さて、プレシアが暴走し、『聞け、これが衝撃の真実だ』とばかりにぶっちゃけた事実──フェイトはアリシアというプレシアの実子のクローン体、とのこと。
一見すれば(この場合は一聞き?)、なるほど、それはとんでもねぇ事に聞こえる。フェイトが驚きすぎて口を阿呆の様におっ広げ、硬直しちまうのも無理ねーのかもしんねぇ。
けどよ?よーく考えりゃ、そりゃあ別段ぶったまげる程の事じゃなくね?
クローン………ああ、確かに聞こえはすげぇさ。でもよ、そんなもんその辺にゴロゴロしてんぞ?ほら、なんつったっけ、あのちっこい単細胞生物。あれの細胞分裂だってようはクローンって事だろ?それにどっかで聞いたけど、あの竹林も一種のクローンらしいし。あとさ、ずっと前テレビでネコだか豚だか羊だかのクローンに成功したっつう話も聞いたぜ?たぶん、他にも探せばゴロゴロとあんだろうよ。
確かによ、人間のクローンなんて前例はない。そして、それがまさか自分だなんて言われた日にゃあ驚きもするだろうさ。
だがな、だからなんだ?って話なんだよ。
クローンにはオリジナルがいるのは当たり前。けど、オリジナル=クローンじゃねぇ。これがもし夜天たちのような『コピー体』だったら=で結んでもいい。心は兎も角、身体はオリジナルと寸分違わないだろう。けれど、『クローン体』は違う。例えば、先に挙げた猫のクローン。そのオリジナルとクローン体を比較した結果、若干の違いが出てきたらしい。詳しくは知らんが、毛とか。
そして、決定的なのが、人間のクローンを作った場合、なんと指紋はオリジナルと同一しねぇんだとさ。個人その人を最も特定させやすい要素の一つであろう指紋、それがオリジナルとクローンとでは違うっつう事ぁこれはもう別人って事だろ。実際マジに違うのかは知んねーけど。
ともあれ、別人。
そう、アリシアってやつとフェイトは別人なんだよ。どこぞにもよく居るお節介な近所のおばさんからも「あら可愛い!よく似てるわね~。双子?」程度の言葉で流してもらえるだろうさ。
結局その程度の、取り立てて騒ぐような事じゃない。一瞬の驚きはあるだろうが、ずっと引きずるような事じゃない。もし仮にこの世に俺にもオリジナルがいて、俺がクローン体だったとしても、俺は俺であってオリジナルなど関係ないと一蹴できる。当然だろう?オリジナルの自分がいたからって、クローンの自分になんの関係がある?「オリジナル?ふ~ん。あ、そう。で、だから?」ってな。まずは、自分で自分を認めてやんなきゃよ。…………………例外的に、もし俺のオリジナルが非童貞だった場合は、そん時は全力全開でぶち殺してやっけどな!
と、まあ、これが俺の意見なんだが、知っての通り、俺の思考は一般のそれから少しずれているらしい。周りの奴等に言わせれば、俺は『自己中』『独善者』『自分至上主義』『ソシオパス野郎』『暴走機関車トーマス』『紳士の皮を無理やり被っている変態』『鬼畜ロリコン』『ヘタレ童貞』だそうだ。………………最後の3つは誰が言ったんだっけか?今度殺しとかなきゃな。
兎も角、だから、今回の様なプライベートでデリケートな案件が挙がった場合、普通の思考回路を持つ一般人ならきっとフェイトを同情するんだろうよ。そして、プレシアには怒りを抱くだろうさ。そうだ。人間ってのはか弱い者には優しく、非道な者には厳しい。特に今のババアを普通の感性を持って第3者の視点で見れば、極悪非道もいいとこだ。今も何か言ってるようだが、さっきまでのヒス気味に叫んでいる内容を抜粋して要約すると、
『アリシアを生き返らせようとして出来たのは駄作!なのに、顔と声だけがアリシアと同じだなんて……ああ、怖気が奔る!その顔で笑っていいのは、その声を響かせていいのはアリシアだけ!失敗作、廃棄品、模造、紛い物、汚物、無価値、寄生虫、塵、ゴミ、バーカ、バーカ、バーカ!』
一部不適切な言葉ならびにアレンジが加わってしまったが、まあ、おおよそこんな感じ。
な?ひでぇ事言ってると思うだろ?でもよ、俺はそれを聞いてもフェイトに同情心なんて湧かねぇし、ババアに対しての怒りも出て来ねぇのよ。いや、まあ、流石にババアが俺の目の前でフェイトに手まで出そうもんならこっちも黙っちゃいねーけど、こん程度の罵詈雑言くらいならなぁ……お好きなだけどうぞ?
