように生きられない時はどうすればいいか。フェイト、分かっか?」

「え?えっと………」

「なに、難しく考えんな。思いついたこと言ってみ?」

フェイトは先ほどの難しい思案顔から、小首をちょこんと傾げた可愛い思案顔になった。そして間もなく、おずおずと答えた。

「他の人と一緒に頑張る?」

「おっ、正~解~!その考え、普通なら中々スっと出ないぜ?えらいえらい」

俺が褒美としてフェイトの頭をガシガシと撫でつけてると、照れくさそうに顔を赤くして俯く。

言葉だけではなく、こんな肉体的接触での温かみある行いは重要なのだ。褒める時や、労をねぎらう時はな。その相手が子供の場合は尚更よ?

「テメェが強くなるのが一番だけどよ、それでも足りねぇなら他から持ってくりゃいいだけの話だ。ただな、そこで大事な事が一つある」

「大事な事?」

「ああ。それはな、相手が信頼または信用できる人物だって事だ。俺ぁ使えるモンは使う主義だけどよ、それでもここぞという時はやっぱそこに重きを置くな」

「信頼………隼もそんな人がいるの?」

そのフェイトからの質問に俺は力強く首を縦に振った。

「そりゃあ俺だって無敵じゃねぇ。まあ、一時期は『俺は何でも出来る!』なんて調子ぶっこいてた時期もあったけどよ。それでも、そんな頃でも傍には信頼出来る奴ら─────ダチがいたかんな」

「ダチ?」

「ああ、友達な。それも心底信頼できる奴なら、何年経っても、どれだけの時間会わなくてもその繋がりは絶対薄くはならん」

その証拠に、ついこの間の旅費にその頃のダチから借りた分もあるし。

今の御時世、何年も会ってない奴なんかに何万も金が貸せる訳がねーってのが普通だろうけど、金の切れ目が縁の切れ目とは言うけれど、俺とダチの築いた信頼関係はそんな軟なモンじゃない。快く貸してくれ………あー、いや、ぶつぶつ文句は言ってたな。

 

「ダチは一生の財産とも言うし……………ンだよ、お前ら」

ふと気付けば、フェイトとアルフを除いた奴ら、つまりは騎士共が何故か不満げで不安げなご様子。

なんだ?なんか、俺変な事言った?まあ、ちょっと臭いかな~とは自分でも思ってっけどよ。でも、それもこれから未来あるフェイトへの後学の為にだな………

「私達は………」

シグナムが不安げな顔で言葉を発した。

「私達は、どうなのでしょうか?」

「あん?なにが?」

「ですから、その……主からの御信頼の程は……」

え、なにそれ?もしかして、その不満や不安顔ってのはあれか、騎士として主には一番に信頼を寄せられたいとかそんな感じの……ある種嫉妬してんの?俺のダチ公に?

こいつら、どんだけ騎士としての誇りが高ェんだよ。

まっ、それは兎も角として。

こいつらに対する信頼ねぇ……ぶっちゃけ言えば、そんなになんだよな~。少なくともダチの方が信頼度は上だ。付き合ってきた年期が違うしよ。

(だが、しかし!)

俺はシグナムの、そのたわわに実ったモノをさりげなく見る。

俺はシャマルの、その慎ましくもつい手が伸びそうになるモノをチラ見する。

俺は夜天の、あの儚くも完成されたモノを思い返す。

ロリーズはどうでもいい。

───────ここに結果は見えた。見えていた。

「ハッ!何を今更。お前ら(のお胸様)を信頼しなくて何を信頼する!お前ら(のお尻様)を大切に思わなくて何を大切にする!」

野郎同士の友情は確かに尊いものだ。だが、シグナムたちの『美乳』『美尻』はその尚上をいく。国宝と呼ばれて然るべきモノだ!!後世に残すべき財産だ!

「そもそも、じゃなきゃ誰が好き好んでうちに住まわせるかよ。お前たち(のような体の持ち主)じゃなかったら、すぐに追い出してるっつうの」

「あ、主、そこまで私達の事を……っ!」

 

感動で目をキラキラさせているシグナム他騎士たち。単純って幸せな事なんだな~と今更ながら実感。

………って、また話が逸れてんじゃねーか!