それによぉ、ババアの奴、俺の見る限りじゃフェイトに向ける言葉──────本気じゃない。
あ、いや、それじゃちっとばかし語弊があんな。本気は本気なんだろうよ?けど、なんてぇか………中実がない。
言ってる事と、やってる事が矛盾している。
ん?どう矛盾してっかって?それはよぉ────────あ、ちょい待ち。煙草煙草。
「…………げっ、ライターの石がなくなってやがんじゃねーか!?ちっ、これだから安物は!シグナム、火ぃ出してくれや」
「お前、フェイトがあんななってんのに何でお気楽極楽マイペースなんだよ!?シグナムも言うとおりに火出すな!」
「いいよな、その火。魔力変換資質つったっけ?俺もそんな便利な超能力欲しかった。出来れば雷。でよ、刀持ってこう言うんだよ。『人呼んで──────紫電掌』てな。やっべ、かっけくね?あ、でも俺の場合、刀じゃなくて杖か本になんな……シまんねーなぁ」
「き・い・て・ん・の・か、おのれは~~!悠長に座ってんじゃねぇよ!」
相変わらずうるせークズロリだな。クラールヴィントでその口縫い付けんぞ。
「ぷはああぁぁぁ………あー、うめ。で、あんだって?」
「けほっ!んのっ………だから!フェイトだよフェイト!見て、見ろ!」
「見て」でヴィータの両手で顔を挟まれ、「見ろ」で思いっきりフェイトがいる方角へと頭を向けさせられた。
てか、首が今グギッつったぞ!?グギッて!
「ぬおお!?なにしてくれとんじゃボケ!」
「っせぇ!ンな事よりちゃんと見ろ!」
等比社3倍くらいの凶悪な目つきで睨みつけてくるヴィータ。そのあまりの怖さと真剣さについつい俺もその言葉に素直に従っちまった。
まあ、従う前に髪の毛を一房ばかり力の限り鷲掴みしてやったが。
さて、ヴィータの「痛゛!?」「なにすんだコラァ!」という言葉をBGMに件のフェイトに目を向けてみたが…………。
「うわぁお。ちょっと見ねぇ内に(煙草3本と上記のような思考を駆け巡らせている内に)予想以上にひでぇ事になっちゃってんな」
俺的にはプレシアのアレはちょっせぇ罵詈雑言くらいに思ってたんだけど、どうやらフェイトは違ったらしく。
精神崩壊モード、突入!て感じ?
眼に生気ってか覇気ってか光がねぇし、そんな眼から一筋だけ涙流してるモンだからある種ホラーだ。参ったね、こりゃ。
「ど、どうにかしてやれよ!あれじゃあフェイトが………」
「俺も適当なとこで割って入ろうとは思ってたんだが………いやぁ~、ババアのドSさとフェイトのピュアハートを忘れてたわ」
「いいから、なら今すぐ早く……!」
心配顔で少し慌てているヴィータ。
コイツのこういう様子は中々珍しい。基本、なんだかんだ言ってコイツも主至上主義だかんな。だから、他人の事でここまで素をみせるのは…………ふぅん、これも友達効果か?だったら善哉、善哉。
対して、もう一人のフェイトの友達であるはずのクールロリはどこまでもクールなようで、特にフェイトを按じるような発言はない。…………ただ、俺の気のせいでなければ、ババアに向って尋常じゃない程の殺気を飛ばしているような?
しかし、だったら。
「俺に頼むより、てめぇらで止めればいいんじゃね?」
それに答えたのは、こちらも難しい顔をしているシグナム、シャマル、理。
「……力で止めるには造作ありませんが、それは一時の凌ぎにすぎません」
「そして、私達じゃあその凌ぎの時しか与えられません。テスタロッサちゃんを救ってあげられません」
「なにせこちらはプログラムでコピー体ですからね。何を言った所で、同類相憐れむ、という形になるかと」
そして、4人から期待の視線が注がれる。さらに心の声まで聞こえてきそうだ。『私達を受け入れてくれた心を持って、フェイトを救ってくれ』とか何とかそんな感じで。
正直、勘弁して欲しい。いいじゃんよ、力で解決してさ。それで一切合財御破算が一番楽ちんだ。てか俺の本分はそっちだし。なのに『救う』とか、いやいや無理ですから。そんな大層な事出来る訳ねーじゃん。
「そういやアルフはどうした?あのフェイトLOVEがえらい大人しいじゃねーか」
ふと気付いた。
アルフならイの一番にプレシアに突っかかって行きそうなものを、何故か声すら聞こえて来ねぇぞ?
「ああ、あの馬鹿犬ですか。キャンキャン吠えて猪突猛進して行きそうだったんで、ガツンと眠ってもらいました。今はあそこに」
「ガツン?」
理の指差す方向に眼を向ける。そこにはうつ伏せで大の字になって眠っているモノが一匹。後頭部にはギャグマンガに出てきそうなタンコブが。
なるほど、『ガツン』ね。
しかし、さて、となると間に割って入るのはいよいよ持って俺しか居ない。めんどくせぇが、やんねぇと話が進まねぇので仕方が無い。あとでプレシアの奴に仲裁料もせしめなきゃな。
「はいはい、ちょっとごめんよ~」
パンパンと手を叩きながらババアとフェイトの間に入る俺。それにやぶ睨みで返すババアと無反応なフェイト。
ババアの反応は予想通りなので兎も角、こりゃあフェイトは相当重傷だな。先にフェイトの方から当たるか。いつまでもこんな痛々しいガキの姿なんて見たくねぇし。
俺はまずフェイトに近づき、咥えていたタバコをそのままフェイトの口に咥えさせた。脱力してたが、下顎を押さえることで無理やり。
「───っ!?けほけほ……はや、ぶさ」
「よう、目ぇ覚めたかよ。どうだ現実の味は?美味ぇだろ」
フェイトの口元からタバコを取り上げ、また自分で咥え直す。
ああ、やっぱ美味ぇな。これと酒とツマミと綺麗な姉ちゃんがあれば世は事もなし。
「あ、今のは特別だかんな?魔法世界ではどうか知んねぇけど、地球じゃタバコは……ええっと、確か20歳くらいになってからだかんよ。少なくとも法律上は」
「はや、ぶさ……わたし、わたし………」
「おう、どうしたよ。フェイト・クローン・テスタロッサ」
「っ!!」
ぶわっと涙を溢れさすフェイト。
あー………ちっとばかし性急で直球過ぎたようだ。
「おいおい、そんなクローンってだけでショック受けんなよ。いいじゃんか、クローンでも。今を生きてんならよ?」
「でも、でも……私は、人間じゃ……」
ハァ、どいつもこいつも結局そこかよ。てか、何で俺の周りでこの手の問題が多発すんだよ。もう同じような説明すんのもめんどくせぇ。
まあ、けど、投げやりには出来ねぇよなー。まだこいつはガキだし。
「人間じゃないからなんだよ。まさか、オリジナルがいるからクローンの自分は生きてる意味ねぇとかそういう事も思っちまうわけ?または何で生まれてきたんだろう的な?」
「……………」
「ちっ!ガキじゃなかったらぶん殴ってるとこだけど………」
デコピンで済ませてやる。
「ンじゃ質問すっけどよぉ。例えば、クローンだけど母親大好き天然純粋超可愛なガキと、人を快楽で殺したり幼児誘拐してチョメチョメする人間、どっちが生きてる価値があると思う?」
「な、なにを……」
「断然、前者だろ?つまりよ、人間とかクローンとか関係なく、生きてる価値ってのが大事なんだよ。で、その価値を高めるには『テメエはテメエだ』つって胸張って生きる事だ。まあ、自分は自分つって人を殺しちゃあダメだけどよ?」
「……でも、私にはその価値がない。クローンだから自分は自分じゃなくて、人形で、母さんに嫌われて……人間じゃないから、隼にも気味悪がられて……っ」
いつ、どこで俺がフェイトを気味悪がったよ?てか、今の俺の話聞いてた?それにこの部屋に入る前にも同じような話したよな?覚えてねーの?あーあー、泣くな泣くな。………ダメだこいつ、思った以上に相当にヘコんでやがる。まあ言うてガキだし、しゃーねーか?