 

「兎も角、いいかフェイト?ダチだよ、ダチ。特にお前くらいの歳なら必要不可欠!分かるか?」

「え、ええっと……」

「今は一人もいねーかも知んねぇけどよ、まっ、心配すんな。お前くらい性格良し、見た目良しならこれから嫌でも出来てくっから……………いや、待てよ」

 

よく考えればフェイトだけじゃねーじゃんよ。フェイトくらいの年頃で、ダチが一人もいねぇのって。

俺はフェイトから視線を横にずらし、ある2人を見つめる。

 

「何ですか?」

「ンだよ?」

 

言わずもがな、我が騎士ロリーズのお二方。

俺は訝しむ2人の手を取ると、フェイトに向かって差し出す。

 

「丁度イイ。ほらフェイト、喜べ。同年代の友達1号・2号だ」

 

それを聞いてフェイトは目を見開き、「え、あの」とか言って狼狽した。片や俺の独断で友達候補にされたロリーズは意味が分からないといった顔。

「はァ?!」

「何故私が………」

「お前らもダチいねぇだろうが。思えばさっきフェイトに言った言葉、まんまお前達にも当てはまるからな。なら、これはいい機会だ。ほら、お互い握手握手」

 

本来ダチになるためにこんな形式ばった握手はもとより「友達になりましょう」なんて言葉もいらねーんだろうけど、まあ、お互い初心者だ。こうやって形作るやり方のほうが分かりやすいだろう。

 

そんな俺の優しい心使いだが、しかしロリーズの反応は薄い。

 

「あたしはシグナムたち仲間がいるし、それにお、お前も居るし……だから別にダチなんて─────」

 

ふいにヴィータの言葉が途切れ、その表情は驚きになった。もう一方のロリも顔には出てないが戸惑っている様子。

その理由は、フェイトが2人に近寄り手を差し出しかたら。

 

「と、友達に……」

「「………………」」

「その、良かったら、二人と友達になりたいです」

 

───俺は確信したね。

これから先、どれだけ世間の波に揉まれても、フェイトは捻くれる事も無く素直に育っていくだろうって。中身も外見も美しくなるだろうって。勿体ねぇなー。もう十年くらい遅く出会ってりゃ、たぶん猛アタックしてたんだけどよぉ……………チキンな童貞に結果が付いて来るかは兎も角として!

 

「ぷははは!こりゃフェイトの方がよっぽど大人だな。子供らしい素直さを持ったよ!で、ヴィータに理よぉ、フェイトにここまで言わせといて、まさか誇り高き騎士様が捻くれた断わりや強情なだんまり決め込むなんてしねーよな?お前らの器の見せ所だぜ?」

「………はン!ジョートーだよ!」

「………まぁ、聞いた限り友達というものは作っておいて損はありませんね」

 

順にガシっと手を取り改めてお互い名乗りあう3人。フェイトは勿論の事、あのクソロリーズも心なしか照れている。そして、そんな光景を見て他騎士たちは微笑みを浮かべ、アルフは感動で涙ぐんでいた。

いいね~、微笑ましいね~。やっぱガキの在り方はこうでなくっちゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、紆余曲折ってか、女の会話みたいに話が飛び飛びで訳分かんねーって感じだったが、なんとか良い所に着地してくれた。イイ話だー、てな。

 

ただ、忘れちゃなんねー今の状況。

 

俺たちは夜天、プレシア、今は亡きザッフィーのいる部屋から出て通路を歩いている途中だったわけよ。その間で上記のような会話が繰り広げられてのであって、会話をするために歩いていた訳じゃないんだ。

つまりそう、俺たちにはちゃんと目的地があったわけよ。

それがどこなのかは説明する必要は無い。てか、フェイトたち3人が『友達宣言』してる間に丁度着いたんよ。

 

「さて、友情を育んでるとこ悪ぃけどさ、目的地に到着しちまったんで一端休題な。ただ、最後にフェイト、ここに入る前に一つ質問がある」

 

俺たちの目の前には『裏ボスでも居そうな』扉が一つ。

 

「お前さ、姉妹っている?」

 

この返答次第によってこれからの展開が変わってくるが、さて。ただ、どちらにしろ、あまり面白い展開にはなんねーだろうなぁ。

 

ハァ……、これが最後の面倒事であってほしい。

 

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