ハァ、言葉で言いくるめるのって苦手なんだけどなぁ。拳での解決が一番楽で面白いし。
俺は短くなったタバコの火を新しく出したタバコに移し、ウンコ座りして下からフェイトを見上げた。
「この俺が人種差別するとでも思ってんのか?キモイとかキショイとかは普通に言うけどよ、だからって接し方までは変わんねぇぜ?………まあ、野郎とかブサイクには優しくねぇがよ。で、なんだって?気味悪がる?被害妄想ぶっこいてんじゃねーよ。芋虫人間でもない限り俺が気味悪がるかよ。世の中にゃあな、うちの奴らみたいな魔導生命体なんてもんも居るし、お前んとこの獣っ娘なんてもんもいんだぞ?なのに今更クローンとか言われてもなぁ。ぶっちゃけ、ホントにだから何?見かけよければ全て良しだ!だからお前は十二分に良し」
「───」
ンだよ、そんな目ぇパチクリさせて。なんかもっといい反応しろよ。てか、シグナムらも俺に丸投げしといて呑気に笑ってんじゃねぇぞコラ。
「なんだ、もしかしてまだ不安で不満なんかよ?俺が肯定してやってんのに満足しねーとか………ああ、やっぱババアの肯定もいんのか?それだったら心配すんなや。あいつもお前の事好きだから」
「─────え?」
まさか、という表情で大いに驚いているフェイト。
まあ、そりゃそうだよな。あれだけの事やられて、さらにはオリジナルの代わり、ゴミ発言かまされたんだ。どうやったって簡単にゃあ信じらんねーよなぁ。
………そして、勿論。
俺のそんな発言を聞いて黙っていられない奴がもう一人。「はあ?こいつ何言ってんの?ボケたの?」てな顔でこちらを睨みつけている四十路(くらい?)の淑女が一人。
「死にたいの?」
「いきなりトばして来んなぁ。死にたいのって、見た目お前の方が今にもポックリだろうが」
「うるさい。いいから答えなさい。今すぐ死ぬか、それとも前言撤回するか」
「あー、はいはい。お前はフェイトが好き好き大好き超ラブ一万年と二千年前からあ・い・し・て・るぅ~。八千年過ぎた頃からもっと恋しくなった~」
「誰が前言強化しろって言ったの!!」
「ところで一万二千年と八千年の間の数千年間の空白期間は冷めてたのかな?マンネリ?まさか浮気か!?」
「知るか!」
アリシアの入った容器に縋りながらやっと立ってるような奴のくせに、相変わらず口だけは達者だなぁ。
ともあれ、だ。
「ほら見ろフェイト。ああやってムキになんのはよ、裏返って好きって事なんだよ。イヤよイヤよも好きの内ってな」
「戯れるな!」
おお怖っ。あまりの声量にフェイトが小動物みたいに『ビクッ』ってなったじゃんよ。
「別に戯れちゃねーよ。それに、口から出任せでもねーし、慰めで適当ぶっこいてる訳でもねーぞ?」
当てずっぽうと偏見ではあるがよ?まっ、一応論拠してやろうか。さっき言いかけた『矛盾』てのがこれなんだがね。
「だったらお前よぉ、なんでまだフェイトを生かしてんだ?」
「………なに?」
そう、これがまずおかしい。
「だから。アリシアを生き返らせようとして出来たのは出来損ないのフェイトなんだろう?一見して同じなのに全然違うフェイトが胸糞悪ぃんだろ?ゴミとかなんとか言っといて、それなのに何で捨てない?なんで殺さない?お前の性格ならよ、まずそうすんじゃね?俺と違って『殺す』ってのに抵抗なんてないようだしな」
今まで俺にやってきたあの攻撃の数々を見るに、こいつは絶対にナニカを殺す事に躊躇いはないはず。仮に殺さないまでも、捨てるのは辞さないだろう。そしてこいつのフェイトに向ける言葉をそのまま信じるなら、フェイトをそうしない理由はない。もし、俺にそんな嫌いな奴が居て、さらに殺す覚悟もあったなら100%ぶっ殺してる。
「ふん。生かしているのは、ただ利用する為。今回のジュエルシードも────」
「それは違ぇな」
「………………」
「嫌な事に俺とお前はちっとばかし似てる。そして、俺だったらそんなクソむかつく奴は一時でさえ眼中に入れたくねぇ。すぐぶっ殺す。それに、利用する?だったら、別にフェイトじゃなくてもいいだろ。アルフみたいな使い魔でも造ればいいし、ジュエルシード集めだってどこぞの便利屋やら何でも屋に金積んで頼みゃあいい話だろ?魔法世界にだってそんくらいあんだろうし。なのに、お前はあえてフェイトを生かして使ってる。いや、それも違うか………フェイトを生かしたいから、あえて使ってる」
つまり素直になれねーってこったな。
ババアがまさかツンデレ属性まで持ち合わせているとは……ますますストライク!ちなみに俺のストライクゾーンはツンデレ・クーデレ・ヤンデレなんでもOK!ボール無し!アウトはガキと不細工!
「だいたい、どだい無理な話なんだよな。自分が大好きだった、自分を大好きで居てくれた子供と見た目同じ奴を嫌いになるなんて。中身が違うからって完全に別人だって考えられるのは、フィクションの世界に住むご都合思考を持つキャラだけ。普通、割り切れる訳がねーのよ。しかもフェイトはこんな可愛い奴なんだし」
「私は違う!アリシアとフェイトを別人と做し、その人形を心底憎んでる!」
「『憎い』と『嫌い』はイコールじゃ結ばれねーよ?例えば、俺だってあのクソ生意気なロリーズが腸が煮えくり返る程憎たらしい。いっそ死ねと思わなくもない程によぉ」
ついでにロリーズに向け親指だけを下に突き出した状態で拳を向ける。所謂『地獄に落ちろ』ポーズ。
「テメェをいっそ三途の川に流してやろうかぁぁああ!」
「お腹の中が煮えるのはさぞ苦痛でしょう。では、その煮えている腸を搔き出して差し上げましょうか?」
「────でも、嫌いじゃない………ああ、嫌いじゃねーんだわ」
「「……………」」
それは出会ったときからそうだった。なぜだか、嫌いにはなれない。本当に憎たらしいが、なぜか。勿論、ロリーズのみならずシグナムたちもそう…………なんだから、そんな『私は嫌いなのですか?』って感じの切なそうな目を向けんなや。
「表面じゃどうこう言おうとも心の中じゃ別人と見做そうとして、けどお前もやっぱ出来なかったんだよ。フェイトとアリシアを重ね、そしてフェイトを好きになった。当然の帰結だな。大好きな我が子を重ねるって事は好きになった、好きになりたいって事だ。男で独り身の俺にゃあ分かんねーけど、それが『母性』ってもんだろ?けど、その母性が大きくなる前に表面の偽りの憎しみが凝り固まっちまった」
愛と憎しみが同居し、鬩ぎ合った結果、折衷案をとった。
自分の愛は全て亡き我が子に。我が子の写し身である子には憎しみを。
殺すなんて選択は出来なかった。アリシアとフェイトを重ねたんだ、それつまりフェイトを殺すという事はアリシアを殺すという事。
「フェイトの事を無視するって事も出来ただろうに、お前はどんな形であれフェイトに関心を持ちたかった。『想って』やりたかった。アリシアを生き返らせるなんていう行き過ぎた愛ゆえに、フェイトには行き過ぎた憎しみを。は~あ、なんて不器用、てか馬鹿?」
「………御託を」
「そりゃ自分勝手な言い分にもなんよ。人の本心なんて誰彼に容易く読み解かれる訳ねーんだからよ。自分でさえ怪しいもんだ。だから、これは俺の独断と偏見と少しの悪意による見解。けどよ、全てが全て的外れとは思えねーんじゃねぇの?」
ババアは俺の御託を聞いて、さきの喧嘩で負った傷の痛み以外の要因で顔を歪ませた。それは、俺が馬鹿なことを言ったことが忌々しいからか、それとも図星だからか。
真意は当人にしか分からないが…………いや、たぶん当人にも分かっていないだろうな。
だから俺は念を押すように言ってやる。
決め付けるように言ってやる。
「気づけよ。手遅れになる前に。取り返しの付かなくなる前に」
手に持っていたタバコの先をプレシアに向ける。
「さもねーと、あとに残んのはクソつまんねー現実だけだぜ?てか、伊達に年とってねーんならよ、胸糞悪い後悔くらい経験した事あんだろうが」
瞬間、プレシアはハッと目を見開き、その顔が戸惑いの色に染まった。
どうやらこれはビンゴらしい。まあそりゃ人間生きてりゃ後悔の一つや二つはするもんだしな。俺なんてそりゃもう人様にはお聞かせ出来ないような黒歴史のオンパレードだし。
「────わ、私は」
それでも、やはりプレシアは頑固者のようだ。何か振り払うように頭を振った。
「………ふん。勝手にそう思い込んでおけばいいわ。けど、どう言われ様と否は否!その人形を想うですって?馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、あなた何時その馬鹿をも通り越したの?」
ひっでぇ言いようだ。綺麗な女じゃなかったら、整形でも効かないくらい顔グチャグチャにしてやんぞ?
少し呆れながらそう思った次の瞬間、俺はハッとなった。
(……………あん?待て待て俺。その言い方じゃあ、まるで俺はプレシアをグチャグチャにしないように聞こえんじゃねーか。あんなボコボコにされて、こんな暴言吐かれて?)
さらには自分のロリーズに対する胸の内をぶっちゃけてまでババアを諭そううとするなんて…………。
わぁ~お。こっりゃあヒデェや。おいおい俺ちゃんよぉ、何時からそんな丸くなった?いつの間に無駄な優しさを身に付けた?ウケるし。
俺は思わず笑い声を上げた。
「最ッ高だ。ああ、お前の言う通りだよババア。俺ぁ何やってんだ?ホント、いつの間にか馬鹿をも通り越してたみてぇだわ。紳士気取りすぎた。何一丁前にご高説垂れてんだろうな俺は。しかも、『是とすんのも否とすんのも勝手』?くはっ!我ながらなんだその甘っちょろい考え。相手が否と言おうが、俺が是と言やぁ是。それが聞けねぇようなら力ずくでそうさせてきたってのに」
勿論、気に入った奴の意見なら俺もきちんと受け入れる。だが、気に入らねぇ奴の意見など聞く耳持たんかった。それが今回はどうだ?ガキの為とはいえ、ババアに対してこの柔らかい対応。俺に上等ぶっこいた奴なのに、その体に負っているのは俺が傷つけたモンじゃない。
俺は何やってんだ?
そうじゃないだろう?俺は────
「言葉無用、拳上等!話し合い不要、喧嘩歓迎!」
こうだろう!
徐に騎士甲冑を身に纏い、右手に杖を出した。
「俺ぁフリーターで、大学出だけど頭悪ぃかんよぉ。結局最後に残んのは……いや、最初からこれしかねーのよ。言葉で人情に訴えるとか無理。拳で体に分からせる方が楽で性にあってんぜ。さっきまでの言葉なしな。この拳で言う事聞かせてやる」
「…………はぁ、どうやら元の忌々しい馬鹿が帰ってきたようね」
やれやれとため息を付くプレシアだが、その顔は少しだけ笑っていた。だが、やはり体は思うように動かないようで、俺が戦闘態勢に入ったのにも関わらず向こうは立っているので精一杯のようだ。
けど、俺はもうンな事ぁ知ったこっちゃねー。ぶん殴って、あいつの中にある母性を認めさせてやる!
そんな手段で本当に出来るのか、と言われれば、出来る、と答えよう。つうか、俺がやると言えばやる!力で救ってやろうじゃねーの!
さあ、喧嘩だ喧───
「あ、主、いつ甲冑を作られたのですか!?」
「人がこれから景気良くパーティーかまそうって時に何ぶっこいてんだ!?」
ここぞという場面。誰もが今から心躍る喧嘩が待っていると期待するこの場面で!シグナムッ!なんてノンエアリーダー!場の空気を全く読まないその発言はとても騎士じゃねーぞ!
俺は思わず喧嘩相手のプレシアから目を背け、シグナムの方に目をやった。
「果てしなくどうでもいい質問を今する奴があるか!」
「ずりーぞ!あたしにも作れよ!」
「ロリブルータス、お前もか!?」
しかし、2人のみならず理とシャマルも驚きと不機嫌な顔でこちらを見ていた。
一体なんなんだ?
「ウザってぇ!知ったことかよ!てか、テメェで勝手に好きなように作りゃいいだろ」
「ハヤちゃんにデザインして欲しいという騎士心を分かってくださいよぉ!」
分かっかよそんな心。犬にでも食わせとけ。
俺は呆れかえり、もう無視しちまおうと思ったが、次の理の発言でそうは問屋が卸さなくなった。
「まあ、主の事ですから、どうせ挙がる候補は見当が付きますけど。『ナース』『体操着』『制服』『メイド』、そんなところでしょう。で、差し詰め私は『ランドセル背負った小学生コス』あたりですか?ホント、好きですね」
「……ンだと?」
理のその発言は俺の逆鱗に触れた。それはもう、プレシアに向ける怒りなど比ではない。
今、この場がどこかなども忘れて俺は理をにらめ付けた。
「理、よぉ理ぃ~、今なんつった?なんつったよコラ?オイ、てめぇそれ本気で言ってんのか?それともおふざけか?どっちにしろ殺すぞ?マジで殺しちまうぞええオイ!?」
「へ………あ、す、すみません」
「すみませんだぁ?この世にゃよぉ、言っていい冗談と言ったら殺される冗談があんだよ!ごめんなさいですんだらポリ公はいらねーんだよ!!」
俺のその返答が予想外だったのか、理はただただ呆けた。だが、その俺の表情がマジで怒ってる事を悟ったのか、コイツは初めて普通に謝った。
また、他の騎士共も同じように大きく驚いている。
「ナース?メイド?…………けっ、不愉快だ。次、そんな事ぬかしたらヤキ入れてやっからな」
「ど、どうしたんですハヤちゃん?なんからしくないですよ?」
「そ、そうだぜ。お前ってそういうの好きなんじゃねぇの?」
「今までの生活での言動を顧みるに、私もてっきりそのような趣味も持っているものかと………」
コスプレ。
はん!ふざけるな。誰がそんなもんを好きになるか。反吐が出る!
「あんな詐欺を俺は断じて認めん!何度、騙された事か!」
「「「「は?」」」」
一同がぽかんとした表情になったが、俺は構わず続ける。
「高校生とか銘打ってるクセに、出てくるやつは明らかに30前後の中途半端ババア!ナース、メイドにしたって、結局最後は全部脱ぎやがって題材台無し!体操着?ブルマ?年増がそんなもん着るな!それか、せめて童顔の奴使え!チチがデカけりゃいいってもんじゃねーんだよ!つうかそりゃデカいじゃなくて垂れてんだよ!爆乳とデブを一緒くたに枠組みすんなや!なにより、なんでコスプレ物には可愛い奴が少ない!そこが一番不満だ!衣装で不細工ヅラ誤魔化そうとしてんじゃねーぞ!監督出てこいやオラァ!!」
「「「「………………」」」」
俺の熱き主張は、しかし、皆には通じなかったようだ。フェイトは訳が分からないようで首を傾げ、他の奴らからは壮絶に冷たい視線が突き刺さってくる。
だが、そんな視線など、俺の中学生の苦い1ページに比べたら蚊ほども効かん!その1ページのお陰で、今でもコスプレ物は一番の苦手ジャンルなんだよ!
「ええっと、なんと言うか………うん、やっぱりハヤちゃんらしいです」
「この場合、その正直さやこだわりを褒めるべきなのだろうか………」
「シグナム、これは普通に軽蔑していい」
「ですね。女性に向けて主張するべき事ではありません。謝って損しました」
どうでもいいけど、フェイトは兎も角、何でお前らも俺の言った事が分かんだよ。俺の居ない間、一体どこでどんなどれだけの情報を仕入れてんだ?つか、意外に冷静に受け止めてんなぁ。
まあ、ンな事ぁどうでもいいか。こいつらに人間の法律が適用する訳ねぇし。18禁情報をどれだけ仕入れたとしても、自己責任で俺の知ったこっちゃねー。スナッフでもスカトロでも何でも見てろ……………いや、流石にそれは俺も止めるか。
「何とでも言えや。兎に角、俺ぁそんなクソッタレデザインな甲冑は作らねーよ。仮に作るなら、デザインはそうだな────────」
ふと、そんな時だった。
『ドサッ』と、何か大きな物が地に倒れ付すような音が聞こえた。
『母さん』と、悲痛な少女の叫びが聞こえた。
思わずその音の発生源に目を向ければ、そこには床に倒れているババアと、そのババアに寄り添っている涙目のガキが一人。
大方の予想はつく。
流石のババアも限界だったのだろう。
「はぁ………また、喧嘩はお預けか」
───────しかし、今思えば。これが、ババアと喧嘩する最後の機会だったのだ。この先、未来、俺はババアと2度と喧嘩をする事はないのだった。
あ、勿論、ババアは生きてるよ?ついでに口喧嘩ならしょっちゅうするよ?でも、ステゴロはしなくなったのよ。まっ、それが分かってくるのはもうちょい未来の話だな。